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生産性指標と経営成果を考える (後編)

4.経営成果に繋げる

 経営陣からよく出る不満に、『総合効率が上がったことは分かるが、経営成果に顕れてこないのは何故か、経営成果とリンクする改革にして欲しい』といった内容のものがあるのも事実です。 「総合効率」とは、簡単に言えば、人的生産能力の増大を意味しているため、いくら生産能力が上がったところで、全体工数が変わらず、生じた余力がムダに消費されていたら経営成果に顕れるはずがありません。
 多くの工場の自主活動で、このような視点が欠落しているケースが多々見受けられます。経営成果とは、余力の有効活用であり、より価値の高い業務、作業への工数転換、すなわち「活人」の延長線上にある至極当然な帰結であることを忘れてはならないと思います。
 まとめると、経営成果に繋げる活人策とは、

 (1) 他工程・部門への生産応援・支援
 (2) 全社改革プロジェクトへの参加
    例えば、工場全体在庫削減、レイアウト見直し、システム再構築等のプロジェクト
 (3) 製品開発組織、営業支援強化
 (4) 資材・部材・物流コストダウン時限活動
 (5) 社内起業、外販企画

 等であり、生産性向上活動と並行して進めるべき課題となっています。


5.デフレ期とインフレ期の対応

 生産性の向上活動は、いかなる時代、部門でも常時停滞することなく進めなければならない改革です。 今までの議論では、生産性を決定する二大要素は、「能力」と「効率」でしたが、1990年以前の日本はインフレ期であり、生産性向上活動の主な目的は、生産能力の増強にあったため業務効率よりも、むしろ単位時間当たり、または単位工数当たりの生産数量増大を競ってきました。 このような時期の活動としては、やむを得ない面があったものの、やはり業務効率の悪化を軽視した弊害を思い出すべきでしょう。設備投資や技術革新により、工場の生産能力が大幅に増え、生産性が向上したものの一方で業務効率はさほど改善されてはいなかったと推定されます。
 常に最小限の工数で業務を遂行する能力と、弛みのない改善・改革活動が是非とも必要です。幸いにもここ20年以上にも及ぶデフレの影響で、忘れられていた業務効率向上の重要さに気づき、間接スタッフ部門、開発設計部門、営業部門にも改革が波及していることは、 むしろ好機と捉えるべきであり、全く同じ二次元生産性指標が使えることを強調したいと思います。
 また、最近気づかされるのは、改革の考え方を選択することの重要性です。デフレ期にあっては、インフレ期のような生産効率を上げるための積極的な分社化、外注化、下請負化は逆効果です。 このような施策が効果を発揮するのは受注量、生産量が拡大する保証があってのことです。 デフレ期では、生産量が漸減する中、業務効率を上げなければならず、余力を用いた内製化、競争力を失った製造子会社の統合、外注していた開発や情報システム関連作業の自前化などが、中長期的に価値のある活人対策であり、企業中枢の孤立化を回避する正しい戦略です。


6.改革の陥穽

 生産性の二大要素である、能力、効率も、きわめてやっかいなことに短期的な変化には敏感であるのに対して、長期的に少しずつ減退して行く傾向を掴むことが困難です。 下図に示すように、数年、数十年かけて落ちていく人的能力、効率はあたかも「茹で蛙現象」の例えの如く、気づいた頃にはリストラ以外の方法が見つからない等の手遅れになってしまうことも充分あり得ます。
 さすれば、本当の改革とは、不定期的に行うものではなく、理論工数を基準として、二次元生産性指標に代表されるような生産性のマネジメントを全部門・各工程で常時行っている活動状態を指すのでなければなりません。下図で示すように生産性が長期的に観測されている企業では、横軸に時間スケールを取らず、二次元生産性指標グラフの中に、座標位置の推移を直接プロットすることで、生産性増減の変化点を明確に認識するようにしています。

二次元生産性指標のプロット例


7.経営者の仕事

 経営者は日々、厳しい環境に晒されており、机上の理論は知っていても実際の経営経験に乏しいコンサルタントが特殊な経営の機微を完璧にアドバイスできるものではありません。
 しかしながら、多数のものづくり企業の改革を経験し、様々な場面を経験してきた熟練コンサルタントが、悩みを持つ経営者の何らかの力になっているのも、また事実です。 経営者の皆様には、常に改革に前向きに取り組まれ、時として周囲に迎合することなく、自ら改革の旗手を努めていただきたく願っています。


おわりに

 生産性の指標化とその応用について考えてきましたが、昨今の世界情勢を見るとき、日本の生産性を憂えない訳には行きません。
 下図は、日本とアメリカの二次元生産性指標の30年分をプロットしたもので、ここでは、生産性の国際比較に則って、「生産性=GDP/総人口」としています。
 今までの議論に従って、上記生産性を、能力と効率の積で定義してみると、

 能力=GDP/就業人口
 効率=就業人口/総人口

 生産性=(GDP/就業人口)×(就業人口/総人口)
 となります。

 図を見ると分かるように、日本の生産性全体はアメリカほど伸張していませんが、効率が0.5を越えて成長し、社会全体が効率の良い発展をしたことが分かります。
 他の事例では、シンガポールやオーストラリアなどのGDP先進国の効率も、やはり0.5を越えて右肩上がりに生産性が成長しているのですが、それに対しアメリカでは、 過去30年で生産性が4倍以上に拡大したものの、効率が0.5を越えることが無いばかりか、効率を犠牲にしながら、能力だけが異常に成長していることがわかります。
 これは、国内のGDPが増えても国民全体の余剰労働力を吸収するに至らず、富が一部の富裕層に偏在していることを傍証しています。アメリカ社会全体の効率の悪さは、ギリシャ化しつつあると言っても過言ではありません。
 再び日本に目を向けるなら、課題はデフレの脱却にあるのは間違いありません。ここ20年の生産性は、図からもはっきりと頭打ちとなっており、遂に効率も0.5を割り込み始めました。これは危険な兆候と言えます。 日本経済の強みは、ものづくりが根幹であり、すべての企業がこの困難な時代を乗り越え、再び国民の生産性向上と飛躍に貢献していただきたいと願うばかりです。

各国の過去30年での生産性指標推移

以上


<<執 筆>> 株式会社テクノ経営総合研究所  長沢 亮

大手家電PCメーカー、化学メーカーの技術系要職を経て、弊社コンサルタントとなる。 現在、弊社常務執行役員を務める傍ら、製造現場改善、生産管理仕組み構築、設計・間接部門改革などの幅広いコンサルティング分野で活躍中。2012年1月、弊社書籍「ものづくり改革 成功の法則」(日経BP社出版)を執筆・監修し、以降今日までの間、月刊誌「日経ものづくり」にて製造コースコラム連載やセミナー講師を担当する等、多方面から高い評価を得ている。

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