「働き方改革」の目的は、誰もが職場・家庭・地域で活躍できる「一億総活躍社会」の実現にあるとされています。その具体的内容は、長時間労働の是正やフレックスタイム制の導入、非正規雇用者の処遇改善などを通じて、働く側の立場で労働条件の改革を進めること。少子高齢化が進む中、女性や高齢者にも働きやすい多様な働き方ができる職場づくりをはかることです。
そして「働き方改革」のもう一つの視点が、職場の業務効率や生産性を高めることで労働時間を短縮し、従業員のモチベーション向上により企業価値を高めることです。ただ課題は企業としてそれにどう取り組むべきか。その着眼点についてモノづくり改革の第一線で活躍するテクノ経営総合研究所のコンサルタントが語ります。

1.働き方改革をどうとらえるか?

藤澤:それでは、対談を始めさせて頂きます。どうぞ宜しくお願い致します。
今回の対談のテーマは、「働き方改革」です。「働き方改革」は、今や一大キーワードとなっています。とは言え、人によって捉え方が異なるキーワードでもあります。残業や長時間労働の規制、仕事の質を上げる、BCP(事業継続計画)等々、人や立場やよって重要視するポイントは様々です。まず1つ目の質問ですが、そもそも働き方改革とは何か、どんな課題に、どう取り組んで、何を実現していくべきなのでしょうか。

沢柳:人生100年の時代といわれますが、私自身も最後に良かったなといえる人生をおくりたいと思っています。そういう意味で働き方改革は、その実現をはかる一つの手段であると考えています。
国の方針だからではなく、一企業人として、より充実した人生をおくるために自分自身のワークスタイルを考えてみる。そこから仕事の生産性を上げる発想が生まれるのではないでしょうか。

平井:働き方改革は広義と狭義の両面で捉えることができると思います。
まず広義的には、労働時間の適正化や生産性向上をはかる。女性や高齢者にも働きやすい職場づくりを進め、労働人口の減少に対処しようとする視点です。これに対し、狭義的に捉えた働き方改革には「日本人の働き方を見直す」という意味があるのではないでしょうか。
たとえば製造業の現場では努力や根性に依存する部分が多々見られます。一例を挙げれば営業部門から急な受注がきた場合でも、現場では何とかやり繰りをして臨機応変に対応せざるを得ません。休日出勤や残業をしてでも状況を乗り切る、それは確かに日本人が持つ素晴らしい資質であり、それが現場力の強さと賞賛されてきた一面もあります。
しかし、これは海外の企業ではありえないことで、やはり現場の生産能力に配慮した受注オーダーを取ることがルールです。ところが日本では「とりあえず受注すれば現場が何とかするだろう」という意識が強い。現場対応力の高さが部門間の連携を阻害して、全体を見る仕組みが弱くなるという逆説的な状況に陥っている。現場にばかりしわ寄せが来る結果を招いています。現場だけの努力で残業を減らすという発想には限界があります。第一線の現場に対する依存を封印して、もっと上流側の視点から働き方改革を進めることが必要だと感じています。

働き方改革(平井常務)

常務執行役員 西日本事業部
副事業部長 平井 康之コンサルタント

2.クライアントからの働き方改革に対するご要望は?

藤澤:皆さんのコンサルティング先の各企業では、働き方改革を実際どのように進めていらっしゃるのでしょうか。クライアントからのご要望やよくある質問等、お答えできる範囲で紹介をお願いします。

沢柳:私がお手伝いしている菓子メーカー様では、受注部門の残業削減に向けた取り組みを進めています。その企業では、これまで翌日出荷分の締切りを17時に設定していました。ところがお客様からの受注が締切り時刻の前後に集中し、残業が日常の風景となっていました。
その頃ちょうど宅配便の料金改正がニュースになっていた時期であり、それをきっかけにその企業では受注締切りを17時から12時に変更することにしました。数百社の取引先にも通達を出してご理解いただき実施した結果、今期は12時締切りで対応できるようになり、この繁忙期も残業ゼロで進んでいます。今までの当たり前を見直すことで効果が出た事例です。

平井:現場の率直な意見としては「休め、休めというが休めない」という状況です。残業を減らすことも、しっかりとした仕組みが整っていないためできない。これをどう変えるかが課題です。
沢柳さんの話にあったように、会社全体が変わらないと本当に休むなんてことはできないし、また休みを取るとセールス面での機会損失を起こし競争力が損なわれるという不安もあります。だから現時点では残業規制という捉え方が強く、働き方改革についても「本当に他の会社ではやっているのですか」という声が多いです。

長沢:私の場合も、ほとんどの企業が残業削減と紐付けて考えておられます。
たとえば「プレミアムフライデー」なども定時退社日という概念で受け止められています。定時退社日を増やすことで残業が減っているとする、そんなイメージで考えているところがほとんどだと思います。職場の根本的な仕組みをガラッと変えて、残業をゼロにしようという企業はまだまだ少ないようです。

3.どのような視点・アプローチで働き方改革を進めるか

藤澤:残業ゼロや職場改革とは言っても、掛け声だけではその実現は難しいのが実際です。残業を美徳と考える風土、顧客からの突発的な要望に対応するために行う非定常業務等、改革を阻害するハードルが多々あります。そうした現実にどうアプローチしていますか。

沢柳:先ほどの菓子メーカー様の製造部門でも生産性向上に取り組み、ロス半減の目標が達成され現場の残業も減りました。また製造工程の改善で多品種をムダなく製造できるようになりました。
製造部門の強みは、このような具体的なロス削減の共通目標を掲げて取り組みやすいことです。
それに対して間接部門の業務は個人による仕事量の差があり、一概に比較できない場合があります。間接部門の場合は特に、共有化できる定量的な目標値の設定がポイントだと思います。
また残業が減らない理由には、従業員の個人的な言い分もあります。つまり、早く帰りたくない人たちがいるわけです。実際に残業代を生活費にしているという人や、早く帰ってもやることがないという人がいます。それなら会社で残業していたほうが良いということになります。
そういった点では、早く帰って何かをやる、ライフワークに取り組むなど、個人のモチベーションを高める仕掛けを考えることも必要ではないでしょうか。それが働き方改革を加速させるポイントではないかと思います。

平井:私は生産管理面の強化が絶対に必要だと思っています。単純にいえば作業者を増やせば残業も減るわけですが、実際にはそれも人手不足で難しい。そこで現状の人員でやるしかないわけですが、しかし現場にまったく余力がないわけではありません。たとえば部門間の繁閑差などを把握して負荷の平準化をはかることはできます。
しっかり時間管理をできる生産管理部門であれば、仕事における問題点を見える化し解消していくような仕組みが出来上がるはずです。残業を削減するために計算と理詰めで解決する部分を強化する必要があるのです。私がコンサルティングで取り組んでいるのがまさにその部分です。これはVPMの考え方にも通じるでしょうが、基準時間の設定と負荷投入調整ですね。ここにつながっていくのではないかと思います。

働き方改革(長沢執行役員)

執行役員 技術開発室
室長 長沢 亮コンサルタント
長沢:私は働き方改革には、難易度の異なる2つのアプローチ方法があると考えています。
まず難易度の低いアプローチとは、ムダ・ムラ・ムリ削減により残業を減らすことです。これは従来型の改善であり、即効性も高いのですが手法としての限界に達しているのも事実です。
また、個々の改善が足枷となって全体の生産性を落としてしまうこともあります。いわゆる改善活動が自己目的化したケースです。
たとえば減らない残業の原因を追究してみると、なんと社内で取り組んでいるジャスト・イン・タイムが原因だったという事例もあります。ある企業では、ジャスト・イン・タイムに間に合わせるため、通常なら1人でできる生産管理システムに10名近くが手を煩わせていました。
生産計画の内示とその差異が瞬時に伝わるような仕組みがあってこそジャスト・イン・タイムが成り立つわけですが、自動車業界など一部を除き、下請け会社や部品メーカーとのデータベース共有化が完備されている企業は日本には多くありません。これらの隠れたムダ、この部分をもっと合理化していかねばならないと思います。

もう一つの実現が難しく、ハードルが高い課題が生涯教育についてです。この部分が日本ではあまり進んでいません。たとえば5時の定時退社後に何をするか。ライフワークや趣味、目的を持った勉強など、人生の半分をかけて行う生涯教育の必要性が認識されていないのです。だから会社から定時で帰れといわれても、沢柳さんが話されたように、遊びに出歩いて余計なお金を使うくらいなら、会社にいたほうがいいやと感じるのは当然です。
ただ学校教育で「人づくり革命」を進めるという政府方針ですと、その実現には10年や20年はかかります。だからこれは企業のなかでも社員の生涯教育を支援する制度づくりを行うべき。入社時から、会社以外のライフワークについて考えさせる教育の機会が絶対に必要だと思います。

4.まずは何から始めるべきか

藤澤:続いて、働き方改革を進めるステップのポイントについてお伺いします。意識、業務プロセス、管理等の視点からポイントや着眼点をお話ください。

働き方改革(沢柳カンパニー長)

みらいカンパニー
カンパニー長 沢柳 知治コンサルタント
沢柳:これは働き方改革だけの話ではありませんが、どんな活動でも、まず、その目的を各メンバーにブレークダウンすることが大切です。コンサルティングでは、活動を通じてどうなりたいか、職場をどう変えたいか、どんな会社にしたいかという3つの問いかけをお互いに考えて発表していただくようにしています。それを通じて、自分自身の働き方を見つめなおすことの大切さや目的意識を持っていただけると思いますし、それが動機付けとなって、実際の仕事のムダや手戻りなどを分析してみようという行動につながっていきます。
ある食品メーカーのパートさんが多い職場では、子供の面倒や家事や料理があるため残業をしたくないという要望が出ました。そこで生産性を上げて全員で定時に帰ろうという目標を掲げて活動を始めました。効率化により各職場の余力を作って、人手の足らないところを応援する体制を組んだのです。その結果、残業ゼロが実現できたのですが、やはり、まずなにごとも目的をしっかり抱かせることが重要です。
先ほどの長沢さんのお話にもありましたが、目先の話ではなく、将来的に自分の家族を介護しなければならない等、先を見据えて残業をなくすための効率化を今から進める。そうした意識を持ってもらうことが大切だと思います。

平井:おそらく企業により、どこから着手するかは変わると思いますが、総じていうならば、やはり先ほどからの話に出ているような残業削減、そして有給休暇の消化、これらを半ば強制的に進めるということになると思います。
ヨーロッパなどを見ますと、有給休暇取得の義務化や残業を禁止することが法律に定められています。この強制力があるからこそ企業はそれに対応する仕組みを作らなければなりません。ところが日本ではその部分が弱いから、各人の根性や努力でカバーしていくことになるわけです。
しかし、これは法律の改正を待つ前に、まず自社でそれに代わる強制力を発動させていくしかありません。ただ、あまりにもやりすぎると収益が悪化する可能性があるので、そこは沢柳さんが話されたように改善とのセットで無理なく進めることが必要です。1年後、2年後のあるべき姿を目指して長時間労働を減らす取り組みをするべきだと思います。

長沢:まず身近なところから始めようというのが私の考え方です。定時に帰れない理由の多くに「自分にしかこの仕事ができないからやむを得ない」というものがあります。
私は、まずその理由を潰してしまいましょうというところから始めるようにしています。たとえば技術の伝承の仕組みづくりにより、自分以外に少なくとも数名の社員が同じ仕事を同レベルでできる状態をつくることです。この環境づくりにより時々ムリがあっても、他の人に替わって貰うとか、「明日休むからよろしく」といったコミュニケーションがとれる職場環境になってきます。また、一人当たりの負荷が減少することは間違いありません。
いま日本で働き方改革ができない弊害の一つ。それは社内のうつ病等の発生率が高いことです。これは特定の人に負荷が一度にかかってしまっているところにも原因があるといわれます。精神的な健康面でも、管理者や間接部門の疲労の平準化を進めることは重要です。この点に関して、みなさんはどう思われますか。

平井:私もまったくの同感です。おそらく就業時間を抑制するには最終的にはそこにたどり着くことが重要です。上流側での仕事の平準化とか、多能工化の推進や仕事の難度を下げる設計や開発部門の強化など、だれでもできる仕事の与え方。そういうところに最終的には到達します。個人の技能に頼るところが残っては本当の働き方改革は進まない。長沢さんの話はよくわかります。

長沢:20年くらい前、今よりも職場に人が多かった頃、それを生きがいや誇りにしていた時代があるのですね。自分にしかできない仕事があるよと。それがどうやら団塊の世代が去っていくなかで考え方も世の中の方向性も変わってきたと思うのですが、まだそこにどうもそこに出遅れている企業がかなり多い。それが実感ですね。

沢柳:重複になりますが、垂直立ち上げや即戦力化をはかる仕事の回し方、誰もが同じ品質でできる業務プロセスを構築していかねばなりません。
意識面でも残業で疲労困憊になって夜遅く帰宅し、眠いのに早朝に起きて出社するというのでは疲弊してしまいます。また仕事の質を高めるためにインプットする時間がまったくありません。
たとえばテレビ番組や新聞・雑誌でもいいですし、買い物や街の風景などから仕事のヒントを得るような余裕が必要です。日常生活のなかで気づきをもたらすインプットがないと、自分たちの改善を見直すとか、仕事に結びつくクリエイティブなアイデアは出てこないと思います。
私が指導している企業でも、ある若い社員が『ザ・ゴール』の漫画版を読み出しました。それまではあまり読まなかったジャンルの本ですが、そこから何かヒントを得ようという意識を持ってくれるようになりました。ゆとりを持って勉強する時間をつくる。それは今までの仕事を見つめなおす良いサイクルになると思います。

平井:これは賛否両論があると思いますが、私は標準時間により負荷の山積みと投入の仕組みをつくらない限り働き方改革はありえないと考えています。
たとえば欧米などでは、効率の管理が徹底されています。一人ひとりに与えられた仕事量の予測と実績をもとに評価する方法です。ところが日本では目先の納期に追われていて、納期に間に合ったかどうかという軸で管理されている。しかし、これでは個人の意識は上がらないと思います。
やはり一人ひとりの時間評価を正確に行い、それにより問題が顕在化されることで、それを解消しようという意識に変えていくことが重要です。
先ほど長沢さんがジャスト・イン・タイムの考え方に対して異議を唱えましたが、私も同感で日本では同期生産に振り回された感がある。自動車業界だけが唯一できる受注段階での負荷の平準化、つまりジャスト・イン・タイムを形だけまねても生産性の悪化や負荷残業を増やす結果に終わります。ここは生産管理面をもう少し強化して、やはりVPMのような時間管理の仕組みにより、最上流からの平準化をしていかないと残業時間は減らせないと思います。

働き方改革(藤澤副カンパニー長)

東北カンパニー
副カンパニー長 藤澤 俊明コンサルタント
長沢:私もまったく同感です。生産性数値の見える化は基本的な改善のスタートになります。
それに加えて、私が最近取り組んでいるのは、「製品設計から見直す」という考え方です。
たとえば営業担当が「お客様は神様」的な発想で、顧客からのカスタマイズ受注を引受けることがよくあります。たとえば特殊なラベルを貼付するなど些細な変更が非常に多いわけです。それらの要求が積み重なると、たった一種類の標準品で出荷できるものが、簡単に百品種や二百品種となってきます。そこで現場がものすごく負担を強いられているという状況が見られるのです。
私はそこを営業部門も含め製品設計の段階から変えていく全社的プロジェクトを支援しています。
安易な受注をするなということでなく、なるべくならスタンダードな標準品で出荷できるような関係に近づけていく、それによって品種の数を減らして負担を軽減していこうという考え方を仕掛けるようにしています。

平井:いまの意見に関しては、ラインアップ的な発想を取り入れることで、より標準化が進むであろうと私も考えています。それをやらないとおそらくこれだけ現場の作業者が入れ替わるなかで特殊仕様に対応できなくなる。やはり上流側の改革が鍵になると私も思います。

藤澤:まだまだお話を聞きたいことが沢山あるのですが、本日は以上とさせて頂きます。本日はどうもありがとうございました。

対談日:2017年12月2日(土)

対談者
常務執行役員 西日本事業部 副事業部長 平井 康之(写真中央)
執行役員 技術開発室 室長 長沢 亮(テレビ会議システムにて参加)
みらいカンパニー カンパニー長 沢柳 知治(写真左)

ファシリテーター
東北カンパニー 副カンパニー長 藤澤 俊明(写真右)

働き方改革対談

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