ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

ASAP2017vol_4

 海外投資先として関心が高まるベトナムは将来的にも大きな可能性を持った国です。その人口はA S E A N で3位の約9,000万人。国民の平均年齢28歳という若さ、年間100万人規模で人口が増えています。そして近年の5~8%という高い経済成長に伴い消費市場の拡大が続いています。国際銀行の調査(2016年)でも、有望事業展開先としてベトナムの順位が、インド・中国・インドネシアに次ぐ4位に上昇してきました。 ただ一方でベトナムでも賃金の上昇が年々続いており、これが今後の工場運営における克服すべき課題になっています。また管理職クラスの採用が極めて困難な状況であり、社内での業務革新を主導できるローカル管理職の育成が急務となっています。 ローカル人材の育成において、社内の改善活動は非常に有効です。ただ大切なことは活動の目的を明確化し、彼らにわかりやすく説明することです。 たとえば5S活動を展開されている企業は多いと思いますが、そのルールは明確に決まっているでしょうか。5S=美化運動でしかない、口伝えだけでルールが文書化されていないといった工場が多いように感じます。しかし、ルールが明確でないと「しつけ」はできません。掲示物も適当に貼るのではなく、「何を掲示すればよいか」考えさせていくことが必要です。手段は教えられているが目的を忘れているのでは本末転倒です。 ローカル従業員の皆さんは、日本人スタッフの行動をよく観察しているものです。たとえば、うっかりと横断歩道を渡るのを忘れる場合があるとします。すると彼らには「日本人もルールを守らないのだから守らなくても大丈夫」と受け取られてしまいます。ルール違反を注意・指導する風土をどうつくるか。守っても守らなくてもよいルールでは意味がありません。 「ベトナムは暑いから保護具をつけてくれない」と嘆く前に、まず日本人が率先垂範することが大切です。 これはベトナムに限った話ではありませんが、海外工場では、ローカル人材の仕事に対する感性が日本人とは大きく異なることを認識すべきです。指示・命令の出し方にもローカル人材を配慮した工夫が必要になってきます。 いわゆる文化の壁を乗り越えるには、彼らの感性を理解して基本的なことから説明する必要があります。特に「なぜ点検しなければならないのか」「どういうアクシデントが起きるか」など、これらの意味を理解してもらうことが大切です。 その際、大切なことは相手の気づきを「ほめる」ことです。一度や二度の注意では理解してもらえず、日本と違って改まらない場合が多いと思います。 しかし、海外では厳しく叱ることはマイナスの結果を招きます。特にベトナム人の場合は叱られることを恐れて萎縮し、逆にミスを隠す体質が生まれがちです。 「ほめる」ことが人材育成の大原則です。「叱り上手はいるが、ほめ上手は少ない」ようで、ほめると調子に乗るのではないかという人もいますが、どうほめるべきかを考えることが必要です。 文化や言葉の違いはあるのですが「ただ命令すればヒトは動く」という考えの企業は衰退すると思います。いかに納得させて動かすかを考えること、ただ単にメールだけで済ますのではなく、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを大切にしたいものです。 そこで重要なポイントが、優秀な通訳者を育てることです。これは英語に堪能なスタッフでもよいのですが、言葉の細かなニュアンスを従業員に伝えられる人であるべきです。できれば改善活動の事務局として、通訳者も改善のイロハやストーリーを学びながら、力を発揮させることができればベストです。伝えたいことをベトナム語に落としこむときに、その思いを咀嚼して伝えていける、こうした人材を育てていくことが非常に重要です。ベトナム工場の課題コニュニケーションの重要性なぜルールが守られないかローカル人材育成によるベトナム工場の体質強化PROFILE大手電子部品メーカーにて、生産設備の設計・開発、改善プロジェクトのリーダー、工場現場の管理者を経験し、「モノづくり」のノウハウを習得。その後、現職に就き、「人づくり」を基盤とした工場体質の強化を図り、一過性に終わらせない自主・自律体制を構築させた改善・改革活動を海外を含めて強力に実践推進している。株式会社テクノ経営総合研究所 グローバルコンサルタント井 原 昌 志い はら   しょう じ特集27 ASAP