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概要

ASAP2019vol_1Re

 どうすれば抜本的な改革ができるのか。実際の事例からそのポイントを紹介したい。■ 抱えていた課題 電機関連装置を製造するA社のある部門は、新製品開発の手戻りが多く、開発日程の遅れと目標コスト未達の日常的な慢性化により危機的な経営状況にあった。営業企画→生産技術→製造と直列的に仕事が進められ、情報とモノが流れる運営により、すべての設計出図の完了後にデザインレビューが実施される状態であった。その結果、後工程の生産技術・製造段階で問題が発生し非常に大きな手戻りになっていた。 A社では、設計出図を待って、生産技術、製造が工程設計や製造方法を検討する姿勢であり、実際にやってみないとわからないという感覚も意識としてあった。実際にモノを試作して検証する流れで進めていたため、新製品開発の立ち上げに計画の1.5~2倍の時間を要し、トラブルが慢性化し、設計変更も多く、利益と納期未達となる負のスパイラルが常態化していた。 設計・生産技術・製造の各部門間の壁がいつの間にか厚くなり他責に対する批判が多く現れていた。業績が低迷すると、どうしても他人や他部門に対する責任押しつけの意見が上がりやすくなる。これはどの会社も共通していると思う。■ 改革の進め方 改革のポイントはフロントローディングとコンカレントエンジニアリング。この二つの切り口でシステム構築を推進した。構想設計の段階で要求品質に対する設計特性、機能とコスト及び達成手段となる機構展開の追求を体系的に進める。この段階で営業・設計・品証・生技・製造部門の協働により、最上流の段階で中身の濃い構想設計と仕様検討のための活発なデザインレビューが実施できる仕組みづくりを展開した。 詳細設計においても、全部を出図して渡すのではではなく、ブロック単位の分割出図をもとに設計~製造の各部門との3次元データによるデザインレビューを実施した後で出図する流れを完成させ、ほぼ手戻りが発生しない仕組みが構築できた。 良い影響として、設計部門では機能とコスト視点から構想設計が進められ、生産技術・製造部門からは加工性・組立性を考慮した製造し易い形状やコストダウンの提案、品証からはクレーム未然防止の提案等、部門間での情報共有化を通じたデザインレビューが推進できるようになったこと。そして、設計と関連部門との壁が依然と比べ格段に低くなり、活発な意見交換により新製品の垂直立ち上げに関するノウハウが蓄積されるようになったことが挙げられる。 この改革は、製造工程を熟知していない設計技術者に新たな視点や知恵を提供し、関連部門連携強化のデザインレビューにより各部門が自責で課題解決に取り組むという動機付け効果が働き、モチベーションアップとやる気を引き出すプラスのスパイラルアップに変化していった。 目標品質・目標納期・目標コスト達成率の3つの指標が年々向上し、目標をクリアーできた案件も増加している。新製品開発の体質強化により人材育成とQCDを造り込んでいく仕組みの定着化が進んでいる。今後、未来へ向けて大きく飛躍することが期待できる。 多品種少量や受注生産が主流となったモノづくり、その根幹を担う設計開発部門でのトラブルやミスが増えている。発生する不具合や問題の後処理に工数をとられて、本来の品質とコストを両立させる設計開発プロセスの仕組みそのものが衰退していることに危機感が感じられる。営業~設計~製造と部門間の連携がとれず、仕様不明確、トラブル発生、納期遅延、目標コスト未達の負のスパイラルに陥っている企業が多くなっている。 過去からのやり方の延長線上で業務を続けていては、改革は難しく負のスパイラルから脱却することは出来ない。 かつて、アジアや発展途上国の設計者たちは、「日本に学べ!日本に追い着け」ということで頑張ってきた。いつの間にか日本には追い越されている分野も増えている。 日本では、設計者は属人化された固有技術はあるが、個人の技術にとどまり組織の技術と知恵になっていないことが多い。設計水準を体系的に強化する仕組みがなきに等しい。「何かあれば聞いてこい」「トラブル発生後に対策を考える」と言ったQCD(Q:品質 C:コスト D:納期)の問題究明が後回しにされた環境で本当に優秀な設計人材が育つのだろうか。 組織の技術を成長させる設計の仕組み・仕掛け、これがないと伸びない。期待する人材が育たない。だから、トップが主導する設計開発を基軸にした最上流の営業・設計~下流の製造まで全社を巻き込んだ抜本的改革が今必要である。A 社「 設計~製造のコンカレントエンジニアリング     QCDのつくり込み」設計品質&コスト両立の抜本的改革の進め方最強の設計開発部門が利益を創るC O N S U L T A N T C O L U M N東日本事業部 東日本カンパニー カンパニー長 マネジメントコンサルタント大野 浩行9