はじめに
企業にとってコストに占める外部調達・購買費の割合は非常に大きいものがあります。
図1は2011年の各業種における外部調達・購買費の割合をグラフで表わしたものですが、製造業の資材・購買費はすべての業種において50%を超える比率になっています。これは製造部門を中心に様々なコスト削減の活動に取組まれた結果として、内部コストの削減を実現させた結果とも言えます。しかしながら、自社のコスト構造を見直すにあたり、やはり購買部門の役割が極めて重要であるとも言えます。
今後は購買部門の改革がコスト削減の大きなウエイトを占めるようになります。そこで今回は、CR(コストリダクション)の視点で調達・購買業務の見直しを考えてみたいと思います。
購買活動における問題
現場まで会社の経営ビジョンが共有されていないケースが多く見受けられます。経営トップの意向や進むべき方向性が現場まで十分に伝わっておらず経営トップの意向を自部門の具体目標に落とし込んで現場に展開するリーダーシップが希薄になっているように感じます。
それゆえ購買部門においても方針や戦略が曖昧化し、市場状況を捉えた長期的な志向が欠如しているのではないでしょうか。
また、組織風土の問題として、コストリダクションの責任をすべて購買部門だけに押し付けてしまう傾向が見られます。現在のモノづくりは部門を越えた連携が不可欠になっています。コストリダクションは購買部門だけで取り組むべき問題ではなく、設計部門に遡る、モノづくりの全工程が関係する問題です。ですから購買コストリダクションには他部門との協働がぜひとも必要といえるのです。
ただ安く買えば良いという問題ではなく、購買には品質や納期などの要素も非常に大切です。そういった意味で購買業務の仕事は極めて重要であり、その業務はもっと高く評価されて良いと思います。購買部門の人材育成に関して体系的なスキルを教える場が少ないという声を聞きます。情報インフラについてもコストと技術情報の関連性が希薄になっているなどの問題点が見受けられます。見直すべき購買
活動の視点は多数あります。一般的な購買活動における問題点の一部を表1に示しましたので参考にしてください。
また、このような現象や問題点が購買業務において、具体的にどのような状況を招いているか、懸念すべき状況の代表事例10項目を挙げています(表2)。これは購買部門の方に現在の業務レベルを簡単に判断するためのチェックシートとして活用しているものです。これにひとつでもチェックが入れば、問題点を抱えていることとなります。
過去の経験より、チェックが3つまでなら標準レベルと言えるものです。
購買部門の位置づけ
購買の目的とは何でしょうか。それは購買利益の向上により、付加価値を創出し、製品競争力に優位性を与えて企業収益創出に貢献することです。
そのためには基本機能として、次のようなことが挙げられます。
・必要なものをより有利に購買し供給する
・当社にないものをより有利に購買し供給する
・当社にないものをより有利に購買し、製品競争力、企業競争力に優位性を与える
モノづくりとは、原材料を加工・組立して新たな付加価値を創造することです。その過程として購買部門を捉えれば、その機能はモノづくり経営のあらゆる部門、すべての管理領域に直接的、間接的に結びついていることがわかります。
そこで目的達成には、全社の経営システムの一貫として購買部門を考える必要があるわけです。経営システム全体のなかで、全部門の役割分担を明確化する必要があるということです。
CRとは
さて、CR(コストリダクション)の本当のねらいとは何でしょうか。
ここでコストと機能という考え方がでてきます。まず自社が購入しているのはモノではなく機能であるということです。それをQ(品質)C(価格)D(納期)という種々の条件を鑑みながら決定するプロセスが購買部門に課された役割なのです。
そして、この業務を戦略的に行うとは、短期的な価格交渉ではなく、技術的・科学的な根拠にもとづいて購買先の担当者と交渉し、妥当な金額で長期的に発注できる関係を築くことなのです。
交渉の優劣がコスト決定を決める
購買活動では、CRの取り組みのポイントを押さえることが大切です。
そのためには購買先の担当者と技術的な議論をすることが必要です。そして、そのためには交渉の前提条件となる数値的なデータや資料をもとにした判断根拠を持つことが必要です。これが交渉のネタともいわれます。ただ一方的に交渉を進めるのではなく、相手の立場を理解して交渉の条件を準備することが必要です。限られた誌面では詳細をお伝えすることができませんが、交渉に臨むにあたってのCRのポイントを表3にまとめてみました。そのポイントを簡単に説明します。
以上の点に留意しながら進めることで、双方納得した結論を出すことが大事です。最後には、良い関係を築くことが大事です。そして、このような手順を踏まえて検討を進めることで社内全体の改革へと繋げられます。冒頭の財務面の点も併せて、これが今後の企業改革において、購買部門が重要である理由です。