ASEANの中心、タイは日本製造業の工場建設が一番多い地域である。昨年の洪水のような深刻な自然災害リスクはあるが、 工場団地のインフラ整備度の高さが最大の選定理由となっているようだ。そして、こうした工場団地の建設を支えるのが 鋼材などのインフラ資材である。
鉄鉱石の資源が乏しく、原料鉄を輸入に依存するタイでは、鋼材価格もタイ商務省の管理に委ねられている状況だ、しかし、 タイ国内における、建物や道路・橋脚など、インフラ資材の需要は、まだまだ今後も続いていくものと思われる。
チョンブリ・ラヨーン地区に本社を構える、BANGKOK EASTERN COIL CENTER CO., LTD.は、新日鐡株式会社の直系商社である、 日鐡商事株式会社及び三井物産株式会社の海外グループとして、鋼板の剪断加工、販売を行う企業である。同社では操業以来、 タイ人従業員の育成・活用においても改善を積み重ねてきた。
そして、更なる現場力の向上を目標として、タイ人従業員のレベルアップ活動を展開中である。
本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。まず、はじめに、コンサルティングを導入された動機についてお伺いいたします。
当社がタイで操業を開始したのは14年前の1998年、ちょうど21世紀を目前とした年のことです。
それ以後、もう14年が経過したわけですが、タイ人従業員の労務管理や現地の環境にも慣れ、生産能力も安定して現在にいたっています。しかし、 時間の経過とともにタイ人従業員の人材育成やレベルアップにも限界が感じられるようになった矢先、TMCTが主催するVPMセミナーに参加して、 改善活動の重要性を再認識した次第です。そこで、工場診断の結果、タイ人従業員の生産性向上、全体の収益改善を含めて、継続的な人材育成の 推進のためVPM活動を導入することにしました。
今までもタイ人従業員の方々を対象にした改善活動は行っておられたのでしょうか。また、今回の改善活動の名称についてご説明ください。
以前から、社内で改善活動を推進していましたが、特に活動名を決めずにやってきました。しかし、今回の活動を開始するにあたり、コンサルタントより名称をつけて活動をすべき、という提案を受けました。そこで、従業員から活動名を公募したところ数多くのアイデアが集まり、その協議の結果、 “BECC-KemKang”というタイ語の活動名に決定することになったわけです。Kem Kangは、タイ語で強いという意味、これを社名のBECCと結び付けて 活動名としました。“強いBECC”になるための変革が活動の目的であるからです。
今考えると、活動名をタイ語で表現したことには大きな意義がありました。タイ人従業員にとって日常のことばを通じて活動を意識できたことが よかったと思っています。また、彼ら自身に活動名を考えさせたことが、自主的な参画意識とモチベーションを高める効果を招きました。
やはり、タイ人従業員の視点で活動推進をはかることが重要だと思います。そういった意味で、外部コンサルティングに対する、皆さんの反応はいかがでしたか。
当初は、コンサルタントに対し、彼らがどんな反応をするのか少し心配でもありました。しかし、コンサルティングが始まってみると、それも杞憂であったことがわかりました。これは、担当コンサルタントの人柄にも関係すると思いますが、彼らの印象は非常に打ち解けた様子でした。そして、その後もコンサルタントに対する 信頼感は日増しに高まっていったように思います。
ありがとうございます。タイ人従業員の感性を理解したコンサルティングが重要と聞いています。活動を通じての社内の変化等はいかがでしょうか。
感性という点では、職場の問題発見ということで「気付きメモ活動」を推進しています。
これは自分自身が気付いたことをメモする活動ですが、タイ人従業員の感性を鍛える格好のトレーニングになっています。現場作業者にも、放置された問題に 対する気付きが芽生え、また、グループ検討や相互アドバイスなど、他者の視点に学ぶことで全体の意識も深まりました。
そして、その結果、現場からの改善提案の件数も増え、活動グループのコミュニケーションも向上し、現場・現物・現実で改善を進める下地ができてきました。
全般的な感想としては、今までにない新しい改善活動となっていると思います。他にも問題解決の手法や考え方を勉強していますが、これは今後も継続して実施していきたいと考えています。
意識変革が一番重要なポイントであると思います。現在、日常業務において苦労されていることは何でしょうか。
工場のインプットからアウトプットの流れは、生き物のように日々変化する現象です。そして、安全、品質、操業、設備、納期面等の各プロセスでは種々の問題が日常的に発生しています。こうした数々の問題のなかでも一番気を使うのが、安全と品質に関する問題です。その理由は、お客様に直接的に関係する問題だからです。この点については、お客様に迷惑をおかけしないよう、タイ人従業員を中心に対応しております。
確かに、製品の安全性や品質は自社ブランドの命であると思います。そうした顧客満足も含め、BECCKemKang活動の全体成果はいかがでしたか。
顧客満足の側面では、インプロセスによる品質欠陥が約50%近く減少したことが最大の成果です。また、全般的に品質問題が減少し、その結果、品質の 作業標準の見直し整備を進めることができました。
安全・5S・在庫削減面についても、活動を通じて大幅に改善されたと感じています。しかし、生産性向上については、目標の30%には至らず、残念ながら 約10%の水準に留まりました。しかし、今後の向上に対する足がかりとなったことは確かであり、生産性の追求は今後も継続推進して行きたいと考えています。
たいへん素晴らしい効果が生まれていると思います。最後に今後のビジョンについてお話しください。
これからも、タイ人従業員による自主的な管理改善が継続的に進められるよう期待しています。そのためには現場管理者の更なるレベル向上が必要であり、 この点については、教育訓練を継続して行きたいと思っています。そして、日本人管理者も活動をチェック、適切なアドバイスを行いながら、更なる進歩に つながるよう一緒に考え実行していきたいと考えています。
本日はありがとうございました。
取材にご協力いただいた方
President 栗林 太朗氏