「松下電器は、過去においては、困難に直⾯したときに、必ず何ものかを⽣み出してきている。この考えに⽴てば、かつてない難局であれば、それは同時にかつてない発展の基礎になると感じることができる。今年は、これを、基本的な考えにしてほしい」1958年1月10日、経営の神様と呼ばれた松下幸之助氏は経営方針発表でこう語ったという。この時期は「鍋底景気」と言われ、同年7月から始まる「岩戸景気」を前にして、一部を除き全面的に業績が低下、減配・無配となる企業が目立ったデフレ発生による逆境の時であった。
同氏はまた「不況またよし。不況は改善、発展への好機である。景気の悪い年はものを考えさせられる年。だから、心の革新が行われ、将来の発展の基礎になる」とも述べている。昭和初期の“昭和恐慌”をはじめ、数多くの不況や危機に直面し、それらを乗り越えて事業を大きく発展させ、日本を代表する企業へと会社を成長させた同氏の言葉にはそうした体験と実績に基づく重みがあり、経営の真髄ともいうべき思想がある。そしてこの言葉を裏付けるように、1959年には皇太子の成婚を機に白黒テレビが爆発的に売れ、「三種の神器」と呼ばれた家庭用電気機器(テレビ、冷蔵庫、洗濯機)が急速に普及する中、松下電器もこの時期に様々な第1号製品を投入。1960年には業界初のカラーテレビ、日本初の電気自動皿洗い機なども発売し、1960年12月の「国民所得倍増計画」の発表により突入した本格的な高度経済成長の中心的企業として、大きな成長を果たすことになった。
上場企業の2020年4~9月期決算は、純利益の合計額が前年同期比38%減の10兆808億円で、上期としての減益幅はリーマンショック後の09年(65%減)に次ぐ業績となった。産業の裾野の広い自動車の苦戦が、鉄鋼や部品に連鎖して、製造業の純利益は54%減と半減し、「鉄鋼」と「造船」「輸送用機器」の3業種が赤字。減少幅では「自動車・部品」の94%減が最も大きく、「石油」(92%減)なども不振が目立っている。国内に新型コロナウイルスの第3波が到来している現在、再び社会経済活動に制約が出始めており、今後の見通しは未だ不透明な状況のままだ。またこれまでは雇用調整助成金などの支援策により、失業の急増は回避されてきたが、今後は雇用調整圧力が強まる可能性がある。21年度にかけて消費下支え策の段階的縮小が予想され、雇用・所得環境の回復の足取りは極めて鈍くなり、設備投資も業績悪化や先行きの不透明感を背景に慎重化が予想される。国内経済がコロナ禍以前の水準に回復するのは2023年以降とも言われる中、日本経済を支える存在である中小企業の経営は非常に厳しい道のりになると思われる。このような現在の状況を乗り越えて、未来への歩みを進めるためには、どのような視点で「過去」「現在」「未来」を捉えればいいのだろうか?そのヒントとして最期にもう一つ松下幸之助氏の言葉を記したい「私は、この人間の社会というものは、本質的に行き詰ることはないと考えている。人類は何100万年と生き続けてきて、だんだん発展している。決して行き詰って終わったりはしていない。現実の問題として、苦労があり、大変だが、結局は道を求めてやっていけると信じている。経営者として、激動の時代に対処していくには、そのような信念を基本に持っていることが必要ではないか」