お客様の要望を形にするものづくりを基盤として成長
岩田氏:
当社は平成元年に、現在会長である私の父が、それまで勤務していた会社から独立して創業した会社です。父は職人気質で、ものづくりに情熱を傾ける人なので、営業的には色々な苦労がありながら、作るものを自分達が選ぶのではなく、お客様の要望されることをいかに実現していくのかに主眼を置いて会社の基盤を作ってきました。そしてその考え方は私も引き継いでいます。
現在の事業展開としてはサイン、看板関係の製造が7割程度を占めていますが、この事業は創業時には無かったものです。当初はお客様からいただいたチャンスで事業を進めていたものが、5年、10年と経過する内に、蓄積された経験やノウハウに対してお客様から相談が来るようになりました。主な納入先としては商業施設や会社のビルなどが中心ですが、今年は羽田空港やJR東京駅など大きなプロジェクトにおける看板制作も行いました。
当社はお客様の要望に応じてモノをつくるという、ある意味「無理難題」を形にしていく仕事を日頃から行っていて、なおかつ納期、品質の面でもお客様の信頼に応えてきたと自負しています。そういうこれまでの実績に対する評価が、要求される性能レベルが高い仕事の受注や、業務内容の拡大につながっているのではないかと考えています。
上海で学んだ「仕事」と「幸せ」の意味
岩田氏:
私が当社に入社したのは2009年で、それまでは別の会社で勤務していました。父の考えとして、卒業してそのまま会社に来ても、井の中の蛙になってしまうので、どこかいい修行先で経験を積ませたいということがあり、ある倉敷の会社で働くことになりました。その会社ではいろいろな経験をさせていただき、生産部門で2年、営業部門で1年、上海に設立した現地法人で約2年間勤務しました。この上海での経験は今考えると相当に大変な状況でした。自分が任されていたのは生産部門でしたが、現場で日本語が話せる人はいなかったためコミュニケーションを取ることが非常に困難で、そのため休みの日には彼らの宿舎に遊びに行ったりして、一緒に過ごす時間を増やすことで、言葉は通じなくても、意志の疎通ができるように努力しました。この時本質的なコミュニケーションの意味を学んだような気がします。
そして上海ではもう一つ学んだことがあります。私は当時多くの仕事を抱えて、日々色んなプレッシャーで押しつぶされそうになっていました。そんな時に部下から、「岩田さん最近大丈夫ですか?毎日笑ってないですよ。何でそんな辛い思いをしてまで仕事をするのですか?」と励まされたことがありました。その時自分の中で、仕事って何だろう?幸せって何だろうという思いが起こったのです。私は日本からの出向社員で、彼らの10倍以上の給料をもらっていましたが、笑顔で働くことが出来ていませんでした。ところが自分よりずっと少ない給料でも彼らは毎日笑顔で働いていました。その原動力は自分の能力を高めれば待遇も良くなるはずだというポジティブな思いであり、それが彼らを生き生きとさせていたのです。その時に感じた仕事に対する価値観は今も自分の中心に残っていて、現在の経営にも繋がっていると思います。
コロナ禍でのコンサルティング導入背景
岩田氏:
当社の決算月は5月で、昨年度は非常に良い決算を迎えることができました。今年の2月、3月コロナ禍の中でも、建築関係の仕事は途中で止まってしまうことは無く、オリンピックが開催されることを見込んだホテルなどの大型案件の受注もあり、特需のような形が決算で良い結果を出せた主要因だと考えています。6月に入り新年度になっても、その流れは基本的には続いていたのですが、4月の緊急事態宣言以降、実際にはほとんどの企業で動きが止まってしまい、当社のお客様でも大半の会社がテレワークとなり、事業活動が停滞し始めました。このような状況で、本来なら承認を下ろさないといけないタイミングの案件がほぼ全て止まってしまったことで、そのしわ寄せが7、8月に来ていることを実感していて、数字的には前年比で50%以上ダウンしているような状況です。本当の意味でまだ今後の見通しはわかりませんが、秋口以降の動きが少しずつ見え始めているので、少しは回復基調にあるのかなと考えていますが、完全に元の状態まで戻れるのかということについては不安があります。
今回のコンサルティング導入のきっかけは広島で開催されたテクノ経営のセミナーに参加したことですが、その際に感じた印象はすごく具体的なアプローチをされるなということです。当社は小規模ながらも増収増益の経営を進めて来ており、自分でもできる限りの人材育成や、生産プロセスの改善などに取組んでいたのですが、付加価値労働生産性の観点から見ると、あまり改善が進んでいませんでした。そのため増収増益は外部要因によるところが大きく、この先苦しくなるのではという危機感をずっと持っていました。もちろんコロナを予測していたわけではないのですが、景気は浮き沈みがあるため、それが沈んだときには本当に苦しくなるのではという怖さを抱えていて、そこに対して何らかの動きを検討しなければと考えていました。
今の状況が決して良いわけではありませんが、私は今回コンサルティングをこの時期に導入したことはむしろタイミング的に良かったと考えています。今の状況だからこそ社内で改善活動の時間を充分とることも出来ます。そういう意味ではピンチをチャンスにではありませんが、全ての企業が苦しいこの時期、苦しいことを苦しいだけで終わらせたのではつまらないし、今の苦しい経験があったからこそ、この活動が出来て、その経験があったからこそ良かったねと言える未来を切り開いていくタイミングとしては、本当に良かったのかなと思っています。
施工事例(JR東京駅通路サイン)
仕事が人の役に立ち、喜んでもらえることを社員が 実感できる企業を目指して
岩田氏:
今後中長期的に目指すビジョンとしては、社員が仕事を通じて自己成長を実現し、その上で高まった自分の能力を人のために役立て、人に喜んでもらえることが実感できるような企業をつくっていきたいと思っていて、その実現に向けた取組みも今回の改善活動の中で進めて行くことを考えています。そしてそのための戦略としては、やはり人材の育成が重要です。一緒に働いていて楽しい仲間がいれば、同じ目標に向けて走って行けるはずなので、方向性や理念を共有し、それを会社全体の力に変えていけるような組織にしていくことが課題だと思っています。
また人員的には現在は40名の社員を中長期的には60名程度までには拡大したいと考えています。そうするともう少し専門的に分業を進めていけるので、お客様に対して、今まで出来ていなかったことを提供できるようにもなります。本当の意味でのお客様第一主義の実現を目指して、アフターコロナにおける当社の成長戦略は、お客様自体の受注増に対していかに貢献できるか。それがポイントだと考えています。
取材にご協力いただいた方
代表取締役 岩田 学氏
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【コンサルティング事例】 株式会社ハーベスト様