ディスカウント店「ドン・キホーテ」などを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は3月19日、マレーシアの首都クアラルンプール中心部の商業施設「ロット10」に同国1号店を開業した。今後3年間で同国内において11店舗の展開を目指すという。アジア圏でシンガポール、タイ、香港についで4カ国目の出店となるドン・キホーテだが今回のマレーシアの店舗にはある特徴がある。マレーシアは人口の60%以上が豚肉を食べないイスラム教徒であるため、同店舗ではマレーシアのイスラム開発局と相互認証を認められた日本のハラール認証機関が認めた商品を展開するほか、精肉は牛肉を専門に扱うという。
「ハラール」とはイスラムの教えで「許されている」という意味を指し、反対に「禁じられている」と言う意味の言葉が「ハラーム」。ハラールやハラームはモノや行動が「神に許されている」のか「禁じられている」のかどうかを示す考え方であり、嘘をついたり物を盗んだりすることは「ハラーム」とされる。ハラールとは神に従って生きるイスラム教徒(ムスリム)の生活全般に関わる考え方であり、ハラール市場は、ムスリムの日々の生活全てに関わる商品やサービスなどの提供を全て含んだ、とても幅の広いマーケットなのである。
世界人口の約2割強を占めるハラールマーケットは、年々拡大している。トムソン・ロイターの「世界イスラム経済レポート2018/2019」によると、2023年までに世界のイスラム経済はおよそ3兆米ドルに達すと予測されており、中でもマレーシアは同レポートの中で、イスラム経済圏においてビジネスチャンスが広がる国ランキング1位となった。ハラール認証は国や機関ごとに審査基準が異なり、その背景には宗教に対する解釈や、文化、習慣の違いがある。一般的に、国民の大多数がムスリムである中東では、食品はすべてハラールであることが前提だ。他方アジアは他人種、他宗教との共存が前提の社会で、イスラム教徒はハラールであるかどうかを意識する傾向が強い。多民族国家であるマレーシアでは、こうした社会構造を背景に消費者のハラール認証への関心が高まった。同国のハラール産業の特徴は、政府機関が認証制度を運用し、工業規格化、システム化されるなど、非イスラム教徒の外国人にも比較的わかりやすい制度になっている。また、政府が積極的にハラール産業支援に取り組み、ハラール専用の工業団地を各地に設置。進出した企業には税制優遇措置などのインセンティブも用意されている。同国では毎年、政府主催による世界最大規模のハラール商品見本市(MIHAS)も開かれ、世界各国からバイヤーが訪れる。マレーシアと日本の間ではEPAや日・ASEAN包括的経済連携協定が締結され、自由貿易圏の中で世界のイスラム市場にアクセスできる足場のよさも利点だ。
このような状況からマレーシアでは多くの日系企業が食品を始めさまざまな分野でハラール認証を取得し、国内または第三国市場に展開している。2014年に日系企業として初めて、マレーシアでハラール物流認証を取得した日本通運は、日本では16年に倉庫に関するハラール認証を取得し、小ロット貨物の混載輸送を目的としたハラール専用ロールボックスや、大ロット貨物を対象としたハラール専用鉄道コンテナを導入し、ハラール食品などの取り扱いを増やしている。ハラールマーケットに参入しようとする企業は多くある一方、参入にあたっての課題も多いのが現状だ。かつてマレーシアでも英国の大手菓子会社が販売するチョコレートから豚由来成分が見つかり、同商品の不買運動が一部発生、同社のハラール認証も取り消されるという事案が発生している。特に非イスラム国家においてハラールマーケットへの参入を目指すためには、イスラム教とハラールを正しく認識し、ハラール規格の遵守を徹底する必要がある。