「ファブレス企業」と、それと対をなす言葉「ファウンドリ企業」。
特にこのコロナ禍以降、ビジネス系ニュースなどでよく目にするようになった言葉だ。
「ファブレス企業」とはAppleやユニクロのように自社に生産施設を持たない企業を指す。対となる「ファウンドリ企業」とはファブレス企業によって企画開発された製品の製造を受託する会社のことだ。
この仕組みにも一長一短はあるが、メリット面で大きいのがファブレス企業側にとっては製品の企画と開発に集中できるため開発のスピードが早められ、時勢の動きにも迅速に対応できる。
一方ファウンドリ企業は製造と品質管理に集中できるため、大量生産体制がつくりやすく、品質がよく管理された低コストの製品を供給できる。
先日、ソニーは2025年に自動車販売チャネルであるソニー・モビリティを設立してEV車販売に名乗りを上げることを表明した。
当初、自動運転や未来の車載システムの可能性を探る検証実験ため実際に自動車を作ってみる、といったコンセプトで発進したソニーのEV車開発は、わずか2年で実際に「作って売る」構想にまで拡大した。
このような路線の急拡大はどのようにして成し得るのであろうか。
まずソニーが自社生産を行わず、ファブレス体制を採ることを決めたことが大きい。
機能上画期的な製品が企画できたとしても、自動車の製造には大規模な工場の建設や莫大な資金が必要で、加えてそれを市場に出すためには安全性などに対するいくつものテストを実施しなければならない。
自動車業界、特にEV車関連にはカーボンニュートラルを契機にいろいろな企業の新規参入があったが、生産・販売までたどり着かず撤退を余儀なくされる例も多く、そういった意味では厳しい市場である。
しかしファブレス体制を敷けば、ファウンドリ企業側の持つ既存技術で車体の基盤部を組み立てることができ、最短距離でコンセプトを実車化可能だ。
このファブレスとファウンダリという図式が自動車業界で広まれば、業界はソフトとハードで2分割化された構造を形成するかもしれない。
そうなればさらに多様な企業が新規参入の手を挙げる可能性もあり、それらによって開発されたEV車が実際に製造・販売にまで至る可能性もぐっと上がるだろう。
2025年といえばAppleが自動車業界に参入するのではとの噂も絶えない。
もしAppleがこれを実際に行うなら、ファブレス体制を敷く可能性は十分に考えられる。
既存の自動車メーカーの対応も非常に気になるEV車市場だが、ここにきて新しい概念に後押しされる形での新規参入で、またさらに市場が賑わいをみせる可能性がある。