2021年12月の国会で、日本国内に建設する半導体工場に対して政府から設備投資費の補助(上限は半分まで)を行う法案が可決された。
早速、この補助が適用される見込みの工場建設の計画がある。
当法案成立前から台湾TSMCとソニーが共同で熊本に建設を予定している半導体工場がそれだ。
正式な発表はないが、日本政府はこの新工場に4000億程度の補助金を支出する見込みとされている。
法案を提起した与党自民党などには、これを契機にIC大国・台湾との強固な半導体産業における連合を期待する思惑があるようだ(日本経済新聞)が、そもそもこの補助金の成果と、半導体日台連合の成功は見込みがあるものだろうか?
まずは半導体製造という産業が国産化にこだわるに見合うものかどうかという専門家の意見だ。半導体は、その性能追求のために研究開発や設備投資に大きな資金が必要である反面、逆に実際の製造については生産量拡大や輸送のコストは小さくて済む特徴がある(作る「モノ」が小さいだけに当然ではあるが)。
これをグローバルな視点で捉えると、ごく少数のトップ企業が少数の生産拠点で集中して生産する傾向があると言われており、一国の国内需要のために地場で生産をするメリットはほとんどないとみられている。
アメリカ・トランプ政権が急拡大する中国のスマホ事業を抑え込むため、スマホ用ICの対中国への輸出に制限をかけた例や、この度のコロナ禍による生産減を原因とした供給不足に備えるために国内生産にこだわるのであれば、それは限定的な経済的安全保障であり、半導体産業で日本の経済を引っ張っていくなどという大きな志を持った施策とはならないだろう。
それでも冒頭で挙げたTSMCとソニーの熊本工場建設だけをクローズアップしてみると、商業的な成功の見込みは高いと複数のメディアが予想している。
同社が熊本で作る予定の製品がイメージセンサーやISP(画像処理に使うプロセッサ)の受託生産であるというのがその根拠だ。
ソニーは世界のイメージセンサー市場で5割弱のシェアを有するリーディングカンパニーであり、この勢いは持続する可能性が高いという。
ただ、TSMCは中国ですでにICファウンドリー(ICの設計だけを受注する「ファブレス」に対し、製造を行う拠点)を運営しており、そこの大手取引先はソニーとイメージプロセッサ市場でしのぎを削る米国のオムニビジョンである。いわば今回のソニーとの工場共同建設はその後発ということになり、TSMC側の思惑も気になるところだ。
今後さらに対象の事業が増えれば巨額の資金を投じることになる今回の法案。
果たして国内工場で生産された半導体という製品が、我が国の産業にとって吉と出るか凶と出るか?大きな「賭け」になるかもしれない今回の法案の動向が気になるところだ。