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西日本土木株式会社様

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前例のない挑戦!
砕石事業の生産性向上

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 戦時下の昭和18 年、土木事業からスタートした西日本土木株式会社は来年80周年を迎える。
 昭和、平成、令和という時代の流れを通じて、砕石・建築事業に進出しながら発展を続けてきた。昭和3 0 ~40 年代の高度成長期、土木事業に欠かせない骨材不足が深刻化した。骨材とはコンクリートやアスファルトの製造に使われる石や砂のこと。インフラ建設には欠かせない材料である。何十年、何百年という歳月をかけて蓄積された石や砂も一気に採掘されたため、ふんだんにあった川砂や山砂がだんだん採れなくなってきた。そこで創業者である故隈田弘樹元会長は、それまでの土木事業に加えて、砕石事業にも進出することを決断したのである。その後、3 0 年ほど前には建築事業にも進出。現在につながる、土木・砕石・建築という三本柱の事業体制が確立した。
 現在の売上は単体で約70 億円超、グループでは約100 億円で、その半分は砕石事業が占める。砕石事業とは、まず石が出る山を探すことからその仕事は始まる。ただ、目的とする石の上には樹木が茂る表土がある。石を採るためには樹木を伐採し、表土を剥ぐ。それにより目的とする岩石を採掘する山開発の土台をつくる。また同時並行して、岩や石を砕く設備、いわゆる砕石プラントの建設が進められる。プラントが稼働できるようになると、発破で岩を切り出してプラントへ運搬し、破砕機で砕き、用途に応じた大きさの石に仕上げる。一番小さいものは砂になる。これが砕石事業の流れだ。
 今回は砕石事業という特殊な現場での改善がテーマ。前例がない条件のもと、砕石所の生産性向上をいかに進めるか、現場の意識改革により、活動を成功に導いた改善推進の軌跡をレポートする。

代表者挨拶

 2012年、我が社は初の「全社員」参加型の長期経営計画(10年)を策定しました。計画の最終目標は2043年に迎える「100年成長企業」を創ること。過去にとらわれず自らの事業領域を切り拓いていくという想いのもと、全社員が一丸となって力強く推進した結果、7年目で当初の目標を達成したため、2019年より第2次長計をスタートさせました。ポイントは以下の3点です。
① 「働き方改革」の実現
② そのための「生産性向上」
③ 「安全」を最優先し「持続性」のあるグループ総合力を生かした経営

コーポレートスローガン「いつも力になる、いつか力になる」も新たに設定しました。
 何気ない日常を支えると共に、いかなる状況に於いても地域を支え続ける企業を目指します。
 第2次長計の最大の課題は「生産性向上」でしたが、テクノ経営様との出会いが課題解決の大きな原動力となりました。現場に則した「指標」の設定から社員の意識改革まで、きめ細かいご指導により、3年間のコンサル期間中に2割以上の生産性が向上できたと実感しています。
 「80周年」を迎える2023年には第2次長計に目処をつけ、時代の一歩先を見据えた、新たな計画を考えたいと思っています。
 自ら先頭に立ち、社員とともに「100年成長企業」を創り上げること、これが私の仕事です。

地元との関係づくりが重要な砕石所の運営

 砕石所の開山から閉山までの期間は五十年以上。それくらいの長期にかけて石を採る。同社の砕石所も砕石事業の開始からずっと続けられているという。西日本土木株式会社には、現在、大分県で四ヵ所、熊本県で三ヵ所、宮崎県で二ヵ所、合計で九ヵ所の砕石所があるが、これだけの数を保有する会社は全国でも見当たらない、その出荷量も西日本でトップクラスにある。全部で九ヵ所ある砕石所のうち、自社で開発した所は五ヵ所、他の四ヵ所はM&Aにより増やした砕石所である。砕石所は、最終的には石が出なくなると閉山をしなければならないが、その時には、緑化をしてもとに戻す自然に配慮された事業が行われている。

 また、砕石事業には許認可が必要だ。しかし、最近では全国的に新しい砕石所での許認可が少なくなっている。許認可には、まず地元の同意が必要なため、新規の砕石所の建設は難しくなっているのだ。「我々の強みは、地元の皆様との良好な関係を築いているということです」それが大きいと常務取締役 井元克幸氏は語る。砕石事業の許認可は短くて3年、長くても7年で更新の時期を迎える。つまり継続的な許認可が求められるのだ。そして、その際に必要とされるのが地元の同意。地元住民との対立で難航する砕石業者の話も多いというが、地元の反対を受けているようでは事業を継続できない。地元にきちんと理解を求めながら、協力関係や絆づくりを進めていくことが大切なのである。
 同社では、地元との関係づくりとして、地域の行事などに参加、共有林を借用しての地代の支払いや地元からの職員採用を優先するなどの経済的な支援も実施している。
「地元の方を採用しているので、いい加減な仕事をしていると、すぐに地元の皆様にわかってしまいます」。できるだけオープンにして地元の方との信頼関係を作り上げる、それを最優先にしているのだという。他にも、たとえば道路の整備。ダンプカーが通るのでどうしても道が汚れてしまう。清掃や補修、民家の近くでは徐行運転をするなど、様々な対策を打ちながら、地元最優先の努力が進められている。

安全な職場づくりと働き方改革

 2012年、第一期長期経営計画(期間10年)が策定された。同社の長期経営計画は全社員が全員参加する形式を取っているのが特色だ。
 その時期はリーマンショックの後、国内では民主党政権に代わって「コンクリートから人へという政策」に大きく転換したタイミングだった。「公共工事の低迷により、建築土木業界は瀕死の状態になっていた」。現在の隈田英樹社長が就任されたのはその頃で、当初はたいへん苦労をされていたという。会社が存続の危機を乗り越える為、「長期計画を全員で作ろう」そうした意識が生まれてきた。これが最初の長期経営計画がスタートされた経緯であった。社員全員で作った計画。社員が危機感を共有できたことで業績は好転。その後、急回復していく。熊本地震の復興需要もあり、公共工事や民間工事が増加。コンクリートやアスファルト、建物の基礎などに使われる骨材の需要は高まった。
 こうして2 0 1 2年の長期経営計画はきわめて順調に完了した。しかし初回の長期経営計画は緊急対策としての計画だったが、危機対応のタイミングが過ぎた今、「もっと本来の良い会社にして行きたい」という社内の方向性が打ち出された。
 砕石の業界はいわゆる3K職場とされている。確かに危険が伴う作業が多く、年間休日も少ない。時代の流れに合わせて職場環境の改革が求められていた。特に重大事故の発生をいかに防止するか、「いかに安全に仕事をしてもらえるか、これを最優先で求めて行きたい」という思いがあった。
 もともと休みが少ない業界ではあるが、同社では5年前の年間休日は92日だった。これを二割増として、少なくとも土日を休みにできる110日までには持っていきたい。それを第2回目の長期経営計画の目標に組み込んだ。
 そのためには「生産性向上20%が必要、それを実現できなければ働き方改革は絶対できない」。休みが増え、残業が減ったけど、給料も減りましたというのでは困る。働き方改革とそのための生産性向上、安全最優先の企業文化の構築、これらをミッションとして第二期長期経営画を策定、2019年7月からスタートした。

前例のない挑戦 砕石所の生産性向上とどう取り組むか

 土木・建築事業では、アイコンストラクション(ICTを使った工事現場の実現)により、国土交通省の公共事業では、発注の形式の中に四週八休、つまり週休二日で工事をした現場にはプラスポイントの点数が加算される制度がある。これら政府が自ら旗振りをするアイコンストラクションにより、土木・建築業の生産性向上というのは、ある程度は予測ができた。
 しかし、最大のネックは同業者が少ない砕石事業の 大分砕石所は同社でも新しい事業所である。豊後高田、大分本社から近く、規模も二番目に大きいため、工場診断を受けるには最適だった。大分砕石所は規模の割には生産性が低く、利益があまり上がっていなかった。 同社では最大規模の熊本県の山鹿砕石所の生産性は高いが、大分砕石所は低い。砕石所間の技術的交流は少なく、カルチャーも違えば、作業の進め方も違う、全くの別会社のような動きをしていた。どうして大分砕石所は生産性が低いのか、その差はどこにあるのか、生産性向上である。今までは独自の考え方で取り組んできた。M&Aで砕石所を増やしてきた経緯もあり、各地域の砕石所ごとに生産形態がバラバラで統一ルールがない。異動や転勤がなく、ノウハウの共有も難しいという職場環境。自分達だけでやるにも限界があった。これらの課題にどう取り組むか。
 その頃、福岡でのセミナーに参加する機会があった。それがテクノ経営総合研究所との出会いである。

大分砕石所の工場診断を受けて

 大分砕石所は同社でも新しい事業所である。豊後高田、大分本社から近く、規模も二番目に大きいため、工場診断を受けるには最適だった。大分砕石所は規模の割には生産性が低く、利益があまり上がっていなかった。
 同社では最大規模の熊本県の山鹿砕石所の生産性は高いが、大分砕石所は低い。砕石所間の技術的交流は少なく、カルチャーも違えば、作業の進め方も違う、全くの別会社のような動きをしていた。どうして大分砕石所は生産性が低いのか、その差はどこにあるのか、その理由がわからなかった。
 仕事のやり方には職人的なところがある。そもそも工場診断と言っても、砕石所をどうやって診断するのかに興味があった。しかし、実際に診断を受けて、「これはいけるな」と感じたという。
 現場診断の方法は、徹底した情報収集で数値化すること。発破をかけて原石を採る場所があるが、そこからプラントまでは結構な距離がある。ベルトコンベヤで運べば効率的だか、採取場所が移動することから原石を運ぶのは32トンの重ダンプカー2~3台を往復させている。原石山から一次ホッパーまで、ダンプカーで運んできて投入する時間、発破で砕いた原石をバックホウですくってダンプカーに積み込む時間、その際も何回でダンプカーに積載できるか。ビデオカメラも駆使して分析が行われた。たとえば、一時間にどの位の原石をホッパーに投入できるのか。今では当たり前のことだが、当時は数値化の視点が新鮮に感じられた。
 ただ、工場の一定した作業環境と異なり、自然との関わりで作業しているため読めない部分がある。それらの条件も加味して、設備故障も防止しながら、いかに効率的に原石を投入するか、それを追究する必要がある。これらの課題に対し具体的な進め方をコンサルタントから説明され、これならできるという確信を強くしたという。

現場の抵抗から始まった改善活動

 工場診断を経て、コンサルティングを導入して改善活動を進めることになった。改めて、大分砕石所の一時間あたりの投入工数を見てみると、山鹿砕石所と比べて圧倒的に少ない。たとえば、山鹿砕石所では一時間あたり500トンを投入しているが、当時の大分砕石所では385 トンであった。この差はどこにあるのか。ここが改善の原点だった。それが今では、山鹿砕石所と同レベルで生産できるようになったのだから、この改革による成果は大きい。
 しかし、活動開始の当初は抵抗だらけだった。たとえば、これまでの経験からいって、投入量を増やすと機械が詰まるという声が強かった。山鹿とは石の質が違うので、そんなにたくさんの石を投入したら、機械が詰まって故障する。だからやってはいけない。外部から来たコンサルタントにわかるわけがない。考えるように上手くできるはずがないというのである。
 そういう抵抗勢力から始まった改善活動だが、根気強く、対話を繰り返すコンサルタントからの、「どうして止まるのでしょうか、まずはやってみませんか」という呼びかけに応じて、少しずつ投入量を上げていく試みをすることになった。4 0 0トンから4 10トンと、少しずつ投入量を上げていく。しかし、機械は止まらない。そうなると現場の気持ちも変わる。みんなの目の色がだんだん変わってきて、自分から「4 3 0トンまでいけますか」と言い出す者も出てきた。これが意識改革の始まり。数値化による目標設定で、職場全体がやる気になっていった。

総合的な視点で進め、圧倒的な成果を得る

 全体的な生産性向上のためには、総合的な視点で改善活動と取り組むことが求められる。たとえば、原石を採る場所についても分析する必要がある。一般的に、運搬効率を考えればプラントの近くから原石を採れば効率的だと思われる。しかし、実際に近くからばかりでは、崖のように切り立ってしまってだんだんと採れなくなる。だから露天掘りのように周囲を取り除きながら採っていくことが必要なのである。
 そこで遠くと近場の採掘をミックスして進めていくことをコンサルタントから提案され、総合的な視点で数値化目標を立て、改善を進めていった。
 その結果、改善の途上には苦労もあったが、1年目の大分砕石所の生産性は大きく上がった。大分砕石所で成功事例を作ったことで、やれば変わるんだという意識が生まれてきた。コンサルティングを導入した大分砕石所の生産性が圧倒的に上がったことが横展開につながる起爆剤となったのである。

第二期のキーワードは横展開

 各砕石所でそれぞれの設備仕様は異なる。たとえば、大分砕石所では、プラントの能力が高かったため、一次プラントへの投入量さえうまくいけば二次も順調に行く。しかし、砕石所によっては一次プラントの容量が大きく、二次プラントの容量が小さい所もあり、同じ指標は使えないことがわかった。この為、2年目からは、いずれも基幹となる中堅の事業所であるが、足元の業績が伸び悩んでいた、東郷砕石所(宮崎)、玉東砕石所(熊本)、朝日興産㈱(大分、関連会社)の三ヵ所へ横展開をしていくことになった。朝日興産株式会社では、トラブルで設備が頻繁に止まっていたため、コンサルタントに入ってもらった時に提案をもらっていた設備投資を実施したことの効果もあり、今では安定して稼働ができるようになった。
 東郷砕石所は少し苦労したが、第三期目のコンサルティング(後述)により生産性が30%向上。朝日興産株式会社、玉東砕石所の二ヵ所は結局2年間ぐらいかかったが、非常に大きく改善できた。

第三期に取り組んだ「東郷砕石所黒字化計画」

 最大の課題は、東郷砕石所だった。
 砕石事業には、原石の確保・プラントの安定稼働・営業活動という3つの条件があり、どれか一つが欠けても上手く動かない。それまで赤字が続いていた東郷砕石所では、この3つの条件すべてに問題があった。
 営業的には、新規顧客の開拓が進んでいなかった。その理由は、受注に見合う製品を供給できるのかという営業側が抱いていた疑問。生コンクリートやアスファルト製造の顧客先からは、顧客のJIS規格にあった製品の安定供給が求められる。このため活動は源流である原石を確保するための山の開発にも及んだ。
 ノウハウについては、他の事業所からの応援もあった。熊本の岡田生産統括部長という、山開発のレジェンドのような方がおられる。この方のご協力があってこそ、東郷砕石所の改善は成功したといえる。
 岡田生産統括部長が在席される熊本と東郷砕石所がある宮崎までは移動時間がかかる。昨今のDX化による生産性向上が進む中、スマートグラスを活用した遠隔での技術指導もスタートした。他にもドローンによる測量で、3Dモデル化して山の開発に活用するなど、DX推進による業務の効率化が進められているのである。これらの改善を通じて、東郷砕石所の安定稼働が実現。その結果、新たなお客様も現れるようになったのである。

設備投資とコンサルティングで利益確保

 山開発の標準モデル、設備の安定稼働の横展開により、全社の現場力は飛躍的に向上した。
 現在では年間休日が110 日になり、残業も減っているが、売上や出荷量は変わらず利益も確保できている。西日本土木株式会社では、5年間で20 億円程度の設備投資をしているが、中小企業強化税制による一括償却を活用している。重機の大型化も進めており、積載量の増加で更なる効率化を進めている。設備投資とコンサルティングによる日々の業務の見直し。これらを合わせれば砕石事業で約30%位の生産性は上がっているという。

創業80周年を迎え、新たな事業への挑戦

 グループ企業である、株式会社田北電機製作所(大分市)は、溶融亜鉛メッキを行う大分県で唯一の企業である。溶融亜鉛メッキの用途は広く、建築や工場、船舶などの鉄部を守るために使われており、社会のインフラに欠かせない重要性を持っている。
 今までは3つの事業に取り組んできたが、これからは、土木・建築・砕石・溶融亜鉛メッキの四本柱での事業を展開される。
 ここでの直近の懸念は、亜鉛価格の高騰。諸要因による資源高や、円安の影響もあるが、対顧客への価格転嫁も容易ではない。このため抜本的な生産性向上が必要となっている。
 これからもグループ全体の発展を目指して、西日本土木株式会社の生産性向上の活動は続く。

取材にご協力いただいた方

西日本土木株式会社
常務取締役      井元 克幸 氏
経営企画本部 主任  藤本 博司 氏



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