拡大を続ける世界の半導体産業
1980年代、日本の電子産業は世界最強を誇っていた。超高品質なDRAM(半導体メモリ)は世界シェアの80%に迫り、半導体産業は極めて重要な位置を占めていた。しかし、その後は日米貿易摩擦、世界市場における低価格化、日本経済の悪化、さらには市場ニーズのパラダイムシフトにより、結局は世界における競争力を維持できず、衰退してしまった。優秀な国内の技術者を流出させてしまったことも一因だろう。かつて半導体の世界市場全体で約50%を占めていた日本の姿は見る影もない。
世界市場で半導体産業が拡大するなか、日本のシェアは下降の一途を辿り、現在では1割程度まで落ち込んでいる。50兆円の半導体市場は今後10年でさらに100兆円規模へと成長が見込まれる中、日本だけが取り残され、やがて日本のシェアはほぼゼロになってしまうと懸念されている。逆に、半導体市場をけん引するアメリカや欧州、中国、台湾、韓国などは国家レベルの大規模な産業支援策を打ち出している。いかに各国が半導体産業を重要視しているかを物語っている。こうした中、日本も2021年に経済産業省が「半導体・デジタル産業戦略」を打ち出し、その対策に乗り出した。
経済安保推進法による助成(半導体2件、蓄電池8件)
2050年のカーボンニュートラル実現へ向けて、カギを握るといわれている蓄電池。リチウムイオン電池において日本の技術は世界をリードしていたが、EV(電気自動車)の市場拡大に伴い、中国・韓国メーカーがシェアを拡大している。こちらも半導体と同様、世界の主要各国は大規模な政策支援を実施し、研究開発はもちろん、安定供給へ向けた対策を進めている。
日本でも昨年2022年に「経済安保推進法」が施行された。半導体や医薬品などの重要な物資を安定して調達できるよう支援するほか、先端技術の開発や電気・ガス等といった基幹インフラの安全性確保に取り組み、日本経済の安全保障を包括的に強化していく。その中で経済産業省は2023年4月28日、特定重要物資として指定された11物資のうち、半導体で2件、蓄電池で8件、合計10件の助成を発表した。設備投資や技術開発などに2000億円以上が助成され、ホンダなどが進める蓄電池事業には最大1587億円を支援する。ようやく日本も主要各国と肩を並べる形となった。
半導体、EVが日本の救世主となるのか
新型コロナウィルスの感染拡大やウクライナ侵攻などによって世界的な半導体不足を引き起こし、スマートフォンやパソコンなどの電子機器をはじめ、給湯器や自動車など、あらゆる製品の供給不足に陥ったことは記憶に新しい。もはや半導体は我々の生活に欠かせない存在となっており、AIや次世代通信(6G)、スマートシティ、DXなど、デジタル化への発展が急速に進む世界において、その重要性や需要はますます高まるだろう。半導体において日本は製造装置や材料分野で非常に強い世界シェアを誇っており、こうした独自性を伸ばしていけば、今後更なる成長が期待できるだろう。さらに、2050年のカーボンニュートラルへ向けて政府が打ち出したGX(グリーントランスフォーメーション)では、自動車産業へ最も多くの投資が見込まれており、EV(電気自動車)の開発はさらに加速していくはずだ。世界の状況が目まぐるしく移り変わる中、リスクを排除して新たな風を掴み、次代のリーダーとなれるかどうか。まさに今、その分岐点に立っているかもしれない。