コラム/海外レポート

2024.03.18

スマート農業技術の進化と未来への展望

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人々の食生活を支える農業分野における大きな課題

人が生活していく上で必要不可欠な穀物や野菜といった食物を育てる農業。現在は担い手の減少や高年齢化が大きな課題となっている。農林水産省「農業構造動態調査」によると、2023年の基幹的農業従事者数116万人のうち、70歳以上が68.3万人で全体の約6割を占め、平均年齢は68.4歳となっている。さらに深刻なのは、若手人材の大幅な不足だ。資料では、29歳以下は1.2万人と全体のたった1%しかおらず、30~39歳でも4.4万人で3.8%と若年層の担い手不足が顕著に現れている。20年後における基幹的農業従事者で中心となる層(現時点での50代以下)は23.8万人、年齢だけで考えれば実に20%しか農業従事者は存続せず、約8割の生産量が減少することになるだろう。こうした課題の解決に向けて取り組まれているのが、「スマート農業」の活用だ。

先端技術を活用する「スマート農業」

人口減や高年齢化に伴う農業者の急減が見込まれる中、ロボットやAI、IoTなどの先端技術を活用した農業=スマート農業への注目が高まっている。スマート農業は、政府が掲げている「食料・農業・農村対策の4本柱」のうちの1つでもある。農業従事者が減少する中でも、食料供給の基盤が維持できるようにするため、生産性の高い農業を確立する狙いがある。こうしたスマート農業には、生産現場の課題を先端技術で解決することを目的に、次のような効果を見込んでいる。
【作業の自動化】
自動走行トラクター、自動収穫ロボット、スマートフォンで操作する水田の水管理システム、農薬や肥料の自動散布を行うドローンなどを活用し、作業の自動化を図ることで人手不足の解消をめざす。
【情報共有の簡易化】
位置情報と連動した管理アプリを活用し、農作業の記録をデジタル化+自動化。経験が豊富な熟練者でなくても、生産活動の主体となることが可能に。
【データの活用】
ドローンや衛星を用いて定量的なデータを獲得。また、AIで気象データの解析を行い、農作物の生育状況や害虫などの被害を予測し、これまでにない高度な農業経営を実現する。

AI(Artificial Intelligence:人工知能)×スマート農業の進展

近年はAI技術の進化がスマート農業の進展へも大きく貢献している。AI技術は、先に述べた自動化やデータの活用に用いられ、大幅な作業負担の軽減、作業や精度の向上などが可能となる。また、新規就農者へ向けた技術やノウハウをシステム化して提供することで農業の経験や知識が少ない人でも参入しやすくなり、人手不足の解消へとつなげられる期待がある。すでに成果を上げている例でいけば、24時間稼働できる自動野菜収穫ロボットのほか、カメラとセンターを利用して野菜の様々な情報を読み取り、AIがデータ分析を行うことで最適な収穫時期を判別や収穫量の正確な予測が可能となる。一方でデメリットとしては、やはり導入には安くはない初期コストがかかるほか、最新のテクノロジーを駆使するため、AIの活用には一定の技術や知識も必要となってくる。この辺りが今後の普及へ向けた課題となるだろう。

未来への展望とスマート農業の役割

農林水産省はスマート農業の現場実装を加速化すべく、2019年度からスマート農業の実証プロジェクトを全国217地区で展開している。スマート農業技術の効果として、ドローンの農薬散布では作業時間が平均で61%短縮(時間/10a)、水田への自動水管理システムでは平均で80%短縮(時間/10a)したほか、ロボットトラクターや直進キープ田植え機、ラジコン草刈り機などの導入により、経験の浅い人員や女性、高齢者、学生アルバイトといった多様な人材の活躍にもつながっている。こうしたスマート農業の技術を用いることで、農業分野はより効率的かつ持続可能な方向に進化するだろう。人手不足や高齢化といった課題を克服し、生産性の向上はもちろん、農業技術の伝承や食料自給率の改善にも貢献することが期待される。未来において、スマート農業は農業の新たなスタンダードとなり、豊かな食料供給を支える重要な要素として不可欠な存在となるのではないだろうか。

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