人間の飛行を可能にした鳥の研究
長い年月をかけて進化してきた生物の構造や機能などから着想を得て、新しい技術の開発やものづくりに活用しようとする技術がバイオミメティクス(生物模倣)だ。人間の飛行を可能にした鳥の研究は、バイオミメティクスの代表的な例の一つだろう。科学者たちは、人間が飛行するために鳥の翼の構造や飛行のメカニズムを研究し、その原理を応用して航空機の設計に役立てた。鳥類の羽根の形状や配置、羽毛の構造など、自然界における進化の過程で洗練された飛行機構を研究することにより、「人間が空を飛ぶ」という夢を実現させたのである。
バイオミメティクスの実例
バイオミメティクスの実例は多岐にわたり、我々の日常生活や社会に革新的な変化をもたらしているものもたくさん存在している。以下にいくつか事例を挙げてみよう。
●段ボールやサッカーゴールのネットに活用されている「ハニカム構造」
ハニカムとはHoneycomb(ハチの巣)のこと。「ハニカム構造」は、ミツバチの巣のように正六角形が隙間なく並べられた構造のことを指す。外周が一定であるという条件では、平面に隙間なく敷き詰める際に最も面積が大きくなるのは正六角形となる。つまり、ムダが無く材料効率に優れている。また衝撃吸収力にも優れており、空間ができることによる断熱効果も高い。こうした非常に優れた特徴を持つため、強度を保ったままの軽量化やコストダウンが可能となり、さまざまな製品へ活用されている。
●面ファスナー開発のきっかけになった「ひっつきむし」
センダングサをはじめ、オナモミやゴボウの実など、通称「ひっつきむし」と呼ばれる植物の種。自分たちの子孫繁栄のため、種子を広範囲に分布させる方法として動物などに付着して移動するという独自の進化を遂げている。種子の先端にある無数のとげが、動物の体毛といった繊維に絡まることで付着する。こうした原理を応用して開発されたのが面ファスナーとなる。
●ハスの葉の撥水・自浄作用から発見された「ロータス効果」
フッ素樹脂などでコーティングされたフライパンに水滴を落とすと、水滴は表面張力で丸く盛り上がる。撥水加工された傘や衣服、車の窓・ボディでも同じような現象が見られる。これらは、「ロータス効果」と呼ばれ、ハスの葉を模倣して開発されている。ハスの葉の表面は平らに見えるが、実は細かい凸凹上になっており、さらにその突起の表面にも微細な突起がある。こうした構造によって高い撥水性を生み出している。
バイオミメティクスのメリット
バイオミメティクスのメリットは多岐にわたる。自然界における洗練された構造や機能を利用することで、より効率的で持続可能な製品、技術を開発することが可能となる。また、バイオミメティクスによって生態系への負荷を軽減することも期待されている。例えば、バイオミメティクスを活用した製品や技術は、従来の方法よりも省エネルギーかつ環境負荷の低いものが多い。また、生物の構造や機能を模倣することにより、製品の耐久性や効率性が向上し、製品の寿命を延ばすことができるからだ。このように、バイオミメティクスがもたらすメリットは、省エネにつながり、持続可能な社会実現への技術革新をもたらすものとして注目を集めている。
バイオミメティクスの未来
生物の構造や機能をより深く理解し、それを応用していくバイオミメティクス。今後は、環境浄化技術や廃棄物処理方法の改善といった環境汚染問題、生物の細胞や組織の構造を模倣した人工臓器や組織の開発といった医療分野、エネルギー分野など、さまざまな分野で革新的な変化をもたらしていくだろう。限られた地球の資源を保ち、低エネルギーで持続可能な社会の実現には、こうした自然界に存在する太古からの英知をさらに研究し、その恩恵を享受していかなければならない。