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Thai Foods International Co., Ltd. 様

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タイ人従業員の意識改革と未来への成長をめざして
143%の労働生産性向上や労働災害の軽減に貢献

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 糖類やたんぱく質を分解吸収して発酵し、その過程でアルコールや炭酸ガスを生み出す酵母。古くからビールやワインといったお酒の醸造などに使われてきたが、酵母という微生物が関わっていると最初に発見されたのは17世紀、その後、1800年代後半にフランスの研究者ルイ・パスツールによって、発酵が微生物の営みによるものだと証明された。現代ではパンやビール、ワイン、味噌、醤油といった食品分野をはじめ、インスリンやワクチンといった医薬品の製造、石油の代替となり得るバイオ燃料、肥料や土壌改良など、多彩な分野で活用されている。
 Thai Foods International Co., Ltd.(TFI)は、1988年にグルタミン酸生産を目的に設立され、母体となる日系企業が移り変わりながら、現在はJ Tグループである富士食品工業株式会社の海外生産工場として、世界レベルの酵母エキスをはじめ、乾燥酵母パウダーや魚介エキス等の製造、販売を行っている。
 コロナ禍をはじめ、世界の状況が大きく変化していく中、タイという国における独特の文化や意識の違いから起こるセクショナリズムや人材育成に大きな課題を感じていた。こうした問題を解決し、変化の激しい時代に対応すべく導入された同社の活動について代表取締役社長 長澤 淳 氏、工務部付部長 桑本 武史 氏からお話を伺った。
(※2024年 ASAP+ 4号より)

独自性のある世界レベルの発酵エキスを製造

御社の歴史や事業内容についてお聞かせください

長澤氏: 1988年10月にグルタミン酸生産を目的に設立しています。工業団地とかではなく、もともとタイで稼働していた製糖会社の工場跡地を購入しまして、そこにグルタミン酸発酵設備を入れて、1990年に生産を開始しています。1998年まではこちらでアミノ酸発酵によるグルタミン酸を生成し、結晶化したものを100%日本に輸出していました。1999年には事業譲渡によってJTグループの一員となり、2003年には完全子会社化され、この時から次世代の主力製品となる酵母エキスの生産を開始しました。また、2001年からは魚介系エキスの製造も始めています。
 それまで製造していたグルタミン酸ナトリウムは、日本の市場において化学調味料と呼ばれており一部の方に忌避されていました。そこで天然系の素材にシフトすべく、酵母エキスの生産を2003年から開始しました。その後、2005年には今でも主力製品である高核酸酵母エキス「バーテックスIG20」という製品を上市しまして、それ以降、世界中に販売しています。
 2008年に、JTの中で食品事業部の再編成があり、テーブルマークグループ(旧・加ト吉)の一員となっています。同じく2008年、富士食品工業株式会社がテーブルマークのグループ会社となりまして、以降、TFI製品の販売は富士食品工業株式会社が担当し、日本国内および欧米や東南アジア、インドなど、世界各地に販売し、タイ国内の販売だけはTFI独自で行っているという状況で、2014年には酵母培養技術を使って、飼料・ペットフード用の乾燥酵母パウダーの生産も開始し、2019年には富士食品工業株式会社の完全子会社となっております。

なぜタイに工場を設置されたのでしょうか

長澤氏: 我々がタイに工場を設置した理由は、生き物である酵母の培養に必要な炭素源=糖源の入手が容易である点にあります。収穫したサトウキビから粗糖を作り、上白糖へと精製していきますが、この粗糖を精製する中で最後に結晶化できなくなるほど濃くなったものを糖蜜、モラセスと呼んでいます。タイは世界4位の砂糖産出国で、国内で大量の糖蜜が生産されているため、我々はそれを製糖会社から購入し、酵母の培養に活用しています。ただ、糖蜜だけでは不純物が多いため、同様にタイ国内でたくさん生産されているキャッサバ芋から取ったタピオカスターチを糖化したシロップ等も利用しています。こうした背景があり、タイ国内で製造を続けています。
 また、酵母を培養~製品化した後には大量の培養上清、上澄みが発生するのですが、BOD(生物化学的酸素要求量)がとんでもなく高く、排水処理などでは対応できないため、濃縮して土壌改良剤や液体肥料としてサトウキビ畑に還元しています。サトウキビから製糖工場が粗糖と糖蜜を作り、我々は糖蜜から酵母を培養し、さらには再びサトウキビ畑へ戻す、こうしたリサイクルシステムにも取り組んでいます。

工場はどのような認証を受けていますか

長澤氏: 食品を扱う会社ですので、世界へ向けて販売していくためには、さまざまな国際認証を取得しておかなければ、ビジネスができません。当社は、品質関連のISO9001と環境関連でISO14001、食の安全、フードディフェンスのFSSC22000、あとはアメリカ向けに輸出する際に必要なGMP(適正製造規範)とHACCP(ハサップ/危害要因分析重要管理点)。また、イスラム教徒向けの規格であるHALAL(ハラル)、ユダヤ教徒向けのKOSHER(コーシャ)を取得しています。魚介系エキスだけはKOSHER(コーシャ)の取得が難しく、取れていませんが、必要な認証は全て取得しています。

独自の強みはどういった部分にありますか

長澤氏: 酵母をはじめとする、各種微生物培養に対する累積してきた経験と技術、またそれを活用した製品開発に強みがあります。酵母エキスの分野では、世界的には中国のエンジェル・イースト社、ヨーロッパのバイオスプリンガー社などが有名で、我々は後発となります。そのため、高機能品に特化した開発と生産を行っています。主力製品のバーテックスIG20は高核酸、旨味成分の核酸であるIMP(イノシン酸二ナトリウム)とGMP(グアニル酸二ナトリウム)の水和物を約20%含有している酵母エキスであり、天然由来の旨味成分である核酸を高含有した天然調味料です。その他にも酵母が生成した天然由来グルタミン酸ナトリウムを高含有した酵母エキスHIMAXGLや、魚介系の旨味となるコハク酸ナトリウムを高含有したHIMAX SAという製品も近年、上市しています。もともと日本に於いてパン酵母を開発・生産しており、遺伝子操作技術に頼らない古典的手法にて独自の酵母菌株を育種し、特徴ある製品を生み出すというところが当社の強みとなります。
 酵母の育種は植物の育種とは異なり世代交代期間が短いため、比較的、短時間で効率よく育種、品種改良ができます。ただし、交雑して得られる新しい品種は数千、数万、数億という種類になりますので、その中から目的の性質を持ったものをセレクトする、スクリーニングと呼ばれる技術が一番重要となります。当社における最大の技術は、独自に専用の菌株を品種改良し、製品ごとにより特徴ある酵母の菌株を生み出し、保有している点にあり、それこそが最大の強みであると思っています。

タイ工場 入口外観

タイ国内の状況や事業環境はいかがでしょうか

長澤氏: コロナ禍の中が一番厳しい状況でしたが、各種原材料やエネルギーコストの値上がり、この影響が大きいですね。2022~2023年くらいから急激に製造コストも上昇しています。昨年はエルニーニョ現象の影響で雨が少なく、気温が一気に上昇したため、タイ国内におけるサトウキビの収穫量が大幅に減少しました。年に一回しか収穫時期がないため、今年使用している糖蜜は昨年収穫したサトウキビから精製されたものですが、過去最高レベルまで価格が高騰しています。
 また、国際的にステンレスや鉄といった金属価格が上昇していますので、設備投資コストも増加しています。一昔前までは、タイは非常に物価が安く、観光や衣食住でもその恩恵を受けられましたが、最近ではそうでもなく、下手をすれば日本より物価が上昇していますね。

いかにしてタイ人の意識改革や改善活動を進めるかが課題

弊社のコンサルティングを導入する前に、どのような課題をお持ちだったのでしょうか

長澤氏: 恐らくタイで会社経営をされているどこの日系企業でも同じような課題を抱えているとは思いますが、セクショナリズムや人材育成といった点が挙げられます。タイ人は、自分の仕事はきちんとこなしてくれますが、それ以外のことは同じ部署内でも対応しません。部署が違えば、全く協力しないということも当然あります。
 また、日本人が技術などを指導しても、指導を受けた人が独占し、部下や後輩には伝わっていかない傾向があります。日本と比べると人件費も安価なため、当たり前という話もありますが、やはり非常に労働効率が悪いというのが大きな問題でした。

桑本氏: 日本ではゴミを分別すると思いますが、タイでは分別しません。タイではゴミを分別する役割の人がいて、だからそれはその人の仕事だというのが理由です。文化や国民性の違いになりますが、タイ人全体の傾向として、やはり縦割りというか、なぜ他の人の仕事をしなければいけないのかといった傾向が強いですね。例えば、包装工程の作業者は包装作業だけを行うため前工程が終わるまで他の作業を手伝わずに待っているだけで無駄な空き時間が非常に多い状況でした。
 社内でもタイ人マネージャーを中心に効率化活動を実施していましたが、待ち時間を有効に使うという考え方自体が我々の説明ではなかなか理解してもらえませんでした。そういった基本的な意識改革が難しく、コンサルティングしてもらうという方向になりました。

5Sをはじめ、製造現場のあるべき姿や現場総合力、組織力の強化をめざして

1日工場診断のご印象やコンサルティング導入の決め手はいかがでしょうか

長澤氏: もともと、富士食品工業株式会社の静岡金谷工場でテクノ経営さんのコンサルティングを導入しており、そこからつながりができたという背景があります。実際に現場を見ていただいた1日工場診断では、5Sの部分ですね。タイ人と日本人とでは、整理整頓のレベルというか感覚が違っていて、タイ人の従業員が「もう整理整頓できている」という状態だったとしても、日本人から見ると全然できていない。以前から社内でもクオリティパトロールやセーフティパトロールという形で実施していましたが、社内の人間や上司が指摘しても、あまり聞き入れてくれませんでした。タイ人は権威主義的なところもあり、そういった部分も含めて、外部のコンサルタントからの指摘は効果がありました。
 私たちはタイ語をそこまで話せないため、タイ人と仕事上の重要な話をする際は英語となりますが、お互いに母国語ではない言語でコミュニケーションをとるため、やはりなかなか伝わりきらない。その点、テクノ経営さんのコンサルティングでは、タイ人の通訳者に同行いただき、ちゃんとタイ語で説明いただけますので、しっかりと意図を理解してもらえ、素直に聞いてもらえます。あとは、タイ人は座学が好きというか、先生と呼ばれるような立場の人に話をしてもらうことに意外と価値を見出します。日本人はどちらかといえば、OJTなど実地で学ぶ感じですが、タイ人はやはり座学でないと学んだ気がしないという部分はあるようです。

新型コロナウイルスの感染拡大でシャットダウン状態の中、なんとか活動を継続

コンサルティングを導入された後はいかがでしたか

桑本氏: 最初は製造部門のSPD(スプレードライ)というセクションで導入しました。100名程度と一番人数が多く、まずは1つのところから始めてみようということでコンサルティングをスタートしていただきました。それから2年程で工場全体のセクションへ展開していくことになったのですが、それがちょうど2020年頃。その後は新型コロナウイルスの感染拡大でシャットダウン状態になってしまい……。この時が一番大変でしたね。新しい展開が始まっているにも関わらず、当然工場に来てもらうことはできませんでした。そのため、ウェブをつなぎながらデータを送り、その後でまたデータを送ってもらってと、なんとか工夫して乗り切りました。

コンサルティングを継続する中で工夫された点や意識していたことはありますか

桑本氏: 日本人でも同じだとは思いますが、余計な仕事は増やしたくはないですよね。しかし、効率を上げるためには今まで実施しなくてよかったものに取り組んでいかないといけない。日本ではそれが業務上の指示であれば従ってくれるとは思いますが、タイでは「参加したくない」と言えば、もう参加しないといったケースも発生します。同じ給料でもっと仕事の楽なところがあれば、すぐに転職してしまいます。こういった部分は日本とは違い、苦労しました。ですので、やはりタイ人のマネージャーたちが興味を持って現状を把握し、率先して取り組んでもらう必要があります。日本人はあくまでサポートで、できるだけタイ人同士で推進していく。ここが大きなポイントかなと思います。ある程度進めば、タイ人も結構理解してくれますが、そこまで進展させるのが難しい部分でもあります。

労働生産性が約3~4割も向上、また労災防止でも大きな効果を発揮

コンサルティング導入の成果をどのように実感されていますか

長澤氏: マルチスキルのシステムを考案していただき、スキルアップしている従業員も増えてきています。結果的に、これまでは無かったようなセクション間の人員補助などが実施されつつあります。また、工場の稼働が停止している際に床掃除を行ったり、ペンキを塗ったりと専門外の作業にも取り組んでもらい、徐々に意識が変わってきていると感じます。ビジネス環境的に厳しい中、できるだけ固定費を抑えたいところ、ピーク時と比較して9%程度、人員が減少しても生産を継続できているのは、コンサルティングの効果が発揮されていると思います。
 また、労災の発生件数はここ2、3年でかなり改善しており、今年は休業災害も、非休業災害もすべてゼロとなっています。休業災害に関しては1,000日、ほぼ3年発生していない状態です。こちらも大きな成果であると捉えていますね。

桑本氏: コンサルティング導入前の2017年比で2018年は116%、2019年は124%、2020年は125%、2021年は143%、2023年は137%と、おおむね30~40%前後、生産性が向上しています。また、生産量は毎年増加していますが、総労働時間は2019年から減少を続けています。こうした部分でもコンサルティングの効果が表れているかなと思います。5Sが改善されて、工場内もだいぶキレイになってきています。全員が全員というわけにはいきませんが、徐々にタイ人の意識も変わってきて、自分たちではこれ以上できないというレベルまで改革が進むと、他のセクションへ働きかけてくれるようになりました。こうした部分の変化も大きいと感じます。

活動の安定化と、新たな技術や開発へチャレンジしていく

今後の課題や目標をお聞かせください

長澤氏: コンサルティングの契約が終了し、すぐに活動が廃れてしまっては困りますので、まずは新たに導入したマルチスキルシステム、これを継続するためのルールやメンテナンスに努めたい。その中で、活動に携わっているタイ人のマネージャー職を中心にプロジェクトチームを新たに構成し、自分たちでも管理とメンテナンスが実施できるよう、協力して作り上げていただいたシステムをより発展させていきたいと思います。
 中長期的には、さまざまな事業環境の変化に対応していくため、独自生産技術の開発や日本本社と協力し、新しい事業分野へもチャレンジしていきたいですね。

コンサルティング風景

STAFF COLUMN ~Survive the Change~

変化の激しい現代を生き抜く

代表取締役社長 長澤 淳 氏: 酵母エキスにおいては、中国メーカーが一気に市場を伸ばしています。私たちが開発している特殊な製品も、徐々にコモディティ化が進むのは間違いないですし、そういった中で当然、市場価格もどんどん下がってくると想定されます。より低コストで良い製品を作れるようにしていかなければ、生き残っていけません。会社が存続し、継続可能な利益を確保するため、技術的なアプローチ、チャレンジを続けることで、製造コストを下げていく。原材料の高騰などもカバーできるくらいの生産技術を開発していくことが1つのテーマかなと考えています。
 また、当社の保有する微生物育種、培養・発酵技術をベースに新たな高付加価値製品を生み出していかなければ長期的な成長は期待できません。日本本社と連携を取りつつ新規分野への展開なども視野に入れながら、今後も取り組んでいきたいと思います。

工務部付部長 桑本 武史 氏: タイにおける人件費はだいぶ上がってきています。また、急速に少子高齢化が進んでおり、人財を集めることが非常に難しくなってきています。こうした中、在籍している人財をいかに成長させていくのかというのをまず一番に取り組まなければなりません。競争力をつけるためには、やはり人が最も大切な要素と捉えていますので、いかにしてタイ人の従業員にやる気を持ってもらい、能力を伸ばしていくのか。そのためには、タイ人マネージャーがきちんと部下や後輩の仕事ぶりを褒めるとか、労働災害の軽減といった働きやすい職場環境の構築などが必須となります。日本人が指導するのではなく、タイ人同士で切磋琢磨し、改善を進めていけるような形ができれば一番いいと思いますので、あくまで日本人の現地駐在員はその手助けをするくらいに考えて、タイ人で会社を支えて、成長させていくような姿をめざしたいですね。

取材にご協力いただいた方

Thai Foods International Co., Ltd.
代表取締役社長  長澤  淳 氏
工務部付部長   桑本 武史 氏



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