2014.12.15
タイ人中間管理職の育成と自立(後編)
- 関連タグ:
-
- タイ
- 現場改革・生産性向上
- 問題発見力
- 人材育成
- 5S・見える化
- 品質改善
- 工場レイアウト
- 省エネ
執筆者:
山本 信幸
はじめに
前回は、タイ日系企業の一般的な内部体制を紹介しながら、ローカル人材育成の基本姿勢、そしてVPMによる改善活動のポイントをお話しました。
これは海外に限らないことですが、お互いの信頼感がなければチーム改善は上手く進みません。情報を見える化・共有化しながら、自分たちの問題を発見させることが改善成功の糸口です。
今回は、タイ人主導による改善活動を通じてローカルスタッフの成長を計る実践事例を紹介します。
4.改善事例の紹介
4-1.「結果の見える化、大きさの共有」の事例
例えば、チーム改善活動によるコストダウンでは、改善効果の見える化→改善の大きさを共有しました。また、改善によって得られた結果による人事評価基準を決定し、同じ物差しで評価することにより、内部の不公平感を払しょくします。
改善の見える化において留意すべきポイントは、<具体的な個数、金額で表 示>することです。百分率での数値表示は、自分のこととしてとらえることが出来ません。100個の1%が1個であることは理解できても、87個の1%が何個か、87個の1個が何%かはすぐにはピンとこないため、改善行動につながりません。
4-2.「具体的な数字、金額」の事例
そこで、具体的な金額で表示することがポイントになります。例えば、
歩留まり90%の会社、売り上げに占める材料費比率が60%の会社の場合、歩留を90%から91%にした場合どのような効果があるかを、金額で効果(成果)を見せるのです。例えば、売上が360百万バーツの場合、材料費(60%)が360百万バーツで、材料のロス金額(10%)は21.6百万バーツとなりますから、1%の歩留改善効果の金額は2.16百万バーツとなります。こうすれば、1%の効果が明白に理解させることができます。
4-3.「使われないデータ」の事例
次に、データの共有化によるプロジェクト型生産改善活動の事例をご紹介します。社内にはデータを取ることが仕事となっており、全く使われないデータを取り続けているようなケースがあります。 協働をしない為、部署別にデータがあふれており、スタッフ人員も過剰になっています。
なぜ使われないデータがPCに埋もれているのでしょうか。データは勝手に作られていることはほとんどありませんが、過去に要求があって作ったものが、様々な形で残っていたり、新しく追加で要求が来て、膨らんでいることがほとんどです。 使わないデータを取り続けることは無駄なことになるので、やめることが必要ですが、やめるときには、なぜいらないのかをまず管理者にとことん理解させてやめることが必要です。管理者任せにするとほとんど進まないことが多いからです。
また改善の実行はステップで行うことがポイントです。データを取ることで満足していた状態から、データをおもて化、見える化し、その都度改善を実行するのです。 例えば、データを活用し、出来高(量)管理から、「時間軸での生産性管理」へとシフトさせることを実践することにより、現場のデータの見える化による問題点の対策が出来るため、データの蓄積もなくなりました。
現場の日々の予実管理を実行し、日々の中で問題を解決することにより、余分なデータをなくすことも出来ました。
4-4.「自分達で決めたら守る」の事例
レイアウト変更による少人化から活人化の事例をご紹介します。
この改善は、日本人スタッフが実施したいと思いながら、一度タイ人スタッフに拒否され困っていました。それは、日本人が現場を知らないため、いくら指示をしても進まないということにも原因がありました。 そこで、現場のスタッフを巻き込んで、改善活動を実施することにしました。タイ人スタッフが自分たちチームで決めたことを実行することで、成果が出ます。 成功を体験することで、やる気度がアップし、新たなアイテムへの挑戦の意欲が出来てきます。やる気スイッチがONになるのです。このような事例は、自立型活動の仕組みとして活用していくことがきるでしょう。 自分たちでどうするかを決めてもらって改善すると、必ず結果が出ます。
4-5.「不良手直しロスコスト削減」の事例
不良手直しロスコスト削減の事例をご紹介します。この事例も、ロスを百分率(%)ではなく、ロス金額を示して目標設定することがポイントとなります。 百分率(%)ではピンとこないことが多いため、実際のロス金額で表示を行い、自分達で目標を設定し解決します。目標設定は、会社の方針に沿った、挑戦的な目標を設定し、結果も自分たちで確認しながら活動を行います。 改善の結果も金額で表示し、見える化を実施します。金額表示による結果の見える化は、やる気アップのため仕組みとして運用することができます。
4-6.「全員参加の省エネ活動」の事例
最後に、全員で取り組むことによって成功した、省エネ改善活動の事例をご紹介します。省エネは対応だけを全員にお願いし、その目的や結果を全員に公開しないことが多く見受けられます。 全員の参加が必要なものは、必ず周知徹底をするためおもて化、見える化を実行することが大切です。
例えば、コンプレッサーエアー漏れによるロスの試算をしてみます。普通にエアーが漏れていても、どのくらいの電気量がロスしているかが知られていないことが多い為、 ロスの目安を周知し、ことの重要さを知ってもらうことから改善を始めることが重要です。つまり、省エネ活動改善効果を試算し、その大きさを共有するのです。次に、エアーが漏れている箇所の特定と、 どれくらい漏れているかのおおよその量を想定します。音による判定結果から、どの部分から対策するかを特定することができます。エアー漏れ対策を省エネ活動として取り上げることで、 誰でも参加が出来ることと、効果もすぐに出ることから、全員参加活動として展開が出来ます。
省エネは全員参加による活動が基本となりますが、エアー漏れ以外でも、タイ語のテキストを使って省エネの対象を理解してもらい、現場で実際の不具合を見つけたら、 ロスの試算をしてその大きさを実感してもらい、対策を実行することにより大きな効果を得ることが出来るようになります。
まとめ
ローカル従業員による改善を進める上で大切なことは、彼らに自主的な目標を決めさせることです。それがモチベーションを高め、ローカルスタッフを育てることにつながります。 そして、活動環境の整備やトップの意向をブレークダウンして、ローカルスタッフに伝えることが日本人スタッフの役割といえるでしょう。
TMCTでは、アジアを中心に日系海外工場の改善・改革を進めています。特にローカル主導の改善活動では定評があり、幅広いニーズに対応可能です。 ご要望等がございましたらご連絡いただければ幸いです。