■ はじめに
管理監督者たるもの、現場をきちんと管理しなければならない。
安全第一、安全に気をつけて作業しなければならない。 クレームが増加傾向にあるため、クレームを出さないよう作業しなければならない。
何度言っても現場が思い通りに動いてくれない・・・
ルールを決めたのに、ルールがまったく守られていない・・・
そんな現場をみて、ますますイライラしてしまう・・・
こんな経験、あなたも身に覚えがあるのではないでしょうか。
では、管理監督者や現場が動いてくれないのは、彼らに問題があるからでしょうか?
あなたの指示の出し方、教え方に改善の余地は残されていないでしょうか?
あなた自身の指示の出し方、教え方を見つめなおすために有効な「MORSの法則(具体性の法則)」を今回はご紹介します。
■ 「MORSの法則(具体性の法則)」とは
「MORSの法則(具体性の法則)」とは、1960年代~70年代にアメリカで考えられた行動科学の分野で行動を定義する時に用いられる法則です。
MORSの法則は次の4つの条件の頭文字をとって名付けられました。
M : Measurable(計測できる)
O : Observable(観察できる)
R : Reliable(信頼できる)
S : Specific(明確化されている)
この4つの条件を満たしていないものは、行動科学では、「行動」と呼びません。
「計測できる」は数値化できていること、「観察できる」は誰が見ても、どんな行動をしているか分かること、「信頼できる」は誰が見ても、同じ行動だと認識できること、そして、「明確化されている」は何をどうするかが明確になっていることを意味しています。
前述の“現場をきちんと管理しなければならない”、“安全に気をつけて作業しなければならない”、“クレームを出さないよう作業しなければならない”は一見「行動」をあらわしているような印象を与えますが、MORSの法則をまったく満たしていないため、「行動」にはあたりません。
では、あなたの指示の出し方、教え方は、「行動」にあてはまっていますか?
■ 「MORSの法則」から考える行動する現場のつくり方
“一を聞いて十を知る” 孔子の「論語」からうまれたことわざといわれています。 指示を出す相手が全員、一を聞いて十を知ることができる人であれば、伝えるのになんの苦労もいりません。 しかし、パレートの法則(20対80の法則)にあてはめると、2割の人は一を聞いて十を知る人、残り8割の人は具体的に行動を伝える必要がある人に分類できます。この8割の人に行動してもらわなければ、現場はまわりません。
つまり、全員が行動できる現場にするために、伝える側が「MORSの法則」を満たす指示、教育をする必要があります。
私は作業の標準化、多能工化に向けた活動や「技術・技能伝承」のセミナーを行う際には、必ず次のような問いかけをします。
“下記にしたがい、一枚の紙に絵を描いてください”
(1)月を描いてください
(2)家を描いてください
(3)流れ星を描いてください
(4)池を描いてください
(5)木を描いてください
(1)~(5)を描き終わったのを確認して・・・
“まわりの人と絵を見せ合ってください。まったく同じ絵がありましたか?”
(1)~(5)の問いかけは、「MORSの法則」の4つの条件を満たしていないため、みなさんまったく違う絵を描きます。
そして、まったく同じ絵を描くために、(1)~(5)の問いかけをどのように修正するべきかを考えてもらいます。
この問いかけを通して、「MORSの法則」の重要性を体感していただき、みなさんの日々の発言や作業手順書が「MORSの法則」を満たしているか振り返っていただくと、「MORSの法則」を満たした行動を指示している人、手順書はほとんどないことに気付いてもらえます。
アルバート・アインシュタインも「教えるということは、こちらが差し出したものがつらい義務ではなく、貴重な贈り物だと感じられるようなことであるべきです」という言葉を残しており、教える側の伝え方の重要性を述べています。
現場が迷わず、具体的に動けるよう「MORSの法則」を意識して指示や教育をしてみてはいかがでしょうか 。