コラム/海外レポート

2012.07.05

成功する改革と失敗する改革(2)

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執筆者:

小久保 和孝

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この記事は5年以上前に掲載されたものです。掲載当時の内容となりますのでご了承下さい。
第2回 期待以上の改革が実現する時

先回は、改革に苦戦する時を取り上げ、その背景にあるミドルマネジメント機能の不足が問題となっていることを説明した。ミドル層に求められる論理展開と進捗管理という2つの能力、 それは理論と実践という面で十全に改革を機能させるための働きである。この働きが不足していてはいかなる改革も成功には至らない。改革を希求する思いが組織で共有されてこそ改革は成功する。 今回は成功する改革の条件についてお話したい。

2.期待以上の改革が実現する時

「テクノ経営さんはV=F/Cで活動を進めるが、私達にとってはV=R-Eです」。クライアント企業であるD社の成果報告会、壇上での経営トップのコメントが忘れられない。Vは価値、 Fは機能、Cはコスト。ご承知のとおりVEの思想式だ。同時にテクノ経営のVPMの根幹に存在する改善観でもある。
D社の言う、Vは同様に価値、Rは結果、Eは期待だ。テクノ経営を導入当初、「テクノ経営を活用すればこれくらいの成果が出るだろう」との期待値・目論見値を超えた、予想外の結果(成果)が 報告されたからだ。前年比3割減の売上げで原価率を15ポイント改善し、結果として大幅な減収増益を果たしたことにはコンサルタントである私自身も驚いた。そして、トップの驚きとお喜びは 相当なものだったと思う。その改革成功のポイントを解説したい。

(1)全員が参加参画し、目的をひとつにした「必死の活動」

D社改革の滑り出しは順調であった。活動対象は製造、開発、設計、品証、調達、営業、労務と全社の機能分野に渡っていたが、各部門各階層の目指していく姿も鮮明にされ、 アプローチも明確化されていた。
ところが、活動の中間段階に至って、会社の様相が一変した。経済情勢の急変により、売上げ予測が毎週下方修正される事態に陥ったのだ。このままで行くと売上げ3割減が 現実のものとなる。にわかに社内が緊張ムードに包まれた。しかし、コンサルティング支援を行うテクノ経営の立場として、「事業の前提が変わったので、お約束した数値も 修正しましょう」とは言えない。中間報告会以降、私自身もコンサルティングの絵をゼロから描きなおすことにした。外注施策を180度変更、各活動の目標値を大幅に修正、 新たなテーマを追加しメンバー選定もやり直した。そして、D社の管理者達には次の質問をぶつけ続けたのだった。
それは、我々は、
“変える”という前提に立っているか?
タブーをタブーのままにしていないか?
「ありたい姿」を訴え、共有化しているか?
“停滞”に対して悪を感じているか?
「出る杭」になろうとしているか、トップは支援しているか?

の5つである。
これらの提言を通じて、彼等の目の色が瞬間に変わったのを知る。トップの本気度とコンサルタントの焦燥感と責任感が織り交ぜられながら、緊張感とワクワク感を伴い組織全域に広まっていった。 そして、D社の従業員の誰一人も欠ける事無く、文字通りの全員が改革に参加したのだった。連帯こそ日本企業の強み、本来のポテンシャルは3倍にも4倍にも増幅され、一秒を惜しむ様な スピードで改革のアイデアが引き出される。企業内で、各チームで、大小さまざまな活動成果が現れ、そして管理者はターゲットである原価率低減に向けて、その成果を下から上につなげて行く。 彼らは懸命に努力し、確かな成果を出した。「今回はわが社で奇跡が起こった」というD社トップのコメントはけっして大げさな表現ではないと思う。

(2)「生産性を向上させる」 その先にある本当の目的を知る

E社E工場の活動も期間の半ばから目的から大きく変わった事例である。
当初は工場の機能強化、存在価値を高めるための生産性向上や品質向上が活動の目的であった。
ところが、社債の転換期が近づいていたE社では、経営陣からも利益確保のために「キャッシュに変換するのではなく、株に変えてもらいたい」と言う要望が提出された。
そして、役員がE工場の活動をIR情報として公開したのであった。「わが社は生産性の高い、強い工場になる」 E工場の活動においては、単なる生産性向上はもう目的ではなく、 後には引けない企業の危機を救う手段に大きく転換されることになったのだ。
メンバーにその事を伝えたのはコンサルタントだった。生産性向上を目指す真の目的、それは企業価値を高めることである。利益が生まれなければ、企業と社員の将来は危うい。 この目的にベクトルを合わせることこそ、E社に必要なことであった。この切実な事態の説明により、ほとんどのメンバーがこの活動の重要性を知り、自らの存在価値を知り、 それぞれの人生の中でそうそうには出会わない、決して忘れる事のない時間を共有し、行動し、実践を通じて貴重な改革を体験したのであった。
「2・6・2の法則」というものがある。活動という面で見れば、20%が前向きな優れた人材、60%の平均的人材、残り20%が消極的人材ということになる。 これは人間集団に普遍的に現れる傾向とも言われるが、20%のリーダー的存在が平均的な大半のメンバーを感化していくことを説明している。E社の場合も例外なく、 推進リーダーからメンバーに意識の共有化が効果的に進められたと言えるだろう。
成果報告会には、全ての役員が参列し、謝辞を述べる。メンバー全員がかつて味わった事のない無上の自己効力感に包まれていた。企業のピンチを救う結果を残し、 工場を大きく変えたメンバーたち、本当の意味での意識改革をやり遂げたと言える。
その後のE社では、Ⅱ期、Ⅲ期と活動は続いたが、ホップ・ステップ・ジャンプで大活躍し、テクノ経営のコンサルティングが導入された当初とは全くの別工場に 変貌した。――生産も、意識も、文化も、価値観も。
もうE社の成長が止まることはないだろう。
今回は紙面の都合上、事例の紹介を2社に止めるが、既にお分かりの事と思う。
それは、全員参加の活動であること。一部署の取り組みでなく、企業の存続のために参集している全ての人が参加してこそ、想像を遥かに超える結果が生まれてくる。
ある段階までは生産性向上の目標値は活動の目標そのものと言えるが、どの企業においても、どの取り組みにおいても生産性向上はあくまで手段に過ぎない。その先にあるもの、 生産性を高めて何をしていくのか、その目的を皆が理解し、賛同し、社内に多くの共感者があふれていけば、その活動を通じて、企業も、働く人も、製品も、顧客にも、無限の 可能性が広がっていくのである。

次回以降は、改革し、成長していく目指すべき活動の姿を述べたいと思います。
ここまで、お読みいただき本当にありがとうございました。

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