コラム/海外レポート

2012.07.01

成功する改革と失敗する改革(1)

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執筆者:

小久保 和孝

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この記事は5年以上前に掲載されたものです。掲載当時の内容となりますのでご了承下さい。
活動の成否を分ける条件とは

経営コンサルタントとしてモノ作りの現場に身を置き十数年が過ぎた。とどまる事を知らない環境の変化や時代の流れの速さの中、種々の困難に果敢に立ち向かう企業を支援し、改革を実践してきた。
時にはクライアント企業内部からの抵抗もあったが、企業を憂い、まなざし熱く見つめ、日本の「モノ作り文化」の輪郭がおぼろになる事を恐れ、必要とあれば組織のパラダイムを超えたところに可能性を期待し、 見える改善・探す改善・創る改善の最適バランスを図りながら推し進めてきた。
そして見事に烈風を乗り越えた多くのクライアント企業がある。活動の中には数々の名勝負や名場面があった。目を閉じれば直ぐに緞帳が上がり、あの時の熱い時間が呼び覚まされる。まるで昨日の事のようだ。

どの企業、どの製造現場も誇りと自負で満ち溢れている。それぞれの組織で、各階層の社員が企業の健全な存続に向け、まさしく24時間×365日の中で最大のパフォーマンスを発揮している。 その姿に敬意を払いたい。日々問題が発生する工場の操業を安定させ、顧客の期待に応え続け、会社を存続させている。実績を重ねることで社歴が延び、企業の伝統と慣習と常識がますます荘厳なものとなっていく。 支えてきたのは一人ひとりの社員の方々、本当に素晴らしいと思う。
しかし、企業を取り巻く環境変化は想像以上に曲者であり、手厳しい。これまでの延長線上の仕事ではたちまち立ち行かなくなる。現場に敬意を抱きながらも大きく変えていかなければならない部分がある。 改革を実現するコンサルタントはある種の破壊者であり、創造者である。この曰く言い難いジレンマの中でコンサルテーションを進めている。輝ける名場面もあるし、苦戦の日々もある。

1.改革に苦戦する時
(1)ミドルマネジメントが機能しない

コンサルテーションにおいては、まず、改革実現に向けた実効ある推進体制の編成が必要である。会社を変えていくには全階層が目的達成に向けて、きちんと機能していかねばならない。
組織編成は、経営トップを頂点に、両脇を推進事務局と支援部隊が固めること。経営トップの想いや意志をストレートに伝える体制づくりが重要だ。余分なノイズやフィルターを排除し、 目標達成のために意志決定者と推進チームを直列に結んだ組織、これをテクノ経営では十文字組織と呼んでいる。

推進チームの統括がミドルマネジメントに求められる主要機能である。その機能は、課題展開能力と進捗管理能力という2つの能力に分けられる。
課題展開能力とは目指す姿や方向性に対し、そこに到達するための課題を明確化する能力。また、進捗管理能力とは活動の成果を下から上に数値でつなぐ能力を意味する。 つまり、遅延なく活動を進めると共に評価基準を設定し、常に活動の統制を図ることである。

活動におけるミドルマネジメントの機能は極めて重要だ。ここが機能不全に陥ると活動に対するコンセンサスが得られなくなる。大切な「人を動かす5つ」が揃わないからだ。
その5つとは

・「目的を揃える」…具体的な目標提示
・「定義を揃える」…ビジョン、方針の設定
・「意識を揃える」…何のために行うのか
・「目線を揃える」…客観的視点、今の事実
・「活動を揃える」…全員の参画と参加


である。これらの条件が一つでも欠けると活動全体に締まりが無くなり、動きが鈍くなる。コンサルタントに対する反応も遅くなり、何を行うにせよ果てしなく時間を要するようになる。 これは改革を推進するにあたり回避すべき注意点でもある。
・・・企業の格差は、実はミドルマネジメントの格差から産み出されるのかもしれない。

(2)トップマネジメントの参画が薄い

これまでのクライアント企業の中で、ある意味で記憶に残る企業を紹介したい。

◆◆◆ A企業 ◆◆◆

シェア3位のA企業のトップは常に忙しい。タイトなスケジュールを縫うように工場視察をさせていただいた。同様にタイトな日程を調整しプレゼンをさせていただいた。 ご契約をいただきコンサルテーションが開始され一年半が経過した。着実に成果を上げ、工場は見違えるくらいきれいになり、機械は音を立ててお金を産み出し始めた。 人はキラキラと輝き、後ろ向きの発言が絶無となった。素晴しい結果と思うのだが、私もメンバーもなんとなくモヤッとしている。一年半前のプレゼン日以降、 私はA企業のトップと一度もお会い出来ずにいた。

◆◆◆ B企業 ◆◆◆

売上げ2000億円を超えるB企業の目的は製品在庫の圧縮だ。経営トップの本気度は高い。在庫を圧縮するためにはB企業のモノ作りのコンセプトを根底から変えねばならない。 工場だけでなく設計開発・購買・物流・営業など全部門を対象に活動を進める。その結果、本社にある8つの工場で実績が出た。私は同じコンサルティングフレームを持って、 東北へ、山陰へ、近畿へ、北関東へ、全国の工場に活動を展開した。
改善が進み、その改善を成果に転換する仕組みができ、果実を刈り取る時期が来た。私は全国を回る。B企業のナンバー2も私の後から全国を回る。後から知った事だが、 ナンバー2は、「在庫になっても良いからどんどん作れ。活動を停止せよ!」と各工場で指示を出していた。

◆◆◆ C企業 ◆◆◆
C企業は弱電産業の中堅である。生産性を競争優位に高めていく上でメインラインの設備稼働率向上が必須の課題だ。直行率も良くない。徹底的な改善が始まった。非稼働要因を 全て顕在化し手を下した。活動を通じて、切替時間も圧倒的に短縮した。しかし稼働率は上がらない。もう一度ゼロからの出発だ。とことんまで極限を目指す改善を進める。 しかし稼働率は65%から先に上がらない。C企業は過去の苦い経験から製造部長の指示で計画段階で設備負荷率65%の設定で生産していた。 うかつにも私は気付くのが遅れてしまった。

コンサルタントの任務は、“変えたい”という企業の意思を具現するために邁進すること。少々の抵抗には怯まない。しかし経営トップや企業の意志から距離をあけてしまったら、 いかなるベテランコンサルタントも窮地に立たされる。活動にドンヨリと厚い雲が圧し掛かってしまう。
先ほど紹介した企業はごく一部の事例である。“変えたい”という意思に対して企業の方針そのものが制約となる場合、経営トップが全てをコンサルタント任せにし、結果だけを 求めそのプロセスには一切の興味を示さない場合、経営トップが企業のタブーを黙認しているか気付かない場合、たとえ活動によって成果が得られたとしても、その成果は一過性で 持続性は期待できず、真に改革できたとは言えない。真に企業が変わったとは絶対に言えない。
・・・コンサルタントをノイローゼにするには、実はこの手が一番よく効く。無視されると一溜まりもない。

(3)解決の糸口が見つからない

モノ作りNo.1に取組む日本企業の現場には凄まじいエネルギーが渦巻いている。課題解決や困難克服に向けた各社各様の方法論追究にかける情熱は相当なものだ。
多くの企業は、本来、大概の問題を自社で解決できる力を持っている。しかし企業内部の論理では解決できない課題もある。これまでの実績や努力してきた自覚をもってしても、 環境変化に対する不安感は消えない。問題の存在に気付けずにいる企業もある。問題の解決にあたり初期モーメントとして外部コンサルタントを作用させ、ググッと加速を求める企業もある。 (そんな時にはどうか遠慮なくコンサルタントを活用していただきたい)
現在の課題解決は多くの企業においてはかなり手強くなってきている。近くの書店で数千円も出せば買える書籍を読んだくらいでは解決の糸口すら見つからないほど難しくなってきている。
実は私も過去において、結果的には成功しご評価をいただいたが、そのプロセスにかなりてこずった案件があった。クライアント企業の複雑に絡まったビジネス環境の中で、 これもまた複雑怪異なモノ作りの中で、あの手この手と打つ策が一向に効かない時があった。担当コーディネーターに「もう全てを探した、全てを考えた。この世界に解決する方法は無い!」 とぼやいてしまった。
ましてや改革を進める活動だ。簡単に進むほうがおかしい。それくらいならコンサルタントは必要ない。解決の糸口が見つからない時、プロジェクトの全てのメンバーは諦めてはいけない。 プロジェクトリーダーは今こそ微塵も揺らぐことなく決意して欲しい。「完遂せよ!」と声高に叫んでいただきたい。この程度でエンディングを迎えようとか、ここまで来れば十分だ、 などと気を抜いた瞬間、改革の道は閉ざされてしまう。遅々とはしているだろうが決して間違っていないはずの改革への道はいきなり迷道となってしまう。大丈夫、だと思う。 それはメンバーの皆様以上にコンサルタントは悩みもがいているし、プロジェクトリーダーにもましてコンサルタントは勇気をもって決意しているからだ。
・・・テクノ経営コンサルタントはメンバーと共に「できない」とは言わない約束をしている。

以上、ここまで改革を進める時に苦戦する、よくあるパターンを述べた。お気付きの事と思うが、強く、より良い企業に変えたいという思いが組織全体に共有され深く浸透し、 共振共鳴を起こす事が重要だ。そのための必要条件がある。それほど多くないが、大切な必要条件が各企業の文化の中にある。改革推進を図る際にはどうか御留意いただきたいと願う。

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