はじめに
モノづくり企業の海外進出が進展しています。タイにおいても、その安い労務費、豊富な労働力、立地国及び周辺諸国の大きな市場性により、 日本国内でのモノづくりに比べ、比較的容易に収益をあげることができる状況にありました。しかし、最近は労務費の高騰(新しい政府による 最低賃金の底上げ等)、労働力の供給を上回る新規企業の進出による需要の増加により、労働力の確保が非常に困難になっています。
これらの、環境変化により、これまでのように継続的に安定した収益をあげることが難しくなり、競合力の再構築が緊急の課題となっているのです。
多くの企業において、日本人主体・主導による企業経営から、ローカル人材主体のモノづくり企業への企業体質の改革を図るがために、 企業トップの交代、日本人スタッフの削減に取り組まれておられます。しかしながらその実態は、改革活動の第一ステップである、 『改善・改革活動の風土づくり』の難しさに直面しておられる企業様が多くあることを昨年よくお聞きしました。
こういった状況の中、弊社が活動支援に介在することで、この改善風土づくりを確実に達成された企業様が多数あります。
今回は、日本人主体のモノづくり企業から、ローカル人材主体のモノづくり企業への改革に取り組まれた、企業様の事例をご紹介しながら 「改善活動の風土づくり」に関してアドバイスしていきたいと考えます。
● なぜ今、ローカル人材を主体としたモノづくり改革なのでしょうか?
日本国内に比べて、安く・そして豊富な労働力により、人海戦術的に多くの従業員を雇い日本人スタッフ(社長、部長、課長、エンジニア)が、 主体となってのモノづくりで収益をあげることができた時代から、現状はローカル企業、そして周辺諸国の企業の追い上げによる、競合の激化により、 収益力・競合力を改善するため、製造コストに占める、日本人駐在員のあり方を見直すことが緊急の課題となっています。
これは日本人駐在員1人の総賃金を考えた場合、日本人スタッフの人数を削減し、最低限(適正)の人員数にすることが避けては通れない課題で あることを示しています。当事者である皆様が切実に感じておられるのもこの点です。
そのためには、日本人主体のモノづくり(経営)体質から、ローカル主体のモノづくり(経営)体質に変革することが必要です。ちなみに、 昨年2011年の工場診断を実施した企業様の殆どが、何らかの形で『ローカル人材主体のモノづくり・ローカル人材による企業経営』と言った テーマを掲げておられます。
● ローカル主体のモノづくりへの改革の難しさ
これまでのコラムでも、ローカル主体のモノづくりへの改革活動における、4つの原則を紹介していますが、ここでは少し視点を変えて、企業様が直面する難しさを見ていきます。
ある企業様の事例 『上場企業のグループ会社様』
(1)ローカルスタッフを巻き込んだ改善活動に取り組んだが、彼らのレベルが低く、結局は日本人スタッフが中心となって改善活動を実行して、 それなりの成果を出したが、スタッフの帰国、トップの交代で、改善活動は定着せず中断してしまった。
※このケースが一番多いようです
このケースでは、改善活動に入る前の『改善活動の基盤づくり・風土づくり』を十分に実施せずに、日本人スタッフが、日本で実施している 改善活動をそのまま実行しようとしたところに問題があります。
彼らローカルスタッフにしてみれば、日本人達が、日本の本社から指示されて、自分たちの実績、成績を上げる為にやっていると、言った意識でしか見ていない。
この事例でわかるように、いかにして、彼らローカルスタッフの意識を変えてやるか、変えることができるかです。そのために、先ずは日本人スタッフ自らの 意識を変える必要があります。
うわべだけの言葉、行動では、ローカルスタッフの意識、気持ちをかえることはできません。
ではどうやれば、ローカルスタッフの意識を変えて改善風土をつくりあげることができるのでしょうか。
● テクノ経営総合研究所 VPM活動における準備期間の重要
この準備期間において、下記の様な取り組みを行います。
(1) 赤札ローラー作戦 3S活動の徹底実践
(2) 問題発見力強化活動 『MAP-5』
(3) 問題発掘活動 「全従業員による問題抽出活動」
(4) 活動推進体制づくり
(5) スローガン、標語づくり
(6) 改善環境の整備
以上の様な取り組みを行うことで、ローカルスタッフと日本人スタッフとのコミュニケーションの改善を図り、ローカルスタッフの意識を変え、 協働で改善活動を実行していける基盤・風土を築きあげることが可能です。
それと同時に、問題を掘り起こす活動『問題掘り起こし活動』による、問題の顕在化とそれを、改善すると言った行動を実践することで、 改善による効果を体現させることができこれがその後の改善活動のステップへのスムーズな移行を可能とします。
● 準備期間における、取り組みの事例紹介
ある企業様では、過去に数回改善活動を社内で実施したが、ローカルスタッフの巻き込みに失敗し、弊社の支援を受けられました。その時に実行した取り組みを紹介します。
*社長を含む日本人スタッフ全員参加による、赤札ローラー作戦実行
会社としての改善活動への本気度をローカルスタッフに示すために、最も地道であるが、確実な活動。工場建屋内、周辺を対象にした不用品のリストアップ、 リストアップ品のトップ決済による廃棄処分。対象エリアを設定して徹底的に実践して、ローカルスタッフに対してアピールする。本ケースでは、疑心暗鬼であった、 ローカルスタッフも2ヶ月目からは、積極的に活動に参加し、改善前・改善後の 写真撮影による資料作成も自主的に実行されるといった、動きへ展開していきました。
3ヶ月終了時点では、見違える様な工場に変貌し、本来の目的であったローカルスタッフの意識改革として、
(1) 今度の改善活動は違う、日本人スタッフが率先して3S活動を、汗まみれになりやっている、今回は本気だ!! (2) 赤札で、不要物を廃棄するだけで、 現場が見違えるように変わった、改善は簡単!! (3) 活動に対して、報奨もあり、やったことに対して、褒めてもらえる!! (4) 今回の改善活動は、 俺たちローカルスタッフの意見を採用してくれそう!! ここまでくれば、改善風土づくりは成功です。
その後の、改善活動で大きな成果を生み出したことは言うまでもありません。
● もっとも大きかった取り組み
従来からの、要望事項であった(これまで会社として対応してこなかった案件)
“トイレ、シャワー室、更衣室のリニューアル”と言った活動がローカルスタッフの意識を変えたようです。
今まで訴えてきたことが実行された。との思いが、日本人スタッフが考えるよりも、遥かに大きな効果をもたらしたようです。
このように、改善活動の風土づくりには、企業様毎に、「大きな切り口があり」如何にこの切り口を見つけて、実行できるかが重要なポイントとなります。
皆様の会社にも、ガス抜きとして、ローカルスタッフの要求を聞いているが、ずっと先延ばしにしている案件がありませんか。
改善に必要な時間、金額とそれを実行することによる、改善風土づくりによる総合的な効果を、一度天秤にかけられることをお勧めします。私の経験では意外と、簡単に実行できることが多いようです。
【次回のコラム】
次回は、準備期間実行する取り組みの一つである「問題発掘活動」「Finding-Activity」に関して、面白エピソードを交えて紹介させていただきます。