2011.08.25
海外工場の改善ポイントⅤ 海外工場のローカルリーダー育成と企業の成長
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執筆者:
井原 昌志
はじめに
前回は、日本人およびローカルリーダー育成に関してお話し申し上げました。
今回は最終回として、組織を動かす改善活動のポイントをお話ししたいと思います。
● 組織を動かす
組織を動かす原理は、基本的には、「論理」「損得勘定」「信頼」という3つの要素できまります。「論理」とは「なるほどそうだね」と理解できること。人を動かすには、まず論理、自分自身の論理性がしっかりしていることが必要です。
次に、「損得感情」、これは改善により「仕事がこれだけ楽になるよ」という、自分自身に関係するメリットの部分です。そして、それにプラスして、教える側と教えられる側との「信頼」の関係が成立していること。この3つのバランスがあって初めて人は動くのです。
● 改善活動のプロセスで人を育てる
活動のプロセスそのものが人を育成する場面です。
よく見られるのは、活動計画の立案後、進捗のみを重視しすぎるケースです。日本人は完璧主義なのでしょうか、計画の遅れを強く意識してしまう感覚があるようです。
一般的に、計画の日程というものは、「日程=負荷量/投入工数」で表されます。改善の日程計画を立案するには、まず、しなければならない改善の量と必要とされる投入工数。そして、改善にどのくらいの時間を割くことができるのかを見積ることが必要です。そこから日程が決ってくる。これは当たり前の計算式です。
ところがここが中途半端になっている場合がよくあります。そういった計画で日程だけを厳守すればどうなるでしょうか。本来実施すべき改善の負荷量を減らすことになるはずです。そして、その結果、スケジュールは進んだが、実質的には表面的な形だけの改善に終わってしまうことが多いのです。
そこで私の指導では、「日程は変更しても可、しかし、負荷量(改善すべきこと)は絶対に変更しない」、という鉄則を守っています。投入工数を増やして日程を調整するのはいいが、日程が足りないから本来やるべきことができなかった、表面的な結果に終わったということを許さない方針です。活動の中身を最重視した進め方です。
計画というものは修正するためにあります。「ここまでやったが現状ではまだまだやり残したことがある。だから日程変更をしてあと2週間現状把握したい」、こういった前向きの計画変更は必ずプラス効果をもたらしてくれます。
● 目先の数値ばかりに捉われていては長続きしない
サラリーマンとしての経営感覚からは、どうしても短期間で数字をあげたいと思うものです。そのためにムチを振るう。しかし、その結果、1年後に目標数字を達成できたとしても、残るのは疲労感のみ。疲労感しか残らない活動は長続きしないものです。
しかし、仮に数字結果は及ばすとも、全員がいきいきとして改善は面白いという感覚を持ってくれたら、次も続けていこうという希望があるのではないでしょうか。単に数字ばかりにとらわれるのではなく、活動を継続・定着させるために人の気持ちを束ねる努力が必要です。
海外工場の改善活動でも途中で休憩を取る場合があります。 例えば、マレーシアのある工場を指導したとき、メンバーの疲労感が強いということで休憩を取ったことがありました。中間発表会が終わって、ひと段落、参加メンバーに感想をヒアリングすると、「活動はまだあるのですか」「いつまで続くのですか」、といった声があがってきたのです。それで一時的に活動を休憩することにしました。
この休憩の期間には、活動再開に向けての対策会議を行いました。疲労感で落ち込んだ気落ちを盛り上げる仕掛けをどうするか。この打合せには時間をかけました。私も改善事務局メンバーと一緒になって、各スタッフからの意見をまとめていったのです。その結果、活動の負荷を調整しながら、メンバーの内発的動機を引き出すことに成功し、活動は今も継続しています。
● 急がば回れ!改善に近道はない!
ティーチングだけではなく、コーティングとのバランスで人は育つもの。活動のプロセスさえ間違っていなければ数字は必ず付いてきます。成果がでなかった場合は、プロセスの悪い点を修正していくこと。結果だけに固執するのではなく、プロセスを大切にして進めていくことが大切です。
私はいつも、活動の系統立てた進め方について話します。「あそこが悪いから、あれを潰そう」といった「もぐらたたき」ではなく、どこがつながっているのか。系統立った「ストーリー(物語り)」で改善を進めていこうと考えています。
社内に考える人をどんどん増やすことで、新しいことに対応できる企業体質が生まれてきます。考える人が増えることが筋肉体質の組織を作ります。
「ものづくりは感性を鋭くすることが大切」というのが私の持論の一つです。例えば、5S活動などで「ものを直角・水平に置く」という原則があります。これは直角・水平を意識することにより異常に気付く感性を養うことに役立っているのです。こういう感性を持った人によって作られた製品は必ず高い品質を持つことにつながります。
● 人の成長なくして、企業の成長・発展はない
この連載の最後として、「ローカルリーダーの育成があって、海外工場および企業の発展もある」ということを申し上げたいと思います。
繰り返しになりますが、国・民族・宗教の枠を超えて言えるのは「誰でもほめられればうれしい」ということです。それがやる気のもとです。ここをおろそかにすると海外工場の改善は望めません。
異なる文化・生活習慣を持った人々と交流していくためには、複眼の思考がなければなりません。島国に住む、私たち日本人はともすれば、このことを忘れがちです。しかし、日本のものづくり企業が世界の市場で活躍していくためには、現地の消費者ニーズや生活感覚を無視することはできません。
これからも私の海外工場の指導は続いていきます。これからも海外工場でのエピソード等をお伝えできる機会があればと考えています。