~肝心の場面で実力を発揮できないジレンマをどう解消するか~ (Vol.1)
ものづくり現場では、開発設計部門に起因する品質クレームや製造不具合、作業の手戻りによる生産性低下など、数々のトラブルが日常的に発生しています。
製品コストや品質レベルの大枠は上流工程で決まるため、開発設計部門の責任は重大ですが、
人員不足と過剰な業務負荷の中、設計リードタイムの短期化でデザインレビューも十分に機能せず、本質的なトラブル対策に取り組む余裕がないという「負のスパイラル」に陥っているのが実情のようです。
重要なのは、開発設計部門に潜む「負のスパイラル」」の深層に揺さぶりをかけ、業務プロセスの標準化や個人スキルアップの仕組みづくりにより全体最適化をはかる開発設計部門改革の進め方を原点に立ち返って考えることです。競合に打ち勝つためには部門力を結集し、リーダーがその役割を果たす必要があります。
一般に、製品の性能は95%、コスト・品質は80%が設計で決まると言われます。開発・設計部門の重要性はますます高まっています。開発・設計をはじめ、間接部門の仕事は途中の進捗経過が見えないことが最大の悩みです。しかし、変化する状況に合わせて、その業務レベルを上げていかなければ対応できない時代になっています。
若手の技術者に見られる傾向
激変する開発・設計環境のなか、若年層の技術者に共通する弱点は経験年数が少ないことです。ゼロからの設計経験がなく、先輩の設計データを編集して作業する場合が多く、この20年間ほどで個人の技術進歩が停滞気味になっている。また問題解決のスキルが低いが、上の人が教えてくれない、海外進出で国内生産が縮小されている、実際の現場・現場との接点がないなど、設計部門を取り巻く厳しい環境が続いてきました。
そういったなかで新しい設計の仕事も少ないという不都合な現象が起きています。仕事の進捗・課題が見えず、特定の人ばかりに仕事が集中する現実。そこで新規業務で問題が噴出、コストダウンが進まず、時間が足らない状況が生じています。
部門長の役割とは
そうした状況のなか、部門長に課せらせた役割とは何でしょうか。それは設計部門の部下を動機づけ、自ら行動を起こすように仕掛けること。そして目標に向けて知恵を出しながら継続した活動ができる環境をつくることだと思います。
開発・設計部門のセミナーで「部門長は楽しいですか」とお聞きすると「あまり楽しくない」という意見が多いことに気づきます。では、どういうところが楽しくないのでしょうか。それをまとめてみると「自分のやりたい仕事ができない」「思うように部下をマネジメントできない」「部門長としての仕事の成果がつかめない」といった項目が挙がってきます。また、なかには「むしろ技術者であった方が楽しかった」という方もおられました。
一方、「あなたの部下は楽しそうですか」という質問では、「いつも仕事に追われており余裕がない」「技術者なので非常に扱いにくい」などの声が聞かれました。
これらの質問から上司も部下も仕事に追われている状況が伺えます。しかし、これは技術部門だけではないのですが、仕事に楽しさを見出すことは非常に重要なテーマです。そして、特に技術部門では楽しくなければ仕事の効果がでないからです。部下に仕事の楽しさを感じさせ、やる気を出させることが部門長の役割であると思います。
「知的クラフトマン」にはモチベーションが重要
開発・設計部門のメンバーを「知的クラフトマン」と呼びます。一般的に「自分の仕事に強いプライドを持っている」「自己完結して仕事への他者の介入を許さない」といった特質を持ち、自分の技術や設計スキルなどが認知されることに喜びを感じる傾向が強い。「さすが君の創ったものはちがうよね」といった評価が強いモチベーションを与えます。
部門長の役割は、部下の業務を後押しすることです。創造的なモノづくりには、異種結合が重要です。他部門や他社との交流を通じて新しい着想が生まれてきます。こうした場を設定することが求められています。
その工夫は、メンバーにとっての目的を明確にすることです。あるいは成功イメージを持ってもらう。「業界でこれをやった人はまだいない」「これは世界レベルの仕事である」などの一言が、やる気を抱かせ、一歩を踏み出す原動力となります。
(Vol.2に続く)