海外レポート

2020.10.15

コロナ禍のタイでものづくりの未来を考える

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執筆者:

藤井 秀文

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新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、タイを始めとするアジア・ASEANのグローバル経済における課題をあらためて浮き彫りにした感がある。それはグローバルSCMの名の元での中国への一国依存であり、中国のロックダウンによって、サプライチェーンが分断され、製品・部品が入ってこないことで、計画はあってもモノづくりが出来ないという状況が各国で発生したことに示される。中国を中心とするコストの安いところで作って、タイ国内や日本に供給するというサプライチェーンのモデルはこの10年ほどでアジア・ASEAN地域でつくられてきたが、今回その鎖が断ち切られ、工場が稼動しなくなってしまった。こんな状況はリーマンショック時にも無かったし、世界的にも初めての現象である。この結果を踏まえて、コストだけを重視して一国に供給を任せてしまうことの危険性にあらためて気付かされ、グローバルSCMを見直しする動きが出ている。今回のコロナ禍を踏まえ、今後に向けた5つの課題を整理すると

1) グローバルサプライチェーンの分断
2)自社社員の罹患による工場の操業停止
3)入出国規制の問題
4)ロックダウンによる人、モノの移動停止、経済の停止
5)ロックダウン解除後も経済が停滞

ということになるが、これらの課題解決に際して重要となるのが、「危機管理」と「リスク管理」の取組みで、私は今後各企業がこれらをきっちりやっていく必要があると考えている。危機管理とリスク管理を同じように捉えている方もおられるかもしれないが、危機管理とはまさしく有事が発生している中で、そのダメージを最小化していくための活動であり、リスク管理とは平時から有事に備えて、様々なリスクを想定した上で、その対処法を策定し、常に最新の情報に更新していく活動のことを指す。そういう意味から現在の状況はリスク管理のフェーズではなく、危機管理のフェーズに入っているといえる。そしてこの状況がある程度収束すると、次はまた第2波に備えたリスク管理の活動に入っていかなければならない。今回のコロナ禍だけでなく、現代は先行きの見通しが立てにくい、不確実性の時代である。このような状況下で、企業は常に潜在的なリスクを想定し、リスク管理と危機管理のマネジメントをPDCAでしっかりと回して、コロナの第2波は必ず来るという観点から、この取組みについて考えていくことが求められる。

さて今回タイではロックダウンにより経済より人の命を優先するという政策をとった。それによって多くの国民の生命が危険にさらされるような状況が回避できたことは、大いに評価されるべきだと思う。しかしその反面経済活動が停滞すると国全体としての需要が落ちる。そうすると全ての企業で受注が減り、売上、利益が減少する。そして最終的には多くの企業が存続の危機に陥るという負のスパイラルが今後想定される最悪のシナリオとして浮かび上がってくる。この予測に対して、持続可能性のある経営を維持していくためには、いったいどのように考えればよいのだろうか?
その一つの答えとして、私はリスク管理の観点から、今後企業は利益を最重要視した経営にシフトチェンジし、常に利益を出す企業体質を作っていく必要があると考えている。さらに今回これまで構築してきたサプライチェーンが分断され、全く機能しなくなってしまったことから、ある程度の需要が見込まれるなら、タイ国内での部品調達ということも考える必要があると思う。

また今後第2波の際に社員の中から感染者を出さないためには、職場衛生環境のさらなる強化が必要となる。職場でまず手を洗うとか、うがいするとかいうことから身につけさせて、プライベートも含めた日常習慣化を図ることが非常に重要で、ワクチンが開発されるまではマスク着用の義務付けも必要となる。その際マスク着用の意味を相手にうつさないためというふうに理解してもらうことも、職場の衛生環境に対する従業員のモラル向上に重要な視点といえる。さらに勤怠管理の強化も必要で、出退社時にはできるだけ人ごみの多いところには行かないというような指導も求められる。すでにほとんどの会社で取組んでおられる体温のスクリーニングチェックは今後も不可欠だが、やはり基本は現場の管理者が職場の一人ひとりの状態を気にかけていることが重要で、今回のコロナ禍の経験を活かして、次の第2波が来た時にどのように対応すべきかという危機意識の徹底が現場の管理者には求められる。

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