コラム/海外レポート

2020.12.02

不測の事態にどう対処するか?

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通勤からの帰宅時のことだった。ある駅に停車したとき、「人身事故が発生したため全線で運転を中止します」というアナウンスが入った。まさに想定外のできごとである。混み合う車内ではスマホで連絡をする人の姿もみられる。しばらくして「振替輸送を開始します」という放送があり、改札に向かう人々の流れが生まれる。改札口では代替の交通機関のルートを確認するため人混みができている。なんとか別の交通機関で帰宅することができたのだが…。

こんな風に、私たちはしばしば不測の事態に遭遇する。その時にどう対処するか。予想外のことだけに思考停止に陥りがちだが、ここは冷静に状況を観察したいものだ。
たとえば2011年に発生した東日本大地震で被害を受けた福島原発の記憶が残っている。耐震設計の強度を超える想定外の大地震により、福島第一原発は津波によりすべての電源を失い、圧力容器への注水・除熱機能が働かずメルトダウンを引き起こした。
ところが直線距離で約12キロしか離れていない福島第二原発では奇跡的に水素爆発からメルトダウンに至る未曽有の危機を回避することができたのである。

その危機を回避したのは、当時の第二原発所長であった増田尚宏氏であった。
増田所長は「危機管理マニュアル」にない想定外の行動に踏み切ったという。それは4つある外部電源のうち生き残っていた1回線を使うというアイデア。しかし、その電源は原子炉の建屋から遠く離れた場所にある。その距離は約800メートル、それをケーブルで接続する方法を考えるということだった。しかし、ケーブルといってもその重量はトンクラスになる。通常なら重機を使っても1ヵ月もかかる作業なのだ。水素爆発を防ぐために残された時間はわずか1日。通常の発想ではとても実現することは難しい。

この状況に対して、増田所長は人海戦術でケーブルを接続するという指示を出した。津波による浸水で残留物に取り囲まれた現場、約200人の作業者が2メートル間隔でケーブルを担ぎ、建屋に向かって引き込む作業を開始した。通常の考え方では不可能と思われたが、全員の決死の作業により、タイムリミットまで2時間という12日の深夜12時にケーブルは建屋につながれ原子炉の冷却が再開されたのである。

マニュアルにない発想力と現場対応、それが増田所長の決断と行動から学べること。常日頃から不測の事態に備えることの重要性を再度認識したい。