昨年末以降、新型コロナウイルスの感染拡大は、前回の「緊急事態宣言」の時をはるかに上回る状況となり、1月8日には首都圏一都三県に緊急事態宣言が再び発令された。2度目の緊急事態宣言は東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県が対象となっているが、全国的な感染拡大の中で、対象地域が拡大していく可能性は高く、昨春の緊急事態宣言発令時と同様に、今後社会、経済活動などへの様々な影響は避けられず、経済活動の停滞、さまざまなイベントの延期・中止等の社会不安に加え、テレワークへの移行や外出自粛が再び強く求められ、多くの人々の生活スタイルは制約を受け、精神的に不安定になりやすい状況が生まれることが予測される。このような危機的状況に対応するため、前回の緊急事態宣言以降注目されている心理的スキルが「レジリエンス」だ。レジリエンス(resilience)とは「逆境や困難、強いストレスに直面したときに適応する精神力と心理的プロセス」と定義される心理学用語で、元々は物理学の分野で使われていた言葉だったが、その後、幼児や青少年を対象とする臨床精神医学の領域で心の状態を表す言葉として使われるようになった。具体的には、困難な出来事に直面して一時的に気落ちしても、時間がたてば気持ちがすっきり元通りになるような「回復力」、誰かにネガティブなことを言われても、心に刺さったまま動けなくなるのではなく、テニスボールのように跳ね返す「心の弾力性」、今回のコロナ禍のように不測の事態が起こり、計画が思い通りにいかなくなっても諦めず、臨機応変に対応して目標を成し遂げる「適応力」などを指す。近年では心理学の分野だけでなく、組織論や社会システム論、さらにはリスク対応能力、危機管理能力としても広く注目されている。特にコロナ禍によって、誰もがなんらかのストレスを抱え不安を訴えている現状にあって、人の心の病的な側面ではなく、優れた側面を研究する「ポジティブ心理学」の主要なテーマとしてレジリエンスに対する研究が進んでいる。
またこのレジリエンスの考え方を企業経営にも活用し、より強靭な企業体質を構築していくための動きも加速している。戦争や大規模な自然災害、パンデミックといった危機においては、その前後で社会の構造が劇的に変容してしまうということが起こるが、その社会変容に対して柔軟に対応できる企業は成長する。一方で、社会変容に対応できなかった企業は縮小均衡を余儀なくされる。社会変容の局面ではそのような二極化が生じること、そして避けることができない危機はいかに準備をしていても必ずくる事がわかっているからこそ、経営者は自らの組織がいかにレジリエントになっているかを気にする必要がある。
2020年のものづくり白書では、今後更に深まる不確実性の時代において、製造業が成長を持続するため「企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)」が最も重要であることが示されているが、レジリエントな企業に必要とされるのもまさしくこの能力である。この数年の間でも国内企業には何度も100年に1度と言われるような危機が訪れている。このような想定外の危機に対する上でレジリエンスは中核を成す概念であるが、まだこの言葉が一般的なものとして浸透しているとは言えない。企業がレジリエンスを共通言語として用い、これまでの危機における取組みをマインドセットし、既存の危機管理対応を補完・再構築することで、自社の危機対応力、ひいては持続的な企業経営につなげることができるのではないだろうか。