企業経営のあり方を示すキーワードとしてはビジョン、ミッション、バリューなどがよく知られているが、近年その上位概念としての「パーパス」という言葉を聞く機会が増えている。パーパスとは企業や組織、個人の存在意義を示すものであり、この概念を軸としたコーポレートブランディングが「パーパスブランディング」だ。ネスレ、P&Gなど欧米のマーケティング先進企業がこぞって取組むのがこのブランディング手法だが、まだ日本企業での認知度は高いとは言えない。しかし昨年から続く終わりの見えないコロナ禍の中で、企業経営において最大かつ唯一のテーマはやはり「持続可能性」だということに社会や人々が気付き始め、「何のために存在するのか」というパーパスの概念がより重要な意味を持つようになってきた。そういう流れからも2021年は日本におけるパーパスブランディング元年となるような気がする。また持続可能性というテーマは2025年を目標とした世界的な取組み「SDGs」の根幹を成すものであることから、パーパスブランディングは今後企業の課題となるSDGs経営を推進するためのドライバーとなることも期待される。
さて古くから日本には近江商人が生み出した「三方よし」という経営に関する哲学がある。
近江商人をルーツに持つ伊藤忠商事、高島屋、住友財閥などの例を出すまでも無く、企業、顧客、社会の幸せを追求することを企業経営の要諦とするこの言葉通り、かつて多くの日本企業は事業を通じた社会課題の解決を自社の存在意義としてきた。このことから日本ではパーパスとして設定されていなくても、自社の社会的存在意義を中核においた経営を推進している企業は多いはずだ。しかしそれが明確化されていない場合、時代の流れの中でしだいに忘れられ、社史の一部として形だけが残っているようなケースもしばしば見受けられる。これは企業の無形資産という観点から考えても大きな損失だ。なぜなら、企業の社会的存在意義=パーパスは人々の「共感」という大きな価値を生むからだ。企業を取巻く多くの人々が事業に共感するということは、パフォーマンスが高まり成果が出やすくなるだけでなく、働く人々の労働意欲が高まることも意味する。人々は、個人の価値観にあっているもの、そして社会的意義があることにより幸福感を覚えるのだ。
今後更に混迷を深め、先行きを予測することが難しい時代において、今一度これまでの経営理念を見つめなおし、自社が何のために存在しているのかを明確化し、社会、人との関係を分かりやすく、力強い言葉で規定する。パーパスを軸としたブランディングは、かつて近江商人が説いた企業、顧客、社会に「三方よし」の幸せなトライアングルを構築するための重要な指針となると思う。