全世界で猛威を振るうCovid-19(コロナウィルス)の影響はフィリピンでも例外ではなく行動が制限(ロックダウン)された。多くの工場で出勤率が低下し、就業時間短縮や稼動率を落しての操業をせざるを得ない状況となり、“KAIZEN”活動の中断を余儀なくされた工場も多かった。行動規制が緩和され、出勤率が戻ってきた段階でようやく“KAIZEN”を再開させたが、多くの工場では以前のように活発な活動が出来ないという状況が発生していた。これには、個人差があるもののフィリピンの国民性に大きな要因があると考えている。以下に、フィリピンで“KAIZEN”活動を行う上で知っておくべき内容を説明する。
1. 過去にこだわらない気質
過去にこだわらないということは、常に前向きという意味では良い面もあるが悪い面もある。しばらく行わなかったことを「過去」として忘れてしまうことが多く、せっかく習得した知識が使えなくなっているという場面に何度か直面したことがある。私はここがフィリピンで“KAIZEN”を成功させる上での重要なポイントと考えている。例としてMan-Machineチャートを教育し、実践としてムダの見える化の改善を進めたとする。次のステップで、品質改善やチョコ停改善などの改善に取組んだところ、新規の機械が入ってきたので、Man-Machineチャートの作成を実施したが、Man-Machineチャートの形はしているものの、内容がお粗末だったという経験がある。「以前、Man-Machineチャート作成していたよね?」と言いたくなるのだが、改善メンバーにとってはMan-Machineチャートは既に「過去」となっており、使えなくなっているということである。こういう状況は珍しくない。
その為、重要なポイントは「過去」にしないことで、“KAIZEN”の基本事項は定期的に繰り返すことが必要である。Man-Machineチャートのように改善の基本となる内容は、比較的短い間隔で定期的に作成、分析を行い続けることが必要である。Covid-19の影響で、改善活動に支障が出ることは仕方ないが、“KAIZEN”を「過去」にしない為にも活動を止めてはいけないということである。
余談として補足しておくが、フィリピンの方々の記憶力は非常に高い。人の顔や車のナンバーなど一度会っただけ、一度見ただけで記憶していることには驚かされる。通訳と行動を共にすることが多いが、迎えに来た車やドライバーの顔を覚えているため、すぐにお迎えを見つけてくれるので非常に助かっている。
2. 「わかった」という基準が日本とは異なる
フィリピンの工場で活動を行っていると、「わかった」「知っている」「できる」という基準が、日本とは異なるということを理解することが必要である。これは、悪いことではなく基準が異なっているだけのことである。私は英語が苦手であり、「英語ができるか?」と聞かれると「出来ない」と答えるが、 “Hello”や“Thank you”は言えるし、簡単な自己紹介はできる。多くのフィリピン人は日本語で「こんにちは」や「ありがとう」と話すことができれば「私は日本語を話すことができる」と言う。確かに「こんにちは」と言えれば、日本語を「話せる」ということでは間違っていない。“KAIZEN”活動でも同様のことがある。“KAIZEN”活動の立上げ時期に改善に関する講義を行うが、「わかりましたか?」と問いかけると、多くのメンバーは「わかった」という回答をする。「全部知っていた」と答える人もいる。確かに言葉として「ムダ」や「ロス」を知っているだけでも「知っている」ことには間違いない。よって、自己判断の「わかった」「わからない」をそのまま鵜吞みにせず、きちんとスキル判断することが重要である。解答用紙に記載させるテストでも良いが、私は、日常的な会話の中でヒアリングし習熟度を理解することを心がけている。先のMan-Machineチャートにおいても「Man-Machineチャートを作成できるか?」と質問すると、「できる」と回答してくるので、きちんと習熟度を確認してから進めればよかったのである。
フィリピンの方々は、明るく、人なつっこくてフレンドリーで非常に真面目に業務に取り組む方が多い。日本の常識を押し付けるのではなく、国民性として異なっていることを理解すれば非常に良きパートナーになる。現在、Covid-19の影響で現地に行けない為にリモートでの会合が続いているが、私自身が「過去」になってしまわないよう、早くフィリピンで改善活動が行えるようになることを望んでいる。