コラム/海外レポート

2022.09.27

変わりゆくタイ

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執筆者:

小松 洋

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世界的に進むインフレですが、タイでは8月の消費者物価指数(CPI)変化率は7.9%と公表されており、単月で見ると日本の約2.8倍(日本の8月CPI変化率:2.8%)と急速に高まっています。バンコクに住んでいる私の肌感覚としても、様々なモノの値段が上がっていることを実感していますが、コロナ禍によって更に深刻となった格差社会のタイにおいては、特に低所得層への影響が懸念されます。一方でタイ従業員の2022年の昇給率見通しは3.2%とのことで、物価と賃金の上昇率の乖離は中間層へも影響を及ぼすものと予測されます。
また世界的な潮流として、中国経済の勢いがタイにも及んでおり、タイの工業団地では近年、中国企業進出の急増によって、日系企業数と中国系企業数の割合が逆転した所もあるようです。

これらのことから、人件費上昇圧力や優秀な人材の引き抜き、人材確保など、今後の日系企業に大きな影響を及ぼしかねない問題が起こり得ることが想定されます。

タイの生活においては、「支払い決済のデジタル化」、「買い物用ビニール袋の廃止」、「デリバリーサービスの普及」、「高いSNS利用率」、「王室批判」、「個人情報保護法施行」など、急速に物事や価値観が変化しているのが伺えます。

これまでのタイの数十年間は、日本政府の積極的な支援や官主導の経済成長戦略により、東南アジア最大の日系企業の集積地として大きな経済発展を遂げ、日系企業のタイの位置付けも「安定して安く製品を作る」から「安定した生産輸出拠点」へと少しずつ変化してきました。しかし、物価や人件費の高騰によって、状況は厳しさを増してきており、世界の経済勢力図の変化や人々の価値観の変化も踏まえると、今まさにタイの日系企業は過渡期を迎えているのではないかと思います。

コロナによって浮き彫りとなったサプライチェーンの見直しや、資源の価格高騰による原材料費や電気代の値上げなどのインフレ対応、オートメーション化、DX化、カーボンニュートラルに向けた活動、ASEAN地域の拠点再編など、様々な取り組みに加え、変わりゆくタイにおける持続的発展には、中国進出企業やタイ企業とのビジネス協業を視野に入れた「戦略」と「スピード」が更に重要なキーワードとなってくるのではないでしょうか。