サプライチェーンの見直し
新型コロナウイルス、米中貿易摩擦、ウクライナ情勢、急激な円安による原材料費の高騰といった様々な外的リスクが高まりを見せる中で、海外工場を国内に回帰させたり、国内の生産力を増強するなど、サプライチェーンの見直しが進んでいる。例えば、日本における最大の輸出産業の一つである自動車産業では、大手自動車メーカーが国際的な部品のサプライチェーンを再編したり、各部品メーカーは国内工場の新設や大型設備投資を実施するなど、「国内回帰」の動きが活発になってきている。
国内投資促進事業費補助金による後押しも
新型コロナウィルス感染拡大に伴い、令和2年度の第一次補正予算で実施された「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」制度では令和2年7月まで公募が行われ、146件・約2,478億円が採択された。2次公募では151件・約2,095億円、3次公募では85件・約974億円と、これまでの3回で合計382件・約5,547億円、国内におけるサプライチェーンの強化が実施されてきた。このような補助金の制度も「国内回帰」を後押ししている一因だろう。
32年ぶりの円安
そのような状況の中、10月21日の外国為替市場では円相場が1ドル=151円台に下げ、1990年以来32年ぶりの円安・ドル高水準を更新した。急激に進む円安による原材料や燃料の高騰によって仕入れや物流における様々なコストが上昇し、大きな影響を与えている。一方で、32年前の日本はどうだったのか。1990年はバブルの絶頂期で製造業の国内総生産はピークを迎えていた。数字で見れば、国内総生産の対前年比(年度統計)で各目8.6%、実質6.2%の増加率、雇用においては失業率2.1%、有効求人倍率1.4倍と素晴らしい実績を残している。コスト増に伴う経営圧迫で悪い印象やイメージが先行しているように思えるが、一概に円安が悪いとも言えないのではないだろうか。
日本のモノづくり復興へ向けて
海外のバイヤーにとってはメイドインジャパンの製品やその品質を安く買えるチャンスが到来している。アジアを中心とした新興国の賃金上昇や円安に伴い、製造コストは日本の方が安くなる場合も出てきそうだ。また、インバウンド再開によってこれまで以上に日本製品への需要も増えてくるだろう。そうなれば、高品質の日本製品が改めて世界から注目を浴びることになり、製造における「国内回帰」がますます進み、ひいては日本のモノづくり復興への兆しが見えてくるかもしれない。