注目が高まるリスキリング
リスキリング(Re-skilling)とは、現代社会において求められるスキルや知識が急速に変化する状況に対応し、自己成長や職業的なスキルアップを行うことを指す。近年、人工知能や自動化技術などの進化による新しい職業への変化、新しいスキルに対応するため、リスキリングを行う必要があると言われている。
海外では以前からリスキリングが注目されており、2020年世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で、2030年までに10億人のリスキリングをめざす『リスキリング革命』が宣言された。国内では、2022年10月に新たな総合経済対策が公表され、その中でリスキリングを行う個人や企業に向けての支援を強化する方針が明記されている。
デジタル人材不足とリスキリング(学び直し)の現状
現在、国内の企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む上で問題となっているのはデジタル人材の不足が挙げられる。経済産業省「第6回 デジタル時代の人材政策に関する検討会」の資料によると、日本のデジタル競争力は人材/デジタル・技術スキルを要因に63ヵ国中29位と低迷。また、76%の企業がDX人材不足を感じているにも関わらず、社員の学び直しを全社的に実施している企業はわずか7.9%、検討できていない企業が過半数近く存在しているとのこと。多くの企業が学び直しの必要性を認識しているが、依然としてその環境が整っていないというのが現状だ。
こうした中、2022年6月に閣議決定されたデジタル田園都市国家構想では、デジタル推進人材を2024年度末までに年間45万人、2026年度末までに230万人の育成をめざしており、その一環としてリスキリング等に関連する公的支援の強化を決定している。その他の施策として、人材開発支援助成金の拡充や公共職業訓練、求職者支援訓練、教育訓練給付におけるデジタル分野の重点化が挙げられている。また、経済産業省では民間事業者が社会人向けに提供する IT・データ分野を中心とした高度なレベルの教育訓練講座を「第四次産業革命スキル習得講座」(通称:Re スキル講座)として認定し、社会人のスキルアップを支援している。
製造業におけるリスキリングのポイント
DXに向けた動きが活発化している製造業においても、リスキリングは注目を集めている。例えば、生産ラインや製造機械といった工場内の各種設備をネットワークで接続して生産活動の最適化や情報管理の効率化を図るスマートファクトリー化、データ分析をもとにした仕入れや発注の予測~適正化、AIを活用した画像診断による不良品分析の自動化など、こうしたデジタル技術の進化に対応するためには新しい知識やスキルの習得=リスキリングが必要となってくる。
しかし、一口にリスキリングといっても選択の幅は広範囲にわたるため、判断が難しい。そこで、収益が見込める業種や工程を見極めて限定する、あるいはまったく新しい事業への人材として育成するなど、その目的を絞ってリスキリングを実施することで、取り組みを行う上でも明確な指標ができ、より大きな成果を期待することができる。
リスキリングが人材不足解消の一手となるか
労働力の中心となる国内の生産年齢人口は、2050年には現在の約7,400万人から約5,300万人まで2/3に減少すると予測されており、今後ますます人材不足が深刻な問題として浮き彫りになってくるだろう。こうした問題に対しては、ロボットを用いた生産ラインの自動化・無人化、AIによる品質検査、業務のデジタル化など、先進技術の活用が不可欠で、外部に委託するだけではなく自社でも対応できる人材が必要となる。そのためには人材育成への投資、つまりリスキリングが重要な役割を果たすといっても過言ではない。
もちろん、リスキリングに必要な時間やコストといったデメリットは存在する。しかし、近い将来、確実に訪れる窮地が分かっているからこそ、その対策をしていかなければ、事業の存続自体が危ぶまれる事態になりかねない。未来を守るための施策がまさに今、必要とされている。