深刻さを増す人手不足
総務省が発表した住民基本台帳に基づく人口動態調査によると、令和5年(2023年)1月1日現在の日本人人口は前年より80万523人減少し、1億2,242万3,038人となった。昭和48年(1973年)の調査以降、初めて全国の都道府県全てで減少し、平成22年(2010年)から14年連続で減少、対前年における減少数および減少率も過去最大となった。以前から警鐘を鳴らされているが、日本の人口減に歯止めが利かない状況である。15歳以上65歳未満の生産年齢人口でみると、2013年からの直近10年間で約600万人も減少しており、政府によると2065年までには現在の7,500万人から約4,500万人まで3,000万人近く減少するという見通しが発表されている。さらに現在の生産を担う熟練工の老齢化もそのスピードを増すばかりで、今後ますます人手不足の問題が深刻化し、その影響は生産性の低下や製品の納期遅延、さらには経営の安定性にも影響を及ぼすだろう。こうした状況を踏まえ、新たな生産手段としてロボットを導入することで人手不足を解消しようとする動きが広がっている。
身近な存在になったロボット
かつて、ロボットはSF映画などに登場する未来的な存在として描かれることが一般的だった。しかし、現在では技術の進化によって、自宅を自動で掃除するロボットやスーパーなどの施設内を清掃、空気洗浄を行うロボットなど、より身近な存在として私たちの生活に欠かせない存在となっている。
製造業においては、自動化された産業用ロボットが生産ラインで活躍する姿などは一般的なものとなった。一方で、協働ロボットと呼ばれる人間と共に作業するロボットも急速に普及している。これは、人間の補助として働くロボットであり、従来の産業用ロボットとは異なり、危険な作業や高い精度を要する作業などで人間の仕事をサポートしている。協働ロボットは、製造業に限らず様々な分野で活躍しており、例えば、物流業界では商品の仕分けや運搬、医療現場では手術の補助やリハビリテーションのサポート、介護業界では高齢者の日常生活を支援するなど、多岐にわたる。こうした協働ロボットの普及によって、私たちの生活はより便利で安全なものとなっている。
協働ロボットが果たす役割
産業用ロボットの内、協働ロボットの割合はまだまだ少ないものの、その存在感は高まっている。安全柵が設置不要で、人と同じ空間で作業できる協働ロボットは深刻化する人手不足を解決する“切り札”になるという声も多い。ロボットメーカーも協働ロボットの機能を進化させ、高まる需要に応える。特に可搬質量の性能UPに対するニーズが強く、各メーカーは従来のラインナップに、より高可搬の対応が可能な機種を加えている。協働ロボットが社会に普及していく中で、当初の想定に無い需要が生まれ、人力では業務に対する負荷の大きいものに対して、ロボットで対応したいニーズが顕在化している。
こうした協働ロボットは、人間と共に作業することで生産性を向上させるだけでなく、作業の効率化や労働環境の改善、安全性の向上など多くのメリットをもたらす。以下に、協働ロボットが果たす役割をいくつか挙げてみる。
■作業の補助と支援
協働ロボットは、人間の作業を補助することで効率的な作業を実現する。例えば、組立作業において部品の供給や位置合わせを行い、人間が高度な組み立てに集中できるようにサポートする。こうすることで作業効率が向上し、製品の生産性向上に貢献する。
■危険な作業の代替
人間にとって危険な環境や有害な作業をロボットが担当することで、労働者の安全を確保できる。高温や有毒ガスの発生する作業場などでは、協働ロボットが代わりに作業を行い、作業員の健康を守る。
■高い精度と一貫性
ロボットは高度な精度で作業を行うことができる。特に精密な測定や加工作業において、人間の手による作業では難しいレベルの精度を実現可能だ。また、疲労やミスによる品質の低下を防ぐことで、製品の品質向上にも寄与できる。
■生産ラインの柔軟性と拡張性
協働ロボットはプログラムを変更することで異なる作業に対応でき、需要の変動に対して柔軟に対応し、生産ラインの効率化を図ることができる。また、需要の増加に応じてロボットを追加導入し、生産能力を拡大することも可能だ。
■人間との共同作業
協働ロボットは、人間とのコミュニケーションを可能にすることで、作業の柔軟性を高める。人間の判断力や創造性を活かすことで、ロボットだけでは実現が難しいタスクにも取り組むことができる。
協働ロボットの今後
高い成長が見込まれる協働ロボットだが、市場への普及ではまだまだ課題も多い。機械の減速や停止などの安全面に配慮した仕組みを構築したとしても、どうしても接触時の不安が拭えない。また、万が一事故が起きた場合、その責任の所在はどうするのかといった問題点もある。また、こうした産業用ロボット全体としては、大企業と比べ人手不足がより深刻な中小企業にロボットが行き届きにくいといった課題もある。どうしてもロボット導入にかかる人的な資源やコスト面での影響があるからだ。その点、協働ロボットは小型で軽量、また省スペースでの運用が可能で、大がかりな安全システムも不要となるため、大規模な産業用ロボットと比べると導入へのハードルは低いと考えられる。また、多品種少量生産、短納期が常態化している中堅・中小製造業では、極めて有益なロボットだといえる。協働ロボットの導入によって、製造業における人手不足の解消だけでなく、生産性の向上や労働環境の改善、さらには労働者の能力向上など、今後も多くのメリットがもたらされることを期待したい。