コラム/海外レポート

2023.08.29

蓄電池技術で再び日本が世界をリードできるのか

関連タグ:
  • EV
  • 蓄電池

執筆者:

SNSで記事をシェアする:

  • LINE
日本が初めて開発したリチウムイオン電池

1980年代初頭に日本の技術者達によって初めて商用化されたリチウムイオン電池。この革新的な電池技術は、従来のニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池よりも高いエネルギー密度と長寿命を誇り、電池自体の重量も軽い。重量や体積におけるエネルギー密度が高いリチウムイオン電池は、スマートフォンやノートパソコンなどの携帯機器から電動車両、再生可能エネルギーの貯蔵に至るまで、さまざまな産業に広く利用されている。現在当たり前に使われている軽量小型のポータブル機器が発展してきた背景には、この小型かつ大容量のリチウムイオン電池が不可欠であり、その登場は世界的にも大きな転換点であったといえるだろう。カーボンニュートラルの実現に向けて、世界で様々なエネルギー問題に注目が集まる中、もっとも顕著な動きとしては自動車産業が挙げられる。従来のガソリン車・ディーゼル車からの脱却として、多様なEV車の開発が進んでいる。このEV車の普及に欠かせないのが蓄電池の技術である。現在では航続距離の延長や充電時間の短縮といった、ハイパワーかつ利便性の高さを求められがちではあるが、短い航続距離でも消費者のニーズに合えば、コストダウンや長寿命化、安全で耐久性が高いといった特長を備えた蓄電池へのニーズが今後増えるかもしれない。いずれにせよ、現時点においてもリチウムイオン電池は新しい社会の可能性を切り拓くべく、その進化を続けている。

蓄電池技術の世界情勢

2022年8月に経済産業省から発表された「蓄電池産業戦略」によると、蓄電池市場は車載用、定置用ともに拡大する見通しで、2019年には約5兆円規模だったものが、2030年には約40兆円と8倍に、さらに2050年には約100兆円にまで伸びていくと予測されている。
こうした中、日本以外の世界各国へ目を向けてみると、当初日系勢が技術優位で初期市場を確保したものの、現在では市場の拡大に伴い、そのシェアを海外勢に奪われている。車載用リチウムイオン電池では、2015年には日本が約50%のシェアを獲得していたが、2020年には日本は約20%まで落ち込み、代わって韓国が36.1%、中国が37.4%と中韓メーカーがそのシェアを拡大している。同様に定置用リチウムイオン電池においても、日本のシェアは約28%から約6%まで落ち込み、逆に中国が23.9%、韓国が35%とこちらもシェアを拡大させている。アメリカ、欧州、韓国、中国と主要各国は蓄電池に対する大規模な政策支援を実施しており、さらにアメリカ・欧州では巨大な市場を背景に規制措置・税制措置によって自国や同域内における蓄電池サプライチェーンの構築を進めている。
日本は、現在の主流であるリチウムイオン電池において、材料となる鉱物資源のほとんどを輸入に頼っている。加えて、銅、コバルト、リチウム、ニッケルの需要が急速に高まっており、サプライチェーン全体の維持、強化といった課題が大きい。こうした問題を解決に導けるかもしれない技術が、新しい蓄電池の開発となる。その筆頭として考えられるのは「全個体電池」や「ナトリウムイオン電池」といった次世代電池と呼ばれているものだろう。

日本から世界初となる技術革新も

全固体電池は、その安全性の高さや高温・低温での使用、寿命の長さなど様々なメリットが得られることから、電池の概念を変える次世代電池として注目を集めている。主要各国で量産化や性能向上に向けた取り組みが急速に進んでおり、日本でも同様に大手自動車メーカーをはじめとして開発を進め、特許の出願件数も増加傾向にある。
リチウムイオン電池は、その材料にレアメタルを使用しており、資源調達やコスト面での課題が大きい。希少金属に加え、銅も世界的に不足が懸念されており、電池のコスト高の一因となっている。こうした資源面での課題解決としては「ナトリウムイオン電池」への注目が高まっている。その最大の理由は世界中、地域を問わず、潤沢に存在しているナトリウムをもとにしており、希少資源を使用せずに作製できる点にある。特に資源をほぼ輸入に頼っている日本にとっては最もメリットの大きい電池となる。加えて、使用温度範囲が広く、充電スピードの速さやリチウムイオン電池の生産設備が流用できるといったメリットも挙げられる。逆にエネルギー密度の低さや製造コスト、安全性に課題を残しており、特に安全性においては、金属ナトリウムは水に触れると激しく反応し、自然発火や引火性ガスを発生させて爆発につながる可能性があり、製品化するには相応の対策が必要となる。そんな中、世界初となる革新的な技術が日本から発表された。電池材料が全て無機酸化物で構成され、可燃性への課題を克服し、さらには希少金属に頼らずに生成できる全固体ナトリウムイオン二次電池というものである。こうした新しい技術が、これからの未来を切り拓くイノベーションにつながっていくだろう。

蓄電池技術で再び日本が世界をリードするために

日本はリチウムイオン電池の成功によって、蓄電池技術において世界をリードする立場を築いた。そのシェアを主要各国に奪われる中、再び日本が蓄電池技術で世界をリードするためには、新たな蓄電池技術の開発が必須となるだろう。特に全個体電池やナトリウムイオン電池のような次世代の蓄電池技術へ注力するために、産業界、学術界、政府機関などが連携し、研究や開発の支援環境を整えることが必要である。すでに日本から新たな技術は生まれ出している。持続可能なエネルギー社会の実現に向けて、今後ますます進む技術革新に期待したい。

ホームコラム/海外レポートコンサルタントコラム蓄電池技術で再び日本が世界をリードできるのか