日本国内だけでなく世界各地で起こる異常気象
2023年の夏、日本国内では各地で猛暑が続き、最高気温が観測史上1位を更新した地点は128地点にのぼった。気象庁が9月1日に発表した2023年(令和5年)夏(6~8月)の天候によると、全国15地点の観測値による日本の平均気温偏差は+1.76℃となり、1898年の統計開始以降で最も高かった2010年(+1.08℃)を大きく上回る結果で、夏として最も高くなった*。
日本国内だけでなく、世界各地でも熱波が猛威をふるった。ギリシャでは最高気温が40℃をこえ、首都アテネにある観光名所として人気の遺跡「パルテノン神殿」では、特に気温が上昇する正午から午後5時にかけて一時閉鎖される事態になった。その他にも山火事や台風、洪水など、異常気象による被害を伝えるニュースが数多く報道された。こうした影響は農作物などにも被害を与え、自然災害によるサプライチェーンの分断など、世界経済の新たな脅威になっている。
※出典:気象庁ホームページ(https://www.jma.go.jp/jma/press/2309/01b/tenko230608.html)
地球温暖化から「地球沸騰化」の時代へ
世界気象機関(WMO)は、2023年7月7日に世界平均気温が17.24℃に達し、過去最高だった2016年8月16日の16.94℃を上回ったと発表した。国連事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した。化石燃料で利益をあげ、気候変動への無策は容認できない」と危機感を示した。2016年に発効された「パリ協定」では「世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2度より十分低く保ち、1.5度以内に抑える努力をする」という世界共通の長期目標が掲げられ、各国が温室効果ガスの削減目標を打ち出したものの、すでに世界の平均気温は努力目標となる1.5℃の上昇に追いついてしまっている。今後はさらに温室効果ガスの削減を加速していかなければ、まずます状況が悪化していくだろう。
ネガティブエミッション技術で炭素そのものを除去
こうした厳しい状況の中、今世紀後半にはカーボンニュートラルを実現すべく、その目標に向かって世界各国で対策が進められている。カーボンニュートラルではCO2をはじめとした地球上における温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにすることを目標にしている。そのためには、まずは排出する温室効果ガスの総量を大幅に削減することが必要で、ハイブリッドや電気自動車の開発・導入、太陽光・風力・水力・バイオマスといった再生可能エネルギーへの転換などの取り組みが実施されている。さらにカーボンニュートラルを実現する上で重要な役割を果たすのが「ネガティブエミッション技術」だ。温室効果ガスの排出を大幅に抑えたとしても、どうしても排出量をゼロにできない部分が出てくる。そこで、削減やゼロにすることが難しい排出分を埋め合わせるために行う吸収・除去といった役割を担うのがネガティブエミッション技術となる。
ネガティブエミッション技術とは、大気中のCO2を直接捕集するDAC(Direct Air Capture)や生物機能を利用して貯留または固定化等を組み合わせ、正味としてマイナスのCO2排出量を達成する技術のこと。最もポピュラーな例は植林や再生林といった樹木によるCO2吸収の促進だろう。その他では、BECCS(bioenergy with carbon dioxide capture and storage)と呼ばれるバイオマスエネルギーの燃焼により発生したCO2を捕集・貯留する技術や、土壌炭素貯留と呼ばれる有機物を土壌に貯蔵・管理する技術などがある。素晴らしい技術である一方、課題としてはCO2の分離・回収・貯留にかかるコストが挙げられる。コスト面を含め、こうした技術の実用的な確立へ向けて研究・開発が進められている。
持続可能な未来を実現するために
世界規模や企業単位でカーボンニュートラルの実現をめざすだけでなく、私達一人ひとりにもできることがある。例えば、日々の生活で電気の使用を節約したり、食品のロスをなるべく無くしたり、ごみの排出量を減らすなど、ほんの少し意識を向ければ取り組めるものばかりだと気付けるはずだ。母なる地球の資源は限りがある。未来の人類に対し、その恩恵を無くさず、限りある資源を持続させていくために。未来への鍵は、現代を生きる私達の手の中にある。