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2024.05.28

カーボンニュートラルの実現に向けて

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カーボンニュートラルの重要性

■カーボンニュートラルとは何か?
温室効果ガスの排出を全体としてゼロになることをめざすカーボンニュートラル。具体的には、排出される温室効果ガスを同量の吸収量で相殺することにより、実質的にゼロにする取り組みだ。これには再生可能エネルギーの利用、エネルギー効率の向上、カーボンキャプチャー技術(CCS/CCUS)の導入などが含まれる。

■日本の目標
日本政府は、2050年までにカーボンニュートラルを達成することを宣言している。この目標はパリ協定に基づくものであり、気候変動対策の一環として世界的な潮流にも沿っている。これにより、日本は環境先進国としての地位を確立し、持続可能な社会の実現を目指している。

■製造業の役割
日本の製造業は、経済の中心的存在でありながら、エネルギー消費が多く、温室効果ガスの排出量も多い業種。製造業でカーボンニュートラルを達成することは、日本全体での目標達成に必要不可欠となる。さらに、環境に配慮した製品や生産プロセスは、消費者や取引先からの評価も高まり、競争力を強化する要素にもなり得る。

日本の政策や規制の現状

■日本の政策
日本政府は、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」や「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律(改正地球温暖化対策推進法)」の制定など、カーボンニュートラルに向けたさまざまな対策を実施している。これらの政策は、再生可能エネルギーの普及、エネルギー効率の向上、革新的技術の開発などを推進している。

■国際規制
パリ協定をはじめとする国際的な枠組みは、日本の製造業にも影響を与えている。例えば、EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)では2023年10月から、まずはセメント、肥料、電気、鉄鋼、水素、アルミニウムを対象に暫定適用が開始されるなど、国際的な規制が日本企業に対するプレッシャーを増大させている。これに対応するためには、グローバルな視点での戦略立案が必要となってくるだろう。

■排出量取引
排出量取引とは、企業ごとのCO2排出量に「枠」を設け、その排出枠の過不足を取引する制度。気候変動の主な原因となっているCO2に価格を設定し、排出量に応じて金銭の負担や取り組みに向けた行動変化を促す「カーボンプライジング」の一つ。日本でも、2026年度から本格稼働が予定されている。

製造業への影響と課題

■技術的課題
カーボンニュートラルの達成には、技術革新が不可欠だ。特に、再生可能エネルギーの利用拡大や生産プロセスの改善が重要となる。しかし、これらの技術導入には高い初期投資が必要であり、経営者は長期的な視点での投資判断を求められるだろう。

■経済的課題
カーボンニュートラルへの移行には、多大なコストが伴う。新しい技術の導入はもちろん、既存施設の改修、さらには炭素税の負担増加が予想される。これらのコストをどのように吸収し、利益を確保するかが重要な課題となってくる。

■サプライチェーンの再構築
カーボンニュートラルを実現するためには、サプライチェーン全体での取り組みが必要となる。例えば、原材料の調達から製品の配送まで、全てのプロセスでの排出削減が求められる。これにより、パートナー企業との協力関係も再構築する必要が考えられる。

技術革新と実践例

■技術革新
カーボンニュートラル達成には、革新的な技術が重要だ。例えば、水素燃料技術やカーボンキャプチャー技術(CCS)が注目されている。これらの技術は、温室効果ガスの排出を大幅に削減するポテンシャルを持っており、企業が競争力を維持しながら環境負荷を減らすための重要なツールとなるだろう。

■実践例
具体的な実践例として、エネルギー効率の向上、リサイクルの推進、再生可能エネルギーの導入などが挙げられる。例えば、エネルギー管理システム(EMS)の導入により、工場全体のエネルギー使用を最適化し、無駄を削減することが可能となる。

■国内外の先進事例
日本国内はもちろん海外を含め、世界各国でカーボンニュートラル達成に向けた先進的な取り組みを行っている。主には再生可能エネルギーの利用拡大やエネルギー効率の向上に向けたAI技術の活用などである。
以下にいくつか事例を挙げたい。
【先進事例】
 ・工場の屋根全体にソーラーパネルを取り付けた太陽光発電システム
 ・風力発電設備を工場敷地内に併設
 ・工場の照明LED化等による省エネ
 ・AIを用いたエネルギーマネジメントシステムの導入
 ・蓄エネルギーシステム
 ・重力蓄電システム
 ・水素燃料電池の導入
 ・水素還元製鉄
 ・二酸化炭素回収・貯留・利用技術(CCS/CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)
 ・再生可能素材やリサイクル素材の利用

実践に向けたステップ

■戦略立案
カーボンニュートラルを達成するためには、明確なロードマップが必要だ。短期的には、エネルギー効率の向上や排出削減のための設備投資を行い、中期的には再生可能エネルギーの導入を進める。そして、長期的には革新的技術の導入や、新しいビジネスモデルの構築を目指す戦略が求められる。

■内部コミュニケーション
カーボンニュートラル達成には、全社員の協力が不可欠。そのため、従業員教育を通じてカーボンニュートラルの重要性や具体的な取り組みを周知徹底することが重要となるだろう。また、モチベーション向上のために、成功事例の共有やインセンティブ制度の導入も効果的だ。

■外部パートナーとの協力
サプライチェーン全体での排出削減を実現するためには、外部パートナーとの協力が不可欠。取引先やサプライヤーと連携し、持続可能な調達や製品開発を進めることで、カーボンニュートラルを実現するための共通の目標を設定することが重要となる。

カーボンニュートラルと競争優位性

■ビジネスチャンス
カーボンニュートラルへの取り組みは、新たなビジネスチャンスを生み出す。例えば、環境に配慮した製品やサービスの需要が高まり、市場競争力を強化することができる。また、環境規制に対応することで、国際市場での競争力も向上していくだろう。

■ブランド価値
カーボンニュートラルを実現する企業は、消費者や取引先からの信頼を得ることが可能だ。持続可能な経営は、企業のブランド価値を高め、顧客ロイヤルティの向上に繋がる。特に、環境意識が高まる現代において、環境配慮は企業の競争優位性の一つとなり得るだろう。

■競争力の強化
カーボンニュートラルは、長期的な競争力強化に寄与する。環境規制が強化される中で、早期に対応することで競争優位性を確保し、また、エネルギーコストの削減や効率化により、経営資源の最適配分が可能となる。

まとめ:未来へのビジョン

■長期的な展望
カーボンニュートラルは、単なる環境対策に留まらず、企業の長期的な成長戦略の一環として捉えるべきだ。持続可能な社会を目指す中で、製造業が果たすべき役割はますます重要になってくる。

■次世代への責任
企業がカーボンニュートラルを実現することは、次世代への責任を果たすことでもある。気候変動に対する取り組みは、未来の社会と環境を守るための重要な一歩だ。

■持続可能な成長
カーボンニュートラルは、持続可能な成長を実現するための道筋である。環境と経済の両立を目指すことで、企業は持続的に成長し、社会全体の発展に貢献することができる。

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