コラム/海外レポート

2024.07.09

パワー半導体が未来の日本を切り拓く鍵となるか

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日本の復活のカギを握るパワー半導体

パワー半導体は、エネルギーの制御と変換に欠かせない部品であり、電力機器から車両、家電まで幅広く利用されている。世界的なシェアでいくと、ドイツ・アメリカ・スイスの企業がトップ3を占める。日本勢は企業ごとでのシェアは小さいものの、トップ10に5社が食い込むなど、高い信頼性と耐久性を武器に競争力を維持し、パワー半導体の世界市場で存在感を放っている。高効率で更なる省エネ化をめざせるパワー半導体は、カーボンニュートラルといった脱炭素のおけるキーデバイスとして注目を集めており、スマートフォンやテレビといった身近な家電製品はもちろん、EVの開発が進む自動車産業をはじめ、電車やデータセンター、通信基地局、太陽光発電など、大きな電力を用いる分野でも欠かせない存在で、さらなる需要拡大が見込まれている。今後、世界市場で日本勢が勝ち残るためには、企業単体で戦うのではなく、協業などを通じて競争力を高めていく必要があるだろう。

パワー半導体とは

半導体とは、金属といった電気をよく通す「導体」とゴムなど電気をほぼ通さない「絶縁体」との中間の性質を持つ物質や材料のことで、こうした通常の半導体と比べ、パワー半導体は高い電圧や大きな電流の制御・変換が可能となっている。そのため、パワーデバイスとも呼ばれ、高電圧・高電流の電力を効率的に制御・変換することにより電力のロスを最小限に抑え、エネルギーを効率的に利用することができる。代表的な材料としては「シリコン(Si)」があり、加工のしやすさや高品質かつ安価で製造できるため、ほぼ主流の材料となっている。近年では、よりパワー半導体に向いた物質を持つ新材料の研究や開発が進められており、「炭化ケイ素(SiC)」や「窒化ガリウム(GaN)」などを用いた次世代パワー半導体に注目が集まっている。

次世代パワー半導体の特長

半導体の素材として非常に優秀で、これまで主流の素材となっていたシリコン(Si)だが、電力を流した際に発熱しやすく、電力ロスが大きいといった課題を抱えていた。こうした課題を解決するため、さまざまな改良が行われてきたが限界や伸びしろに陰りが見え始めた。そこで現在、活発に研究や開発が進めてられているのが、よりパワー半導体に向いた物質を持つ次世代材料たちだ。特に次世代パワー半導体として、その存在感を高めているものがSiCパワー半導体とGaNパワー半導体になる。

■SiCパワー半導体
シリコンカーバイド/炭化ケイ素(SiC)と呼ばれる素材を用いており、シリコン(Si)よりも約3倍となるバンドギャップを持ち、ワイドバンドギャップ半導体とも呼ばれている。バンドギャップとは、電子が存在できない領域の幅とされているもので、半導体においては高い電圧に耐えたり、電力損失を抑えたりすることが可能だ。また、従来のシリコン(Si)半導体を製造していくプロセスの中で、装置をそのまま活用できる部分が多いというメリットもある。

■GaNパワー半導体
窒化ガリウム(GaN)と呼ばれる素材を用いており、シリコンカーバイド/炭化ケイ素(SiC)と同様にシリコン(Si)の約3倍となるバンドギャップを持つ。さらに、シリコンカーバイド/炭化ケイ素(SiC)と比べると電子の移動度が高い、つまり電子が移動しやすく、高速でのスイッチングに適しており、ACアダプターやスマートフォンの小型急速充電器といった小型かつ軽量化が求められる分野での活用が進んでいる。これまではコストや技術面での課題が多く、量産が難しく普及が進まなかった窒化ガリウム(GaN)だが、近年の技術進歩により、こうした課題を解決し、普及への期待が高まっている。

パワー半導体における技術革新と協業で日本の未来を切り拓く

日本がパワー半導体市場での競争力を維持し、さらに成長するためには、技術革新と協業が鍵となるだろう。特に、シリコンカーバイド/炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などの次世代パワー半導体の研究開発を加速させることで、日本の企業はより高い付加価値を提供できるようになる。また、企業同士の協力や産学連携を通じて、さらなる技術向上と市場拡大を目指すことが重要だ。パワー半導体の分野での日本の成功は、持続可能なエネルギー社会の実現に向けた大きな一歩となり、日本経済の復活にもつながるだろう。日本の企業がこの重要な市場でリーダーシップを発揮し続けるために、さらなる戦略的な投資と今後の革新的なアプローチに期待したい。

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