株式会社ノムラ化成は1968年の設立より、軟硬質塩ビ異形押出し製品の製造・販売を一貫して続けてきた。 冷蔵庫ドアのガスケットやチューブ、壁面に文書をとめるマグネット小物など、身近なところにも使われる同 社の製品は、多くの分野で活躍する産業界の必須アイテムだ。
台湾・中国・アルジェリア等に幅広く技術供与してきた実績は、海外からの高い評価 と信頼感を感じさせる。同社の海外展開は、1989年6月に K.U.NOMURA THAI LTDをタイに設立。その後、2002年3月には 中国上海にも進出し、多様化する顧 客ニーズに応える体制整備を計ってきた。
今回、取材にお伺いしたK.U.NOMURA THAI LTDは、バンコク近郊のラカバン工業団地に本社および第一・第二工場を構える株式会社ノムラ化成の海外主力工場だ。 タイ人の潜在パワーをいかに引き出すか、その鍵はコミュニケーションと協調性作りにあった。自主改善につなげる1年間の活動をレポートする。
はじめに貴社の概況についてお聞かせください。
大嶋:
当社は1968年4月、先代社長が野村化成株式会社を設立し、軟質塩ビなどを中心とする異形押出し製品の製造を現在まで手がけてまいりました。
タイ国には、1989年6月 K.U.NOMURA THAI LTD(ラカバン工場)を設立、2012年には、Gatewayに新工場を設立し、タイ国及び日本のお客様の幅広いご要望にお応えすべく増産体制を整えたところです。
当社の現在の従業員は450名で、その内日本人スタッフは5名です。現地従業員はタイ人に加えて、海外からの従業員(カンボジア人、ミャンマー人)を雇用しています。
弊社の主力製品はガスケットであり、タイ国内の日系家電メーカーに標準採用して頂いておりますが、近年、 中国や欧州系及びタイ現地企業などとの競合が激しくなっています。
VPM活動ご導入のきっかけをお伺いします。
大嶋:
TMCT主催のセミナー受講がきっかけです。そのタイトルは「タイ人の潜在パワーを引き出し、タイ 人主体のモノづくり」というものでした。セミナーでは、タイ人リーダーが誇りと自信を持って事例発表をされており、コンサルタントによる講演も勇気を与えるものでした。
「これなら当社でも実践できるのでは」と思い、社長の決裁となりました。すぐに工場診断を受け、社内検討の結果、コンサルティング導入を決定した次第です。 ちなみにセミナーで講演されたコンサルタントの木部様には現在もご支援していただいております。
当時、背景にあった工場の課題は何でしょうか
大嶋:
今までは好調な受注等により、業績を伸ばしてきましたが、最近の大きな課題として、タイ国におけ る労務費の高騰(最低賃金の高騰)、労働力確保の難しさ、労働力の流動(幹部の退職等)に直面しており、 外国籍の労働者での補充で対応していました。
このままでは危機的な状況が予測されます。タイ人従業員と日本人スタッフの力を合わせた「モノづくり 基盤の再構築」の必要性が高まってきました。それで外部コンサルタント導入を検討していたわけです。セ ミナーの参加はタイミングとしては、まさにベストタイミングであったと思います。やはり何事にもタイミ ングがあるものだとあらためて思いました。
改善活動はどのように進められたのでしょうか。
大嶋:
当社では、コンサルタント導入による改善活動の推進は初めての試みでした。そこで、コンサルタントとの事前打ち合わせにより、主力製品部門である“Gasket部門”に限定して活動をスタートすることにし ました。
改善活動の環境づくり、意識付けのため、活動名やロゴマークは社内公募としました。これによりメンバー の参画意識が強く促されたと思います。また、ゲーム感覚の問題発見研修を事前に実施することで、チーム 改善活動にスムーズに入ることができました。これらの準備期間を通じて、私を初め日本人スタッフとタイ 人従業員とのCommunication , Cooperation が大きく改善できたことも大きな成果でした。
改善活動のロゴマーク G030に込められた意味は何でしょうか。
大嶋:
GasketのG、0は休日出勤“0”そして、30は生産性30%アップです。改善前(Before)に大きな課 題であった休日出勤の常態化に対して、ロゴマークに“0”が採用されたことは喜びでした。
トップのスローガンをロゴマークに取り入れてくれたことで、「この改善活動は必ず成功する」と言った確信 と期待感を持ちました。
実際の改善活動はどのように進めておられますか。
大嶋: コンサルタントと打合せし、当社に合致したスタイルで進めています。8つの改善チームを作り、指 導日に、全チームリーダーと日本人スタッフが参加して、進捗報告をリーダーが行っています。加えて、定期的にメンバー全員で現場に出て、特定工程、作業の観察を行い、全員で問題の抽出と対策案の検討(意見 交換)を行っています。チーム改善ボードを作成しましたが、タイ人のやると決めた時のスピードには感心 させられました。
1年間の活動の進め方に関してはどうでしょうか
大嶋:
準備期間では、全員による現場観察、気づき発見活動。チーム改善活動では、困り事、問題の抽出活 動からの改善実行と言った『Before&After』活動を実行しました。
それを指導会で報告し、日本人スタッフも含めた参加者全員が共有することでCommunicationとCooperation は大きく改善しました。その後生産の日々見える化活動を全チームで実行し、少人化活動、生産性改善活動 で大きな改善効果が出てきました。
ガスケット製造部門が対象でしたが、状況を見て、Admin Purchaseの参加と言った様に、間接部門へ展開 と言った様に、ステップを踏んで進めています。
具体的な改善活動の実績についてご紹介下さい。
大嶋: 生産活動の見える化からの改善推進では、これまでパソコンの中に埋もれていた生産活動データの見 える化を4か月目頃から開始しました。当初は全員が戸惑っていましたが、生産性や歩留りなどの数値が見 える化できたことから、確実に彼らの意識が変わりました。その結果、全てのチームにおいて、特定の工 程・製品に関する目標値がクリアーできています。
少人化活動の実践状況はいかがでしょうか
大嶋:
正直なところ、少人化は一番難しいと思っていました。ところがタイ人の自主活動として少人化に取 組み成果を出してくれたチームがあります。
例えば、6人作業が基本だった検査・梱包工程では、作業バランスの見直しにより4人作業で行えるように なりました。少人化された2名に関しては、他工程の応援者となり活人化が行われました。全員での現場観察(動画撮影・時間測定)を行い、観察後チームに分かれて改善案を出し合ったことが、対象チームの自主性を引き出す誘因になったと考えています。
休日出勤 OT HOLIDAY“ 0”も改善されたということですが。
大嶋: OT HOLIDAY“0”に関しては、彼らの収入が減るという矛盾に直面するわけです。しかし、休日 は体を休め、家族とすごして、良いコンデイションで月曜日からの仕事に取り組むことで、仕事の質も向上 するという好循環が生まれ、やりがい、生きがいといった価値を感じていってくれたのではないかと思います。改善活動の一年目で、“0”に向けた取り組みを全チームが実施したこと、そして、クリアできたこと は期待以上の改善成果であると評価しています。
新しい技術・設備の導入にも取り組まれておられるとのことですが
大嶋:
日本で開発した機械設備ですが、実際使ってもらうのはタイの人たちです。その機械の性能を充分発 揮できるように、ベテランの日本人技術者が、現場で使いやすいように、タイ人の技術者といっしょに小さ な改造を重ねていっています。そして、その経過は指導会で毎回報告されています。
この様に、改善活動の指導会は、タイ人と日本人スタッフとのCommunicationの絶好の機会として位置付 けられます。私達日本人スタッフは指導会には全員参加しており、先日も1年目の改善活動実績報告会の後、 メンバーと食事会を開催し、楽しい一時を過ごしました。
2年目の改善活動に期待するところは
大嶋: 2年目はTubeとMagnet部門を含めて、全社改善活動へステップアップさせたいと思います。 彼らタイ人との協働で厳しい外部環境に対応しうるモノづくり体制の構築に向けてコンサルタントの 支援をいただきながら取り組んでまいります。
本日はありがとうございました。