古河奇宏電子(蘇州)有限公司は、古河電気工業株式会社サーマル・電子部品事業部門と世界有数のCPUクーラーメーカであるASIA VITAL COMPONENT'S CO.,LTD.(台湾)との共同出資で設立された。
同社が位置する歴史の都、蘇州市は中国ビジネスの拠点である上海にも近く、東に琵琶湖の三倍以上の面積を誇る太湖、北には 揚子江と水に囲まれた水郷地帯であり、東洋のベニスとも呼ばれる美しい町として知られている。
CPU冷却用のヒートシンクの一貫生産で世界的な評価を得ている同社では、創業当初より部品の現地調達に着手し、評価技術や管 理技術等の現地インフラ整備を進めてきた。活動を開始して半年、ローカル社員改革による現場力強化についてお伺いした。
はじめにコンサルティングを導入された背景をお伺いします。
私は今年の1月からこちらの責任者として赴任しました。部門責任者であった頃から、工場を変える根幹は現場力の強化だと感じてローカル社員の教育を進めてきました。
課長クラスから現場に浸透させる方針で教育を実施していたのですが、トップダウン方式の教育では今一つ現場との壁が崩せないという悩みを感じていました。そんなとき、「現場改善のプロ集団であるテクノ経営」 のことを知り、個人的に関心を持ったのがはじまりです。それがコンサルティングを導入した経緯です。
テクノ経営を選ばれた理由は何でしょうか
やはりコンサルタントのお話を伺ったことですね。各国の文化や事情に精通していること、ボトムの 意識を変えて現場力を向上させる方法論、そして海外での成功事例などをお聞きし、これなら我々が 抱えている問題や悩みにお力添え頂けると実感したからです。
今回の活動目的はどのようなものですか。
改善・改革を成功させるにはトップ自らが明確な意志を示すことが必要と言われます。また、コンサ ルタントからも会社の方向性と連動して目標を挙げる重要性をお聞きしました。そこで少し大げさですが、活動に先駆けて、企業理念および行動指針・活動指針を構想し直すことから開始しました。 そして、活動目的として品質と生産性の二項目を設定し、活動スローガンとして「FAZ昇龍200」 を掲げて推進しています。
推進体制についてお聞きします。
二つの製造部門を対象に、それぞれ品質と生産性をテーマ活動として進めることにしました。推進体制としては各部門に品質改善チーム、生産改革チームを作って、それぞれの目標に向かって対応しています。当社では活動の呼び方として、品質は改善、生産性には改革という使い分けをしています。 その理由は、コツコツ積み重ねながら問題クリアしていくのが改善、新たな条件を取り込んでいくのが改革という意味合いを持たせるためです。
特に生産改革は、今までのような単なる数量改善の展開ではなく、さらにもう一歩進んだ大きな目標 にチャレンジしていきたい。そして、そのためには改善というよりも改革という言葉の方がしっくりくると思ったからです。そのことを現場のみなさんにも理解してもらうためにも改善と改革という使 い分けをしています。
活動目標はどのように設定されておられますか。
目標というかスローガンですが、この一年という期間ではなく、二~三年先まで見据えたものとして設定しました。そのスローガンには200という数字が入っているのですが、生産性については200%を。 また、削減すべき不良については、200の2を分母に持ってきて、二分の一(50%減)という高 みを目指しています。
また、定性的な目標として、ボトムアップと現場力のアップを狙っています。当社では小組長と呼ぶ 現場作業の直接管理者、それらのボトムが自発的に改善を進めていく。そして、改善のサイクルをど んどん回して、現場に行ったら状況が見える環境を作りたいと思います。実際の活動(作業)として も見えるし、掲示物としても見えるという形が最終目標です。
活動に対する社員のみなさんの反応はいかがですか。
現在の駐在員は、来て間もない人もいますが、多くは出張ベースで長く関わっていた人で、社員とは 良くも悪くも気心の知れた仲間です。ただ、今回の活動ではコンサルティングの導入ということで、 明らかにローカルメンバーの現場を観る眼、やる気が変わってきました。自らができることを提案す る姿勢や知識やスキルを貪欲に吸収したい意欲が感じられるようになりました。
彼らの意識に火をつけて、活発な活動ができるようになってきましたので、ぜひこれを継続していきたい。 我々が活動を進めた場合、短期間は継続できても後が続かず、それが維持できないところが課題でした。 しかし、それが根付くような状況が進んでいますので今後への期待を含めてよかったと思っています。
活動の苦労話があればお話ください。
これまでも工場を良くするための改善活動は当然続けてきました。
しかし、今回の活動では新しいスキルやテクニックを血となり肉とすることを目指してやっている状況です。 定期的に訪問するコンサルタントに対して、前回に受けた宿題を何とかこなす努力が大きな力になっている ように思います。
最初は材料や設備の配置が乱雑で、また人は大勢いますし、工場内がごちゃごちゃして端から端まではまる で見えない状況でした。しかし、活動が進むなかで改善リーダーの強い意志もあってラインレイアウトの変更、 モノの置き場の削減、動線の短縮化などを進めることにしました。
ところが、当初それを達成するためには相当な苦労が必要でした。生産を行いながらのライン変更なので、 土日のライン停止時にローカルスタッフ全員をかき集めてラインを変更する必要があったのです。相当な苦労 でやり遂げた改善ですので充実感もありました。目に見えるように改善がなされていますが、あのときは、 涙が出るほど大変だったと改善リーダーは言っていました。いまではちょっとした笑い話になっていて、非常 にありがたい話です。
現在の活動成果についてはいかがですか。
今は活動を開始して半年なので、まだ道半ばという状況で、もう少し継続してやっていく必要がある かなという感じです。当初の計画からずれることはあっても、ただそのずれをいかに修正して目標を 達成するかが大事だと思っています。それを常に頭に入れて、最後はみんながハッピーで終れるよう に目標達成の道筋を考えながらやっています。
数字的にはまだまだですが、ここからの巻き返しを前提に最後は目標を達成したいと思います。
定性的な目標につきましては、先ほどお話したとおり現場中心の改善で現場のボトムアップにより意 識改革が進んでいます。それは活動に携わっているみんなが肌で感じている状況で、指導を受けてい る各実行者が目の色を変えて問題点の洗い出し、気づき、それをどうして改善するかという課題と取 り組んでいますので、意識としては確実に向上していると感じています。
今後のビジョンやプロジェクトに関してはいかがですか。
中国人ローカルの意識改革は並大抵のことでは出来ません。それは今までの経験を通じ肌で感じてきました。ただ今回は、その中で彼らの意識がかなり変わってきているなと感じていますので、今回は 磨けば光る彼らが真の実力を発揮することを期待したい。改善・改革を継続して、現場からの改善で工場を支えるという現場力の真の姿を考えているところです。
現場の実行部隊、彼らのやっている姿自体の改善が一つの見える化だと思っています。それと共に管 理指標がどう推移しているかをグラフに表すのも見える化となります。ぜひともそうした施策により、 作業者の姿や指標を見れば誰でも状況が把握できるような工場にしていきたいと思います。
また、ビジョンというほどではありませんが、ここに働いている人みんなが満足感、充実感を持てる会社にしたいというのが私の願いです。それは単に金銭面だけではなく、彼らのスキルや経験が向上 するというのも充実度の一つの尺度だと思うのです。
ここでいろいろな経験を積んで力を付けた人はぜひこの会社で長く仕事をしていただきたいと思いま すが、仮にこの会社から羽ばたいてほかの会社にいったときに、「あの会社から来た社員なら間違いない」と言われるような会社になれればと思います。
このあたりでは当社は規模が大きいので、多少注目されていますが、働いている社員の質の面からも 注目され、立派な会社だと言われるように現場の人を含めてやっていきたいと思っています。
本日はありがとうございました。
取材にご協力いただいた方
総経理 杉村 政信 氏