本ページでは、ジャパン マリンユナイテッド株式会社様に対するコンサルティング実績をご紹介しています。
かつては建造量世界一を誇り、お家芸と言われた日本の造船業だが、現在では海外諸国に対して後塵を排する状況となっている。韓国、中国、日本がしのぎを削り合う中、近年では、特に中国の伸びが著しい。このような状況下2013年1月、マーケティング力に強みを持つユニバーサル造船株式会社と技術力に強みを持つ株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッドとの統合により誕生したのが「ジャパン マリンユナイテッド株式会社(以下JMU)」である。社名の”ジャパン マリンユナイテッド”には、「日本の造船連合として、世界の造船業のリーディングカンパニーを目指す」という強い想いが込められており、統合により結集・強化された「開発・技術力」、「営業力」、「大型建造設備」等の経営資源を最大限に活用し、業界トップクラスの省エネ・環境対応技術と商品開発力で常に世界をリードする技術革新に取り組むとともに、7つの事業所・工場で、それぞれの特長を活かした付加価値の高い船舶の建造を行っている。また事業分野に関しては、商船・艦船事業を中心に強固な事業基盤を確立するともに、成長する海洋分野(海洋・エンジニアリング事業)および就航船サービス(ライフサイクル事業)への取り組みを強化し、更なる事業の拡大を図っている。今回の企業レポートでは、舞鶴事業所・修理部における改善活動の取組みを、関係者へのインタビューを基に紹介する。
(※ASAP 2018年 4号より抜粋)
舞鶴事業所・修理部における課題
舞鶴市は京都府北部の主要都市で、田辺城の城下町から発展した西舞鶴地区と、明治時代に軍港が築かれたことから発展した東舞鶴地区に大きく分かれており、海と山に囲まれた自然豊かな街である。その中にあってJMU舞鶴事業所は敷地面積77万5000㎡、日本海側唯一の大型造船所であり、地域経済においても大きな存在感を放っている。全国で7 つの事業所・工場を展開するJMU だが、船舶の修理、点検などを担当する修理部は横浜、呉、因島、そして舞鶴にあり、それぞれが個別の役割を持ち運営が行われている。主に官公庁の船舶の修理・点検等を担当する舞鶴事業所・修理部には現在約150名の社員が勤務しているが、高操業時は派遣社員、協力会社の社員も含めて約400名の大所帯となる。一般的な工場と違い、年間を通じて操業の状況が変化し、必要となる人員の増減が大きい中で、いかに作業を平準化していくかが、現場担当者の大きな悩みの種であり、2015年5月から実施された改善活動導入のきっかけとも言える。また改善活動スタート時は、官公庁船舶の5年に1回の定期点検が2隻重なり、加えて大型船舶の改修工事が臨時で重なったため、高操業時のさらに2倍の「かつてない高操業」の状況となっており、この状況に対応するための組織力向上が大きなテーマとなっていた。
改善活動実施の経緯
修理部では2011年から2013年にも小集団活動の活性化をテーマとした改善活動に取組んでおり、今回の活動では前回の活動をふまえて、更なるレベルアップを図った。活動事務局のリーダーを担当された修理部 管理グループの毛藤大輔氏によると、前回の活動では、社員が成果の発表を意識し過ぎた感があったので、次に活動を行う際は、活動の評価をあまり気にせず、社員が自分たちのための活動だという意識を持つことが重要と考えておられたとのこと。そのため新たな改善活動の実施にあたっては、修理部の組織力向上という大テーマの実現に向けて、具体的にどのような取組みが必要かという視点から検討を進めることになった。
造船の仕事は労働集約型であるため、一人ひとりの作業者の考え方によって作業の品質や効率が大きく変わってくる。そのため現場の作業レベルを平均化し、品質を担保するためには、現場に考えをえ、まとめている「職長」が果たす役割が非常に大きいことから、新たな活動では、現場のキーマンである「職長」の人材育成を基本方針として決定し、職長の個の成長から、現場の一体感醸成、組織力向上につなげていくというストーリーを描いて2015年5月から活動をスタートした。
改善活動の要旨
改善活動のスタートにあたっては、意識的に「発表会」という言葉を使わず、発表のための活動ではなく、自分たちのための活動だという認識を持ってもらうことに注力した。
活動はまず職長に自分の仕事の「あるべき姿=理想像」を描いてもらい、現状の把握とその実現に向けたアプローチをそれぞれが考えていくことを切り口としてスタート。対象となった職長は7名で、その内5名は3年間続けて活動に参加した。
修理部・部長の宮崎貞明氏によると、『活動当初はやらされ感のようなものも少し見受けられたが、コンサルタントの丁寧な導きにより、スタートから1年が経過した頃を境に、活動内容への理解・共感が進み、“今回の活動は自分たちのことをやればいいんだ”という気づきを得て、それぞれの活動の取組みがよりポジティブなものになってきた。コンサルタントとの信頼関係ができたことによって、自分たちがやりたいことを全面的に出すようになり、自信が出てきたように思う。この活動を“自分ごと”としてとらえた時点が、それぞれの職長の成長につながったターニングポイントになったのではと感じている』とのことであった。また活動スタートから約1年の間に、コンサルタントによる活動日以外にも、宮崎氏、毛藤氏も参加し、職長と忌憚無く意見を交換する会などを開催し、コミュニケーションを深め、職長の活動へのモチベーション向上を図るなど、事務局が積極的に関与されており、活動推進のドライバーとして大きな役割となったと思われる。
事務局の毛藤氏は、最初の半年は中々進まなかった活動が約1年間を経て、ようやく方向性が定まってきた頃、職長の上司で活動のアドバイザー役であるチーム長がつぶやいた「こんなに仲のいい職長同士を見たことがない」という言葉が非常に印象に残っているという。造船業界は歴史のある業界であり、「自分の仕事を全うすることが第一」という職人主義的な考え方がポピュラーで、横の連携というのはどちらかというとあまり重視されない風土・文化が現在も存在している。舞鶴事業所・修理部においてもそれは同様で、これまでは職長同士のつながりというのは少なかったが、今回の活動では、コンサルタントが関わったことがきっかけとなって、職長間のコミュニケーションが活性化し、改善活動の推進という同じ目的を共有することで、これまでの修理部にはなかった文化が育ち始めている。この状況は職長を支える班長、そして現場の作業者にも良い影響となり、ひいては修理部全体の一体感醸成に大きく寄与すると期待されている。
また毛藤氏は、職長の上司であるチーム長の変化にも注目されており『これまではチーム長が強力なリーダーシップで、職長以下の部下を引っ張ってきた部分があり、職長への発言もどちらかというと指示が中心で、職長もチーム長の反応を気にしながら発言するようなことがあったが、今回の活動を通じて、職長のさらなる成長を引き出すために、チーム長の職長への接し方や発言が変わってきたと感じる。そういうチーム長の変化は、今回の活動で当初は想定していなかった相乗効果であり、チーム長自身の成長にもつながったのではと思う』とのことであった。
宮崎氏は今回の活動の総括として「活動を通じて、それぞれの職長が自分の部署は何が強みで、何が弱みかということを把握出来て、次の高操業時に向けた課題に対する取組みを進めている。例えばある職長は、今まで自分が書いていた予定を、班長に作成させて、工程を把握して作業を進めるための取組みを行っている。また別の職長は班長同士のコミュニケーションが重要であると考えており、その強化を図っている。それぞれの職長が前回の活動を踏襲するためには、どういった取組みをすれば良いか把握出来た事が成果として大きい。また改善活動の結果は、経済的な効果としてすぐ結びつくわけではないが、基礎が出来ていれば、管理面の要求に対しても、現場が強くなる。将来の経済的価値創出に向けて、活動を通じた基礎力の強化が図れたことも大きな成果」と語っておられ、今回の改善活動が、中長期視点での舞鶴事業所の成長に大きく寄与するものとして期待されている。
今後のビジョン
2015年5月からスタートした職長を対象とした活動は本年3月に終了したが、この活動内容を踏襲して、本年4月からはスタッフ部門である工事担当のチーム長を対象にした新たなフェーズの活動がスタートしている。宮崎氏は「強い現場をつくるためには現場とスタッフ部門の両輪を回していかなければならない。現場に関しては3年間の活動で職長の成長という目標を実現出来たので、次はスタッフ部門のキーマンであるチーム長の個のレベルアップを図って行きたい」と語っておられ、今後も継続して、修理部全体の組織力をさらに強固なものにする活動の展開を目指している。
また舞鶴事業所全体のビジョンとしては「国内外で激しい競合状況にある造船業界の中で生き残っていくためには、現状よりさらなる事業拡大が必要と考えており、そのためにも舞鶴事業所全体の一人ひとりの個のレベルアップが求められてる。」と語っておられ、今後10年間を見据えた活動で、地域経済にもより良い影響を与えられる存在となるべく、確実な成果創出を目指すJMU舞鶴事業所の変革への取組みはさらに続いていく。
活動参加者へのインタビュー
今回の活動に参加された職長7名の内の一人であるの阿波宗臣氏は、3年間続けて活動に参加され、修理部・部長の宮崎氏も人間的にも大きな成長があったと評価されている。阿波氏に3年間の活動の具体的な内容についてお話をお聞きした。
Q: 活動スタート時はどのような印象でしたか?
A:
スタートにあたって、職長として自分のあるべき姿はイメージ出来ていましたが、果たして本当に思い描いている理想像を実現出来るのかなと思っていました。自分が考えていることを現場の人に言って伝わるのか?自分はどちらかというと話し下手で、部下に伝えることは、仕事の技術を教える以上に難しいと思っていました。一つの話を伝えるために、1週間、2週間、長い時は1ヶ月以上も考えたこともあります。
マンツーマンで話すべきこと、全体ミーティングで話すべきこと、話すタイミング、話し方など、コミュニケーションの難しさに直面し、活動に不安を感じていた部分もありました。
Q: 活動が進む中、何か変化のきっかけがあった のでしょうか?
A:
ある時、全体のミーティングで少し怒ったことがあって、それが一つのきっかけとなった気がします。今まで言えなかったことが、言えたという感じでしょうか。マンツーマンで話しても全員には伝わらないが、言いにくいことを全員の場で話すことで共通の認識を持つことが出来る。話す内容、相手、タイミング等を自分で考え、最適なコミュニケーション方法で伝えることの重要性がこの時つかめたような気がします。
活動当初、伝えるための技術をコンサルタントから教えていただきました。ホワイトボードを使って説明する方法など、色々試してはみましたが、なかなか相手に伝わりませんでした。ところが何度も自分で試し、失敗し、また試すと、繰り返しているうちに「気づき」を得る事が出来ました。その「気づき」がこれまで課題として考えていたコミュニケーションについて一つの方向性を与えてくれたのだ、と思います。
Q: 今後の取組みについてお聞かせください
A: この活動の中で若い人と話をする機会が増えました。直接の上司である班長には言いにくいことを自分に相談してくれることもあり、悩んでいる若手社員と時には飲みにに行ったりして、若手が本音で話してくれるようになりました。これは自分の中で活動の成果だと思っています。逆に今後の課題もやはり若手の成長をいかにサポートしていくかにあると考えていて、自分は今40歳ですが、20代の社員とは少し考え方が違う部分もあります。例えば今の若手社員は得意なことは進んでするが、苦手なことはあまりやろうとしない。そういう時ストレートに言っても駄目で、意識を変えてもらうために色々な伝え方、コミュニケーションの方法が必要なことは今回の活動を通じて学ぶことが出来ました。今後の課題としては若手社員が自分で気づき、動くためのコミュニケーションについて考え、若手社員の個の成長が修理部全体の成長につながるような展開を目指していきたいと思います。
取材後記
まず冒頭に本取材にご協力いただいた、ジャパン マリンユナイテッド株式会社舞鶴事業所 修理部・部長 宮崎貞明氏を始めとした関係者の皆様に心からお礼を申し上げたい。活動に実際に参加された社員の方のお話をお聞きすることが出来たことで、よりリアルな企業レポートを作成することが出来たのではないかと思う。今回の取材を通じて、個の成長が企業の持続的成長に果たす役割の重要性を改めて実感した。またその成長を支え、成長を期待する人、その期待に応えようと努力する人の関係性にも深く感銘を受けた。「企業は人なり」という格言の正しさを再認識した次第である。今後も舞鶴事業所の変革への歩みは続く、その取組みに注目し続けていきたいと思う。
取材にご協力いただいた方
ジャパン マリンユナイテッド株式会社
舞鶴事業所 修理部 部長 宮崎 貞明 氏
修理部 管理グループ 毛藤 大輔 氏
修理部 職長 阿波 宗臣 氏