国内コンサルティング事例

キングパーツ株式会社 鋳造部様

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「スリー・スマイル活動」による
全員参加での生産性指標の立上げと
ミドルを中心としたボトムアップ型組織への変革

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 本ページでは、キングパーツ株式会社 鋳造部様に対するコンサルティング実績をご紹介しています。
 「ロストワックス製法」は第二次世界大戦中にドイツで開発された複雑で精密な金属部品の製造を得意とする低炭素鋼の鋳造法である。昭和43 年、キングパーツ株式会社(以降キングパーツ社)の創業者である高橋孝一氏(現会長)は、当時アメリカのミシン部品の多くがロストワックス製法で作られていたことに着目し、この技術の手掛かりを求め単身渡米。そこで目にした従業員10人ほどの会社がロストワックスで鋳造している姿に確信を得て、ロストワックス製品の自社生産を決意した。それから約半世紀の間、常に時代の要請に先んじた開発力で、ロストワックス製法の精度向上と技術革新に努め、現在創業54 年目を迎える同社は、日本でトップクラスのロストワックス精密鋳造技術を誇る企業へと成長を果たした。100%国内生産にこだわった同社の製品は、航空宇宙・半導体・新幹線・医療・防衛設備・通信など、高い要求性能が求められる分野の最先端機器・設備の構成部品として使用されている。また『金型-鋳造-加工の一貫生産』体制により顧客の要望に柔軟に応え、多品種小ロット生産・高い品質・スピーディーな対応・安定した供給能力などへの高い評価から、年間の取引先数は約1300社にも上る。今回の企業レポートでは、鋳造部における改善活動の取組みを、関係者へのインタビュー、本年4月に行われた活動発表会の内容を基に紹介する。
(※ASAP2018年 4号より抜粋)

鋳造部における改善活動導入の経緯

 福山市は瀬戸内海の経済・文化・交通の要衝の地として発展し、広島県内では広島市に次ぐ人口約47万を擁する備後都市圏の中心都市である。昭和44 年大阪から福山市に拠点を移動したキングパーツ社は、以来常にこの地域との関係性を大事にしながら経営を展開し、企業規模と事業内容を拡大してきた。毎年8月に同社の敷地内で行われる夏祭りは、近隣の住民だけでなく、周辺からも多くの人が訪れる地域の風物詩として定着しており、同社と地域が共に支え合い、発展してきたことの象徴的風景である。このように福山市の地域経済においても大きなインパクトを持つキングパーツ社であるが、平成26年の創業50周年を経て、更なる成長の軌道を描くため、経営トップが重要課題として認識していたテーマは“鋳造部”の変革であった。

 キングパーツ社の鋳造部は本社敷地内あり、勤務する従業員は約200名で内180名が正社員である。正社員比率が90%と非常に高い割合を占めているのは、これまでの人手不足の苦労から、人材戦略として正社員雇用による人材確保を図った成果であり、併せて同社のものづくりの面白さや、ファミリー的な社風も社員の定着率向上の一因となったと考えられる。鋳造部は一般の工場における製造部門であり、①WAXモデル成型②WAXモデル組立③鋳型製作④WAX抜取⑤鋳型焼成⑥鋳込み⑦熱処理⑧表面仕上げ⑨鋳造品検査というロストワックス製品の製造工程全てを鋳造部が担当しているが、経営トップである高橋大治社長は経営改革を推進する中、鋳造部の数字だけが拾えないことに疑問を持たれていた。仕事の受注も多く、残業して沢山の製品を作っているのに何故か利益が出ていない。おそらく数字の扱いに問題があるのではと考えられ、鋳造部に数値的な指標を導入する構想を練っていたところ、ちょうどタイミング良く、テクノ経営総合研究所から「指標」をテーマにしたセミナーの案内が来たので、鋳造部での課題解決に向けた参考になればとの思いからセミナーに参加された。そしてこのセミナーで講師を務めていた弊社コンサルタントの平井との出会いが以降の活動に大きな影響を与えることになったと高橋氏は述懐されている。高橋氏は結果的に計3回平井のセミナーに参加され、その考え方、人柄などがキングパーツ社の社風やニーズとマッチングするかを慎重に見極められ、工場診断も受けた上で、高橋氏と平井の現場に対する見方、考え方が完全に一致したことから、鋳造部へのコンサルティング導入を決意された。高橋氏は改善活動の実施にあたっては、工場全体を変革する必要があると考えておられ、その変革は現場に対して視点が固定化された内部の人間には困難との判断から、自分と意見が一致し、社員に対して人間的に伝わる力を持っている外部のコンサルタントに依頼することを決めておられた。そして「平井さんでなければ依頼していなかった」というほど全幅の信頼をコンサルタントに寄せられ、鋳造部での改善活動がスタートすることになった。

「スリー・スマイル活動」による鋳造部変革の取組み

 鋳造部の改善活動名称である「スリー・スマイル活動」は社員からの公募により決定したもので、「会社」「社員」「家族」というキングパーツ社ファミリー全員がにっこり笑えるように、全社員が生産性向上130%という同じ目標を共有し、達成に向けそれぞれが自己変革していくという強い思いが込められている。「スリー・スマイル活動」への意識づけのため、活動名称がプリントされた横断幕が工場に掲げられるなどの工夫から社員における活動の浸透度は高いという。
 2016年10月の活動スタートに際して、高橋社長はコンサルタントを社内に迎え入れるため社員とコンサルタントがコミュニケーションを深める機会を意図的に設けられた。これは同社が以前コンサルティングを導入した際の経験から、当時を知る社員からコンサルタントへの拒否反応や警戒心があっては活動推進の支障になるとの考えによるもので、高橋社長は社員がコンサルタントの人柄を知り、コンサルタントがキングパーツ社に馴染んでもらえれば、必ず活動は上手く進めていけると確信を持っておられたとのこと。高橋社長によると「実際に活動スタート当初は、コンサルタントに対してかなり警戒心を持っていた社員も、活動が進む中で、コンサルタントが毎回それぞれの取組みに成功例を見つけてくれ、自分たちの仕事の効率が上がり、楽になったことが実感出来て、活動への共感が深まり、活動のベクトルを共通化することができてきた。鋳造部の13工程全てが指標を持ち、数値化の素晴らしさを実感できたのではないかと思う」と語られている。このように活動はコンサルタントと社員のコミュニケーションを起点とし、当初の計画通り順調に推移しており、現在は2018年5月からの第2期へと活動のステージを進めている。

「スリー・スマイル活動発表会」での報告内容

 2018年4月18日、第1期の活動終了時に行われた「スリー・スマイル活動発表会」では各推進チームからの発表を中心に、推進事務局から活動全体の状況報告、コンサルタントから激励の言葉、高橋社長からの講評などのプログラムが行われ、活気あふれる発表会となった。工場全体の生産効率では第1期の目標であった120%に対し、2018年3月時点で123%と3%上乗せして達成したことが報告された。また自分たちで出来る改善を行い、働きやすい職場を作る「C改善」では合計23グループの改善実施件数が後半だけで261件となったことが報告された。

 各チームからの発表について、鋳造部 部長 推進事務局リーダーの棗田 耕三氏によると、活動当初から比べると推進リーダーの発表がすごく上手くなったとのこと。「内容的にも何をポイントにしたら受けがいいのかを考えて発表するようになり、プレゼンテーションの内容もレベルアップしている。各チームの推進リーダーは40歳前後のミドルが中心で、今後のキングパーツ社を託せる人材を高橋社長が吟味を重ねて選出した。当社の現場はプロ意識の高い職人集団なので、それをまとめていく各工程の責任者には相当な人望が必要となる。そういう意味からも、今回の活動はキーマンである推進リーダーの人選が非常に重要なポイントであったと思う」と語っておられる。

 また今回の活動成果については「他部署との協力、設備投資により目標を達成するD 改善を通じて、部門を越えた横のつながり、仕事上でのつながりが出てきた。今までは責任者だけのつながりであったが、その下のリーダークラスのつながりが今回の活動で出来てきた。これは当社にとって新しい文化であり、さらにこのつながりを拡大、強化していきたい」とのことで、これまではどちらかというとトップダウンであった企業風土を変革し、ボトムアップ型の文化を浸透させていくための展開も、今後の活動における重要なテーマとして位置づけられている。
 逆に活動推進の上で苦労したことは、「価値作業」の考え方を浸透させることであったという。現場の部員は全員がプロフェッショナルで、自分たちの仕事に誇りを持っており、自分の作業に無駄な作業など無いという意識がある。その中で活動推進の上では、それぞれの作業の中に価値作業と付帯作業があるという認識を持ってもらい、数値的指標をつくることが必要であり、この指標確立には実際にかなりの労を要したとのこと。ただ活動が進む中、コンサルタントの丁寧な指導のもと、現在は「1秒1円」という考え方も浸透し、現場の部員の作業に対する考え方も変わってきた。
 高橋社長は「各部署の仕事がやりやすくなる方法を自分たち自身で考え、具現化できるようになることが、活動スタート時に自分が思い描いたシナリオで、それが今見えている。現場の社員の成長は活動前と比べて大きなものと感じており、100点満点の成果と考えている。今後はこの成長を活かして、現在進行中の新工場のプロジェクトを現場社員の参画も得ながら進めていくことを考えている。」と語られており、今回の改善活動は「社員力」の向上を企業の中長期的な成長のドライバーとして活用していくための下地づくりでもあったことが伺われる。

今後のビジョン

 現在3年後の57期を目標に新工場プロジェクトが進行中であり、本年の2月からこの新工場の立上げ支援を目標に、技術・開発センターを対象とした新たな改善活動もスタートしている。現場の改善については2016年
10月からスタートした活動が現在第2期に入っており、成長した現場社員の力を新工場建設というキングパーツの更なる成長に向けたプロジェクトに投入すべく、キングパーツ社の工場戦略は次のステージを目指している。
 ロストワックスで作られた同社の製品はまるで1点1点手作りで作られた工芸品のような美しさで、その精度に対する社員のこだわりはまさしく職人技と呼ぶのに相応しい。高橋社長はこの精度を実現するためにも、国内での展開にこだわることがキングパーツ社の「強み」であり、同業他社との競争優位性を実現していると明言されている。同社の製品はどのようにして作ったのか素人目ではわからないほど複雑なものだが、高橋社長の経営方針はシンプルかつ力強い。今後もものづくりの面白さを追及し「ロストワックスの可能性を拡げる」キングパーツ社の革新に向けた挑戦の歩みは続いていく。

取材後記

 まず冒頭に本取材にご協力いただいたキングパーツ株式会社 代表取締役社長 高橋大治氏を始めとする関係者の皆様に心からお礼を申し上げたい。今回取材後に活動事務局の皆様と弊社コンサルタントとの懇親会に同席する機会をいただいたが、その中で感じたことは顧客とコンサルタントとの関係性が改善活動の成果創出にいかに重要であるかということ。そしてその重要性をいち早く見抜き、社員とコンサルタントとの融和を率先して行われた高橋社長のマネジメント力に感服し、敬意の念を抱いた次第である。
 同社が推進する改善活動は数値化による指標の導入だが、そこにコミュニケーションという視点を第一義に置いて進められるキングパーツ社の活動は、トップの暖かく、シンプルな経営思想が反映され、「100年企業」への持続的成長に向けた着実な歩みを支えていく。今後もその挑戦に注目し続けていきたいと思う。



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