本ページでは、日本ピュアフード株式会社様に対するコンサルティング実績をご紹介しています。
近年、女性の社会進出、少子高齢化・単身・核家族世帯の増加という社会的変化を背景に、食の外部化比率が高まっている。特に成長著しい中食(惣菜)市場は、9年連続で市場が拡大しており、日本惣菜協会発刊の『2019年版惣菜白書』によると、2018年の惣菜市場規模は前年比2.0%増の10兆2,518億円となった。一方人手不足の影響により、食を作る担い手の確保が困難な状況となっており、いかに効率的に、品質の高いものを提供できるかが業界の大きな課題となっている。このような社会的な食ニーズへの変化の中、近年大きな成長を果たしてきたのが日本ピュアフード株式会社だ。同社では食肉加工事業と畜産エキス加工事業を通じて、様々な顧客の要望に応え、信頼される「食」のプロフェッショナルパートナーとして、あらゆる食シーンの「縁の下の力持ち」のような役割を果たしている。今回の企業インタビューでは、日本ピュアフード株式会社における改善活動の取組みについて、代表取締役社長 邉見 裕之氏、生産統括部 統括部長 内部 新氏、生産統括部 青森工場 工場長 山本 邦彦氏からお話を伺った。
(※ASAP 2019年 3号より抜粋)
顧客からの多様な要望に柔軟に対応し、 ニッチ市場での大きな成長を実現
まず御社の会社概要についてお伺いできればと思 います
邉見氏:
弊社は、日本フード食材株式会社と日本ピュアフード株式会社が1998 年に合併し、誕生した会社です。現在弊社の生産部門では国内に5つのプラントと3つの工場を有しており、プラントは食肉加工事業、工場は畜産エキス加工事業の生産をそれぞれ担当していますが、本日取材にお越しいただいた青森工場では両事業の生産を行っています。2018年3月期の弊社の売上高は467億円となっていますが、この内の約90%は食肉加工事業、残り約10%が畜産エキス加工事業となっています。
食肉加工事業では、独自の食肉加工技術と原料特徴を活かした商品開発力をベースに、日本ハムグループの原料供給力と販売力を活用し、量販店、外食店問わずあらゆるチャネルのお客様のニーズにお応えできるのが弊社の最大の強みです。食肉のスライスやミンチなどの一次加工(生鮮加工)、味付け焼肉や鶏だんご、衣付けカツなどの二次加工(未加熱加工)、チャーシューやローストビーフ、そぼろなどの三次加工(加熱加工)など、幅広い商品群をISO22000の規格に則った品質管理の下で製造しています。
また畜産エキス加工事業では、新鮮な畜産原料と農産物なども活用した抽出エキス、それらを調合したスープ、たれ、ソースなどを製造しています。食肉加工事業と畜産エキス加工事業を持ち合わせていることも弊社の特徴で、食肉とエキスのコラボレーションによる付加価値の高い商品を提案しています。
近年の大きな成長要因についてお聞かせください
邉見氏: 弊社ではこの10年ほどの期間で売上高が1.5倍程度になるなど、大きな成長を実現してきました。その要因としては、少子高齢化の進展、女性の社会進出加速などの社会的背景から、弊社のお客様である外食、中食産業の市場規模が急成長していることが大きいのですが、その中で弊社としては生産キャパシティの増加や加工技術の進化により、お客様の多様な要望に応える取組みを推進してきました。特に加工に関しては、外食、中食産業のチェーン化が進む中、人手不足、調理人不足を背景として、弊社独自のノウハウによる「ちょうどいい」「適度な」加工度合いに対して高い評価をいただいており、これが弊社の優位性につながり、会社の成長に寄与してきたと考えています。また外食産業はとても大きな市場ですが、メーカーの事業としてロットが合うところは一握りです。弊社でも成長に伴って、ロットの規模を大きくしていますが、基本的には少量多品種生産であり、常にスイッチすることを大前提とした事業モデルを展開しています。私は弊社のポジショニングはある意味ニッチな業態のガリバーのような存在と考えています。
少量多品種は生産部門の高い対応力が必要となりますね
山本氏: こちらの青森工場では1日20~30アイテムを生産しており、全国では西宮が1日50アイテム程度です。この1日のアイテム数が凄く多いとは考えていませんが、1ヶ月トータルでみると全社で1000アイテム以上を生産しており、毎日同じものをつくらないのが弊社の特徴です。そして1年後にはこのアイテムの7割がメニュー変更やリニューアルによって入れ替わります。それらお客様の要望に柔軟に対応できることが弊社生産部門の強みで、他社との競争優位性を実現してきた源ではないかと考えています。
5年後に優秀な社員を多数輩出することを目指した人材育成の取組み
現在取組まれている改善活動のテーマについてお聞かせください
邉見氏: 弊社の工場は優秀なリーダーがラインをつくりこんで、そのラインを基軸に回すというよりも、常にお客様が求めるものが変わり、商品が変わる状況で、社員それぞれの個の力を上げていかないと、いい状況の生産ラインが維持できないというテーマを持っています。一方で少量多品種の対応で雑多な部分が多いため、真の状態が数値で捉えにくいというのも事実です。それによってともすれば、「商品が変わるんだから仕方が無い。今はこんな作り方をしているけど、それは仕方が無いことなんだ」という甘えにつながる可能性があります。そういう意味で、個のレベルを上げることで、問題点に早く気付き、気付いたらすぐ行動に移せる人材の育成が必要と考えています。
人材育成の取組みではどの層をメインターゲットにされているのでしょうか
邉見氏:
弊社の業態はニッチですが、日本は供給側のプレイヤーが多いため、魅力的な市場には参入意欲が高く、それら新たな参入企業に対する弊社の優位点は、プロユースに相応しい品質の商品を効率的に供給できることで、それを維持することが生命線だと考えています。しかし企業経営にはどうしても谷間の時期が出て来るため、弊社は常に先回りする経営を心がけており、その意味からも人材育成は重要な取組みです。
私は人材育成において、ある一定の層だけ極端に優劣があるという状態は良くないと考えています。たとえば、今弊社の人材で本当に育成が必要なのは新人、ジュニア層ですが、その育成のためには、その上の層の人間が上司、管理者として相応しい存在でなければいけません。そのため弊社では比較的層が薄く、育成が遅れているミドル層に対する取組みも必要です。ただ弊社の人材としては圧倒的に30代以下の層が多くて、優秀な人材も多いため、彼らを5年間育成することで、すごく優秀な層が出来ると考えています。人数的にミドル層が薄いため、その下の世代がオーバーラップしていく状況をつくる必要があると考えていて、できるだけ早いタイミングで活躍できる場を与え、人材の谷間をつくらないようにしていきたいと思います。
青森工場の活動状況について教えてください
山本氏: 青森工場では新人、ミドル層が小集団活動の目標に取組んでいます。また今期からエキス工場での活動が新しく始まったので、今まで青森工場の中で点として終わっていたことが、宮崎、鹿児島と一緒に展開することで、お互いの違い、例えば商品の重量の入れ目とか、抽出の歩留まりなど、比較すると色々見えてくることがあります。またオフィシャルな会議にとどまらず、個別のテレビ会議などでも活動を共有する機会が増えています。ここでは数字で捉えるということが良い影響を生んでいて、活動によって効果が上がったことを現場で働いているパートナーさんにも見せることで、数字に対して興味を持ってもらえ、それでさらに良い状況に回転していっているように思います。
青森工場と宮崎、鹿児島のように活動を横展開することの効果はいかがでしょうか
邉見氏: 弊社の文化として、これまで製造系はそれぞれの工場で作っているものが違うため、組織の形態も横串を刺すようなことはあまり無かったので、今回の活動を機に横につなぐということを意識しました。また今回全工場にテレビ会議システムを導入してインフラを整備しました。これによって色んな形での横の会議が増えていて、複数の人間が会議に参加できるようになったことも大きな効果です。さらに活動を活性化させるため、昨年から半期に1回のレビューと年度末に全国大会を行っています。全国大会は昨年初めての実施だったので、どの程度のレベルになるか少し不安でしたが、内容も発表も期待以上のものになっていました。これも活動の成果だと捉えています。
常に先回りし、変化し続ける組織を目指して
テクノ経営のコンサルティングについてはどのような印象をお持ちでしょうか
邉見氏: 長くおつきあいをさせていただいている中で、2年前にテクノ経営さんにリクエストしたのは、テクノ経営さんが改善を進めて、生産性向上などの成果を出していくことではなく、組織の活性化に重きをおいて欲しいということです。テクノ経営さんが改善を進めるだけでは弊社には何も残りません。そうではなく、私たちは自分達自身で、どんどん新しい自分達をつくっていく組織にならないと生き残っていけません。弊社のメインターゲットである外食産業の変化はすごいスピードで起こっていますし、弊社にも常に新しいものが求められています。その要請を継続的に弊社が先回りして、魅力付けした新しいものを提案していく必要があります。先ほども申し上げましたが、企業経営はどうしてもどこかで谷間ができますが、できるだけその谷間の時期を短くしていきたいと考えています。私が2年前、テクノ経営さんに出したリクエストに対する成果は、少しづつ出て来ていると思います。特にその時点から活動に新しく参加した事業所には大きな刺激になっていると思いますし、リクエストに対してテクノ経営さんからのアプローチも明らかに以前から変わってきたと感じています。
常に変化を前提とした経営はメーカーとして新しい形態のように思えます
邉見氏: 私は弊社の業態はメーカーではなくサービス業としてとらえた方がいいかもしれないと考えています。弊社のビジネスモデルはこんな商品があるので買ってくださいというプロダクトアウト型ではなくて、お客様の色んな困りごとに対して、私たちが持っている手持ちのカードの中から、それぞれのお客様に最適と思われるカードを提示する課題解決型のサービス業という捉え方が、今展開しているビジネスには相応しいように思います。そして、そういうマインドを全社員が持っている会社を目指して、経営を推進していきたいと思います。ただどこまで行っても弊社の経営に完成形はなく、常に変わっていかなければならないし、常に変われるための個の集まりでないといけないと考えています。弊社の事業モデルが魅力的であれば常に参入者は出てくるし、それでマーケットは拡大していくのですが、当然新しい参入者に対して、常に優位性を保つことが必要であり、それが中長期的な課題だと考えています。そしてそのベースは社員一人ひとりの個の力であり、それを組織力につなげていき課題解決につなげていきたいと思います。
日本ピュアフードにおける生産部の役割、今後の方向性についてお聞かせください
内部氏: まず大前提に食に関わる会社として、安全への取組みは普遍であり、確実にやっていかなければならないことで、全社に対しての啓発の起点であるべきと考えています。また弊社は少量多品種生産で外食、中食産業の個々のお客様に柔軟に対応していかなければならず、そういう意味で、あまり生産性だけを目的に研ぎ澄ませていくような活動は、お客様の要望より自分たちのやり方のほうがいいんだというエゴにつながってしまう可能性があります。弊社の生産ではエゴにならない柔軟性が求められており、そこには個の力が必要となるため、個の力を高めていく取組みを進めていかなければなりません。ただそれは言葉ほど簡単なことではなく、そこに対してまだこうしたらできるという答えは得られていません。しかし逆にゴールが見える状況というのは、言い換えるとマニュアル化が出来る状況であり、そうするとどこの会社でも同じことが出来るようになってしまうので、結果的にコモディティ化が促進されます。今後弊社の生産ではマニュアル化できない何かの要素を引き出し、それを会社の強みとして共有することのできる組織を目指していかなければならないと考えています。
最後に中長期的な経営課題についてお聞かせください
邉見氏:
現時点の課題としては、弊社のビジネスは細かい商売のサマリーで、色んな情報がスピーディーにつながって色んなところに連動していくことが必要なので、情報を一本化し、タイムリーな情報共有が出来る基盤をつくろうと思っています。弊社の商品は、この商品にはこの原料というふうに1対1で紐づいているものが多く、原料の調達も細かいものが多い。例えば鳥とか豚は単純なパーツが多いのですが、牛は産地によって違うし、部位も多い。そういう情報や売れ具合によって調達量も変動するため、商談、開発の状況など、多層的かつ一元的な情報の構築を目指していきたいと考えています。そのため今年から組織を変更し、同じ基盤の中での情報共有を目指し、営業と生産を事業統括部門として一つの組織にしました。今まで生産のトップは西宮にいましたが、現在は大崎にいる営業のトップと同じ場所にいるので、意思決定と情報伝達のスピードを速め、可視化を進めていきます。弊社は常に進化していかなければならない。それがこのニッチな市場で、ある程度の規模で優位性を保つための生命線と考えています。
また改善活動に関して、現在は小集団活動を中心に行っていますが、まずは活動を行うことのベースをつくる時期だと思っているため、小集団活動を文化にして、これをベースに様々な展開が可能だと考えています。弊社のスタイルはあまり固めてしまうやりかたではなく、常にフレキシブルで柔軟さをもったスタイルだと思っていて、弊社独自の言わば「日本らしくないものづくり」をこれからも追求していきたいと考えています。
本日はありがとうございました。
取材にご協力いただいた方
日本ピュアフード株式会社
代表取締役社長 邉見 裕之 氏
生産統括部 統括部長 内部 新 氏
生産統括部 青森工場長 山本 邦彦 氏