本ページでは、明治薬品株式会社様に対するコンサルティング実績をご紹介しています。
都道府県別の医薬品生産金額で、2015年から2年連続でトップとなるなど富山県の医薬品産業は、全国に名だたる地域ブランドとして、その地位を確立している。江戸時代、富山藩二代目藩主・前田正甫が自ら独自の調合を行った「反魂丹(はんごんたん)」を、行商によって全国に広めたことが「おきぐすり」の発祥と言われ、正甫の訓示をもとにした「先用後利」を基本理念に、真心込めて行商に励み、大名から庶民に至るまで、多くの人々の健康保持に貢献した富山の薬売りの姿は、『薬都とやま』の実現を目指す現在の富山県にも受継がれているように思われる。このような長い歴史と文化を持つ富山県の医薬品産業の中にあって、明治薬品株式会社では創業以来「より良い医薬品を通じて広く社会に奉仕する」という理念のもと、着実に歩み続け、成長の軌道を確かなものしてきた。同社では昨年創業70周年を迎える中、今後100年企業を目指した経営を推進していく上で、ミドル層のレベルアップとボトムアップによる組織の活性化が急務との判断から、2016年から3年間の活動を推進してきた。
今回の企業レポートでは、製造業が持続可能な成長を実現するためのケーススタディとして、明治薬品が取組む人財育成を中心とした改善活動を、関係者へのインタビューと共に紹介する。
(※ASAP2019年 3号より抜粋)
創業時より、直販とOEM受託の2事業による経営を推進
明治薬品は1948年の創業以来、資本提携をせず独立メーカーとして経営を行う中、全国の薬局・薬店へ直接販売する直販事業と、国内外の大手メーカーとの技術、業務提携を行い医家向け、一般医薬品、医薬部外品、健康食品などの製造を行うOEM受託事業の2部門による経営を推進してきた。しかし近年では直販事業が対象にしてきた、薬局・薬店の数がドラッグストアチェーンなどの台頭により激減しており、直販部門でも生き残りをかけて、薬局・薬店だけでなく大手の卸を経由して、自社製品をドラッグストアに配架してもらう取組みを推進している。従来とはビジネスモデルが変わってきているため、現在48億の売上の内、健食・サプリメント事業が18億、OEM受託事業が30億という構成となっている。その中で今回のレポートの主役である生産部は、富山県で最も歴史のある富山企業団地内に3工場を擁しており、生産部として180人の従業員が勤務している。1976年、富山企業団地の第1号企業として設立された富山工場は、当時導入がスタートしたばかりのGMP(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理に関する基準)認可を富山県で始めて受けた工場であり、まだ全国でも数少ない存在であったため、多くの製薬会社関係者が見学に訪れ、その先進的な生産システムを学んで帰ったという。
改善活動導入の背景
今回2016年から行われた生産部での改善活動の取組みは、取締役 生産部長 山田 健吾氏の想いが強く反映されている。山田氏はメガファーマ出身で、2012年明治薬品に入社後、前職での豊富な経験を活かして、生産部改革の取組みを進めて来られた。山田氏は入社当時の社内の印象について、事前に社長から聞いていた状況より、もっと悪く感じたという。
山田氏 私の入社当時はちょうどOEM 受託事業が伸びている最中で、仕事の注文がどんどん入ってきている状況でした。そのため担当者は委託先に対する意識が非常に強く、社内の人間を軽視しているように見えました。ただ数字的には伸びつつあったので、社内では大きな問題として認識している感じはありませんでした。しかし生産部の状況は決して良いとは言えず、実際に多くのトラブル、逸脱が発生していて、従業員の離職率もかなり高い状態でした。現場からのボトムアップの意見は抑えられ、私が理想としていた「考える集団」の姿にはほど遠く、言わばイエスマンの集まりになっていたように思います。
山田氏はこの状況に対して、このままでは社員が働きやすく、誇れる会社にならないという強い危機感を覚えて、改革に向けた取組みをスタートされた。ただ当初は課員が10人程度の開発部署に責任者として着任していたため、活動範囲は限定的だった。しかし2014年から生産部全体の責任者に任名されたことで、傘下の人員も一挙に増え、社内への影響力を発揮できる環境が整ったため、会社改革の取組みに本格的に着手することになった。その後2年ほど、山田氏は独力で活動を推進され、その取組みを支持する社員の数も徐々に増えていったが、山田氏自身は改革のスピードがなかなか上がらないことに危機感を覚えており、会社の改革を早期に実現することは難しいのではとの思いを抱いていたという。
外部視点の導入による社内改革の推進
自分一人で改革を進めていくことへの限界と、同時にこれまで会社への期待を半ば諦めてしまっていた社員のマインドセットを早急に進めなければとの強い思いから、山田氏はコンサルティング会社による外部視点の導入という新たな戦略で、活動の活性化とスピードアップを図ることを決断された。そこで前職時代に付き合いのあった大手のコンサルティング会社など数社に声をかけられ提案を受けたが、いずれの会社から出てきた内容も、生産性向上をテーマにした定量的な目標を設定したものになっていたと言う。
山田氏 「人は定量化できないし、評価も難しい。そういう観点から一般的な改善活動テーマである生産性向上に向けた提案になっていたのかと思いますが、弊社の状況では、まずは人財育成と意識改革を進めなければ何もスタートしないと考えていたため、自分の思いとのずれを感じていました。そこで別会社での検討を進める中、たまたまテクノ経営さんの存在を知り、セミナーに参加しました。その後テクノ経営さんの考え方、攻め方を知るために、工場診断を受けることにしました。その結果テクノ経営さんから提案された内容は、他社と異なり、社員の心にフォーカスしたものになっていて、自分の考えていた人財育成を第一義にしたものであったことから、まずは1年間の活動を依頼してみようと思いました。その後、社長に外部視点導入の必要性を説き、コンサルティングを受けることについて承認を得ることが出来ました。弊社ではこれまであまりコンサルティング会社を使わないという企業風土がありました。今回それを開放することができたというのは非常に大きな成果だと考えています。コンサルタントの岩崎さんとは、この活動を通じて3 年間のおつきあいをさせてもらっています。驚くのは現場の管理者のことを自分達と同等もしくはそれ以上に理解してくれていることです。各人の性格を踏まえて、どのように話せば良いかなど、人間性、関係性を含めた理解が本当に素晴らしい。実は1年目は賭けのつもりでスタートしていて、正直当初は短期間で、弊社のことをここまで理解していただけるとは思っていませんでした」
トップダウンの企業風土が定着し、仕事を通じた自己実現、成長への期待を社員が持てなくなっていた状況で、山田氏は何よりもまず社員の心を重視し、社員が誇りを持てる会社の実現、社員の仕事への愛着を深めることを活動の基本に据え、その実現に向けた第一歩をコンサルタントと共に踏み出すことになった。
ミドル層の人財育成に注力したスタート時の活動
2016年4月、明治薬品改革への取組みは、ミドル層の人財育成をメインテーマに、「柔軟性の高い生産体制を構築する」を将来のあるべき姿として掲げて「未来改善活動」の名称でスタートした。
山田氏 「コンサルティング導入前の3年間、自分一人で進めていた改革活動が地ならしとなって活動に対する社員の一定の理解があったため、社員の反感なども感じずスムーズに活動をスタートさせることができました。弊社は製薬業界以外の異業種から中途採用で入社した社員も多く、1年目の活動では将来の明治薬品を担って行く人財であるミドル層に対して、まずは自分がイメージする製薬会社の社員としての基準的思考、行動を理解し、身につけてもらうことに注力し、1年目の活動はほぼそれで終わってしまいました。しかしこのスタート時の活動は、後の活動を進める上で大きなドライバーになると考えていたため、焦らず取組むことにしました」
山田氏によると1年目の活動がスムーズに進んだのは、事務局の理解・協力が大きかったとのこと。現在活動推進リーダーを務める事務局メンバーの一人、押田 拓三氏に活動スタートから現在に至る印象を聞いた。
押田氏 異業種からの転職当初は、自分の仕事の意味や目的も知らされず、ただ「やらされ感」が強くて、仕事の面白み、やりがいなどを感じることができていませんでした。トップダウンでの業務が多い中、社員がポリシーを持って働ける会社にしたいという思いは持っていたのですが、周囲を巻き込む方法もわからず、ただ自分の思いを押し付けることしかできていなかった気がします。この活動がスタートする前、コンサルタントの岩崎さんが工場診断の際にすごく的確な指摘をしてくれて、自分としてはわかっていても改善できていない部分だったので、コンサルティングでその改善方法を教えてもらえるのではという大きな期待感を持ちました。同時にこれを機に会社が良い方向に変わってくれればという思いもありました。ただスタート当初は岩崎さんのコンサルティングに自分の頭がついていかない部分があって、こんな初歩的なことをやっていて本当に3年で人財育成ができるのか、先がすごく長いものに思えて、少し疑心暗鬼になっていました。ただ活動が2年目、3年目と進み、ようやく岩崎さんが今まで人財育成のためにやってきてくれたことの意味がわかりました。実際に活動がスタートした時の自分と、現在の自分を比べると自分で言うのもおかしいですが、著しく成長した自分を感じることができます。そういう感覚はおそらく事務局のメンバーは全員が同じように持っていると思います。そして社内でそういう人間がさらに増えていくことで、組織としての視野が広がり、成長していくことができると思います。
活動事務局ミーティング風景
2年目以降の活動では「Mi活動」(M=明治、me、未来 i=improvement)と名称変更し、さらなる進化を目指した。山田氏によると活動名称を変更したことで、活動の意味が明確になり、活性化と浸透につながったという。また1年目の活動終了時には、生産部全員、社長、常務及び関係取締役の参加により、1年間の活動成果を社員自身が発表する成果発表会を開催した。明治薬品ではこれまで、このような社員主体の発表会を実施したことがなく、社長も活動を通じてこういうことができるのかと、感心、感銘されていたという。また2年目の発表会では社長への質問という試みも行われ、これまで社長からのメッセージを直接聞く機会の無かった社員にとっては、非常に貴重な場になったという。
本年5月31日には3年目の活動を総括するアピール大会が開催され、各課の社員から活動状況、成果、次年度に向けた目標などが発表され、よりレベルの高い活動を目指す社員の熱気と意志が感じられ、今後の活動への期待が高まる場となっていた。
3本の柱による3年目の活動
山田氏はコンサルタントと相談の上、活動2年でミドル層の意識が追いついてきて、やっと本当の下地が出来てきたことから、3年目の活動ではさらなる飛躍を目指し、現場力、人間力及び2Sという3つのテーマを設定し、事務局の佐伯氏、若林氏、押田氏がそれぞれの担当リーダーとして活動を進める体制に変更を行った。またこれまで山田氏が担ってきた全体統括の役割を、新たに事務局メンバーに加わった濱本氏に託すことで、より社員主体の活動への転換を図ったという。現場力の佐伯氏、人間力の若林氏、全体統括の濱本氏に現在の活動状況と今後のビジョンについて聞いた。
佐伯氏 2 年目までは生産部全体で2S活動を続けてきました。今年から事務局メンバーそれぞれが3 本の柱をテーマとして取組んでいるため、これまでより少し大変になったように思います。現場力向上に向けて取組んでいるユニットリーダーミーティングでは、係長や主任など今まであまり横のつながりを持てる機会が少なかった社員たちが、同じ意識を共有し、積極的にゴールに向けて取組んでいます。中長期のビジョンとしては、目標達成を目指して、みんなで話し合い進めて行くことで、会社の力、現場の力につながっていくと思うので男女を問わず、仕事のことで自由闊達に意見を交わすことの出来る職場環境を作っていきたいと考えています。
若林氏 転職当初は作業者としての仕事を担当し、2015年から管理職に変わりました。改善活動は、昔はあったと聞いていましたが、その頃は改善提案の場もなく、トップダウンでの仕事が主体で、改善効果を証明する術がない状況でした。2016年のスタート当初、改善活動を事務局の外から見ていると、社員のモチベーションを向上することにより会社を変えていこうという風に感じられ、自分の課の課員とも活動について話しをするようにしていました。今事務局として各現場のミーティングに参加し、その内容を聞いていると、社員の変化、成長を感じます。現在は2年目の活動で決めたグランドルールに基づいて、自分達の弱いところをフォローしていく活動に取組んでいます。問題をみんなで話し合って、どう解決していくか。来期に向けて人間力向上の取組みをさらに進めていくことが必要と考えています。
濱本氏 活動を外部から見ていた1,2年目とは違い、3年目は事務局のメンバーとして主体的に関与することになり意識が変わりました。また3年目からは活動自体が、業務の一貫の活動になったため、会社のスタンスもこれまでとは大きく変化しています。ただ業務といいながらも、所属長によって温度差があり、やはり目の前の生産が優先される部署もあるため、事務局の関与、リーダーシップはさらに必要と考えています。活動スタート時、品質管理、開発、営業などの他部門は何をやっているんだろうという風に見ていたように思います。他部署にも良いイメージ、影響を与えていきたいので、活動の掲示板を作ったり、社長、役員参加のもとアピール大会を行ったりして、この活動の社内でのプレゼンス向上を図っています。その中で来期は品証、品管も活動に参加することが決まり、担当部長との打合せで、やはり人間力の重要性訴求、ミドル層のレベルアップが急務ということがわかりました。生産部のミドル層のレベルアップもまだまだ必要だと思いますが、この活動での岩崎さんとの面談は本当に役に立っていますし、各所属長のレベルも向上していると思います。そこで来期は、所属長よりも少し下の主任、係長にも面談の機会を設けていきたいと考えています。人財育成は継続が重要で、生産部で取組んできたことをケーススタディとして、他の部署にも良い影響を与えていくことが次のテーマだと考えています。
当初山田氏が一人で取組みをスタートさせた、明治薬品変革に向けた活動は、今ミドル層の成長をベースに、多くの社員の参画のもと、さらに次世代を視野に入れた活動へと変化・拡大しようとしている。今後の活動について山田氏は自走する活動として、社内だけで活動を維持していくための中長期での施策を検討しているという。
山田氏 全体的なボトムアップの状態として下地はできましたが、まだスタートアップに乗っただけと捉えています。活動の中・長期的なビジョンとしては、現状ではまだ自分がアイディアマンになってしまっているので、もっとミドル層やその下の人間から、活発に意見が出てくる環境を作っていくことが理想です。社員の感性、定性を強くしていきたい。一人ひとりの従業員の個の力、考える力を上げていきたいと考えています。また会社も変化しなければならないと思っています。従業員の発言を決して否定しない管理職がいる会社にならなければいけない。そういうマインドを持っている社員、そういう会社の環境をつくっていきたいと考えています。さらに全社の一体感を強化するために、トップのメッセージがもっとダイレクトに社員に到達する環境も必要と考えており、昨年社内ポータルサイトを立ち上げました。社内のITインフラを整備して、社員への仕掛けを作っていきたいと思います。具体性は変化していくので、その時その時点での課題に向けて取組み、真の意味での変革を実現していきたいと考えています。
企業における真の成長はそこで働く人、一人ひとりの成長がなければ実現しない。当たり前のことのようだが、実際このルールに真摯に取組む企業はそれほど多くない。社員の成長を第一義に考え、その後に会社としての利益が生み出される。かつて富山の薬売りたちが大事にした「先用後利」の理念は現在の明治薬品の改革にも引き継がれ、100年企業への歩みを着実に進んでいく。
取材後記
まず冒頭に本取材にご協力いただいた明治薬品株式会社 取締役 生産部長 山田 健吾氏をはじめとした関係者の皆様に心から御礼を申し上げたい。チェンジリーダー山田氏の改革にかける熱意は確実に社員の心に定着し、さらに高いレベルの活動へ移行していくことへの期待感を感じた。社員のコンサルタントへの信頼感は、さらなる高みへ導いていく取組みへの責任感につながり、活動の全てがポジティブなサイクルで回っている。今後も明治薬品株式会社の変革への歩みは続いていく。その取組みに注目し続けていきたいと思う。
取材にご協力いただいた方
明治薬品株式会社
取締役 生産部長 山田 健吾 氏
生産部 富山工場1課 兼 富山南工場3課 課長 押田 拓三 氏
生産部 富山南工場1課 兼 2課 課長 佐伯 剛志 氏
生産部 富山工場3課 課長 若林 優典 氏
生産部 エンジニアリング課 次長 濱本 章浩 氏
生産部 エンジニアリング課 主任 柳瀬 幸代 氏