近年、電気自動車(EV)、自動運転技術、コネクテッドカー、軽量化技術、モビリティ・サービスなど、さまざまな進化が見られる自動車産業。世界全体でのカーボンニュートラル実現をめざし、特に電気自動車(EV)や再生可能エネルギーを利用した水素自動車の開発が注目を集めている。こうした次世代自動車において、効率的な走行、燃費向上などの重要な役割を担っているのがハブベアリングやドライブシャフト(等速ジョイント)といった駆動関連の製品だ。その高い技術は、自動車以外でも一般的な設備をはじめ、風力発電装置、鉄道車両など、様々な機械に活用されて私たちの生活を支えている。
NTPT Company Limited (以下NTPT社)は、軸受(ベアリング)技術をコアに世界34ヵ国・208 拠点を展開し、ハブベアリングやドライブシャフト(等速ジョイント)で世界トップクラスのシェアを誇るNTN株式会社と、10 0 0分の1ミリという精度で安定した生産を行い、世界に届く技術力を誇る高雄工業株式会社との合弁会社として2 012年2月に設立。タイ国チョンブリ県シラチャでインドなどを含めた東南アジアにおける製造拠点として等速ジョイント外輪の鍛造、旋削、ハブベアリングの旋削加工をメインに展開し、現地での一貫生産体制に寄与してきた。
新型コロナウイルスの影響で大きく落ち込んだ需要は回復傾向にあり、NTPT社への発注も増加する中、生産性の向上が急務であった。この課題に対し、タイ人の特性をふまえ、現場の意識改革、さらには部署間の連携につなげ、生産性1.7 倍もの実績を達成した同社の改善活動について、President 宇水 雅博 氏からお話を伺った。
(※ASAP 2023年 No.1より)
高まる需要に対する生産性の向上をめざして
御社の事業内容についてお聞かせください
宇水氏:
NTPT社は、NTN株式会社と高雄工業株式会社との合弁会社になります。昨年の2022年に10周年を迎えた、まだ若い会社です。NTN株式会社は軸受(ベアリング)やドライブシャフト(等速ジョイント)などの研究開発、生産、販売を行っている精密機器メーカーで2018年に創業100周年を迎えました。高雄工業株式会社は、ハブベアリングやドライブシャフト(等速ジョイント)部品の旋削・高周波熱処理加工を得意とする金属加工メーカーで、また産業用ドライブシャフト(等速ジョイント)においては、研削・組立まで一貫加工を行っており、来期で50周年を迎えるグローバル企業です。
2020年12月にシラチャで開催した弊社のセミナーへお越しいただいたのが始まりでした
宇水氏: 実は私がNTPT社へ赴任する前、当時はNTN株式会社の岡山製作所に在籍していたのですが、その時に日本でテクノ経営さんのコンサルティングを受けていました。私自身も少し携わっていたので、テクノ経営さんの存在は以前から知っていました。NTPT社に赴任した際、「テクノ経営さんはタイにも会社(現地法人)がある」ということを知り、そこでセミナーに参加させていただいたという経緯になります。
「タイでも同じように活動(指導)できるのか」といったご質問を頂戴したと記憶しています
宇水氏: 2020年2月に赴任してすぐ、新型コロナウイルス感染症の影響で首都バンコクがロックダウンとなってしまいました。非常に厳しい状況ではあったのですが、セミナーに参加した12月の頃にはコロナ後の特需とその後の増産、増量で忙しくなるというのが分かっていました。そのため、特需に対してなんとか生産性の向上、特に生産設備への投資をせずに既存の人員で生産性を上げていかなければならないという思いを抱えていました。そうしたタイミングでテクノ経営さんのセミナーを受講したということもあって、生産性向上の指導をお願いするかどうかを考えていました。ただ、日本で受けていたコンサルティングが非常に高度なレベルの内容だったため、それをそのままNTPT社で実施しても恐らく従業員はついてこられないという不安を感じていました。そこで、NTPT社の実態をふまえて「整流化や生産性向上などの前段階として、まずは職場の活性化やモチベーションアップ、そういった部分から指導を受けたい」ということをご相談させていただきました。
タイ人の意識改革~横の連携強化へ
赴任当時からこれまでの3 年間で、タイの人たちに関してどのような印象をお持ちでしょうか
宇水氏:
私は、中国に5年ほど赴任していた経験がありますが、中国の人と比べるとタイの人は、あまり自分から発信しない、自己表現があまり無いなと感じていました。指示されたことはしっかりと実行してくれるのですが、あまりアクションというか、「こういう風なことをしたい」といった主張はありませんでした。
しかし、改善活動を進めていくうちに、きちんと意見が言える環境や改善できる状況を作ってあげれば、自分たちでどんどん進めていってくれるということが分かりました。
最初は控え目だと感じていたのは、タイの人たちは思っていても言わなかったからで、そういう状況や環境を作ってしまっていたのだと気付き、反省しましたね。
コンサルティング導入前の課題として、タイの人たちが自主自立で働いてほしいという部分もありましたか
宇水氏: そうですね。タイの人たちは、「私は作る人、あなたは検査をする人」みたいな感じで、お互いのコミュニケーションというか、自分の部署以外の人たちとの協力、組織間の協力というのがあまり無かった。その辺りをお互いに話し合い、協力し合えば、もっとムダを見つけて、改善の速度も上がるのではないかなと思いました。そういった組織間、横の連携といった部分に関しては、外部の力を借りるべきですね。我々が指導すると、「また日本人がやってきて、偉そうに言って」という感じになってしまうので、そこは専門家、プロの目で見て指導していただくというのが一番良いと思いました。
想定以上の結果に驚いた1日工場診断
1日工場診断をお申し込みいただいた経緯についてお伺いします
宇水氏: 当時の現状としては、私の目から見ても恐らく、設備投資をせずに既存の人員だけで能力を上げて、30%ぐらいは生産性の向上が実現できるのではないかと考えていました。しかし、やはり第三者、プロの目から見ていただいて、「実際のところはどうなのか」というのを判断してもらいたかったというのが一番大きいですね。
1日工場診断を受けたご感想はいかがでしょうか
宇水氏: 想定以上の結果でとても驚きました。工場の生産進捗や個数の出来高を見ていると余力はあるだろうと感じていました。というのも、午前中の進捗はマイナスだが午後にはプラスに戻って、定時前にはちゃんと目標の個数に達していたからです。ですから、工場の現状としては、午前は比較的ゆっくり仕事をしていて、午後に頑張って挽回している状況でした。これが実際にはどういう感じになるのか数字で知りたかったということもあって1日工場診断をお願いしたのですが、結果は価値を生む作業は全体の20%しかなく、価値を生んでいないムダ作業、準ムダ作業が80%になるという驚くべきものでした。まだまだ取り代があるというか、診断の結果に驚きながらも頑張ればもっと良くなるはずだという安心もありました。
どの段階でコンサルティングの導入を決断されたのでしょうか
宇水氏: 1日工場診断を依頼して、その報告を受けてお願いしようというのはほぼ決めていました。その後、社内の手続き等があったため、承認を受けた後、2021年の6月からコンサルティングを開始していただきました。活動名はReduce Muda Increase Efficiencyの頭文字をとって『RMIE』と命名しました。スローガンは「ムダを的確に捉えて改善!」で、お揃いのユニフォームも作成しました。タイの人は誕生日の曜日をとても大切にしています。また曜日ごとのシンボルカラーも決まっていて、そのカラーも大切にしていて、色へのこだわりが強いです。そのため、ユニフォームも皆で同じ色に統一して一体感を育んでいます。
全員参加の改善活動
コンサルティングを導入された後の印象はいかがでしたか
宇水氏: 今回の活動は、NTPT社の全体活動として全社員に参加して欲しいと考えていました。部分的に一部の人だけが活動を実施して、それで生産性を上げたとしても持続性がない。だから、全員がやる気になって、全員が自発的に考えて行動できるようになるためにはどうしたら良いのかということを第一に、コンサルタントの方もそういった私の希望にそった形で指導を始めてくださいました。現場に行って、現場で実際に診断し、色んなところに声をかけて、みんなのやる気を引き出していただきました。周りで働いている人たちも、そういった指導風景を見ることによって、本気度というのを感じてもらえて、非常に良かったと思っています。
現在の活動についてお伺いします
宇水氏: まず、小さな改善活動として15チーム、設備総合効率の向上に取り組んでいるのが9チームとなっています。私は特に小さな改善を大事にしています。オール・エンプロイ・ミーティングなど、全従業員の集まる場でいつも私が伝えていることは、「1件1件は本当に小さな改善だとしても、その小さな改善が集まるとNTPT社の全体としては大きな力、大きな改善になりますので、小さな改善をどんどん実行してください。たとえ失敗しても、経営に影響するほどの大きなものではないし、周りの人たちが必ずフォローしてくれます。だから、たくさん失敗しても大丈夫。失敗したら理由を考えてまたチャレンジすればいいだけ。失敗を恐れず、積極的にチャレンジしていきましょう」ということを常々お願いしています。恐らく一番職場の活性化につながっていると感じていますので、この小さな改善活動には本当に期待しています。
現場の方々の反応などはいかがだったでしょうか
宇水氏:
「改善活動を実施する」「コンサルティングを受ける」といっても、恐らくタイの現地スタッフや作業員はそんな指導を受けたことが無かったみたいで、あまりピンときていなかったというのが正直な感想です。実際に指導を受けながら「こういうことを教えてもらえるのか」「こんなことができるのか」という感じでした。新型コロナウイルスの影響で最初はWEB形式での指導が多く、勉強会的な雰囲気から始まりました。少しゆっくりとしたスタートになりましたが、活動を分かってもらう上ではその方が良かったのかなと思っています。
実際の活動を進める上で一番苦労したのは、活動の組織ですね。会社の真剣さをアピールするために専任者を2名、新規で雇用しました。恐らく活動の成果が出れば、2名分程度の人件費は充分カバーできるでしょうし、兼任だとやらされ感や仕事が増えるという懸念があったため、専任の2名を置くことにしました。その2名には活動の推進がメインの仕事という形にして、みんなを励ましたり、フォローしたりして進めてもらいました。一番悩んだところですが、今成功しているのはこの部分の影響が大きいかなと思っています。
成果が実を結び、生産性が最大1.7 倍へ
活動の成果はいかがでしょうか
宇水氏: コロナ前の2019年度を基準にすると、2021年度は販売高も生産性も約1.2倍、20%ほど上がっています。生産設備、ラインですね、これは増やしていませんし、人員も同様です。さらに、2022年度は販売高も生産性も1.6~1.7倍となっています。コンサルティング実施前は2年間で生産性30%UPというご提案をいただいていましたが、それを上回る成果が出ており、非常にありがたいです。2023年度、2024年度とまだまだ忙しくなっていきますので、引き続き指導をお願いして、今まで以上に生産性を高めていきたいです。あとは設備の稼働率ですね、そこの改善を進めていこうと考えています。
今後の課題と活動目標
今後の課題や目標をお聞かせください
宇水氏: 後の課題としては、やはりNTPT社の全体では忙しい時期が続きますので、さらなる生産性の向上ですね。あとは人総合効率。人時間あたりの生産個数というのも追求していきたいと考えています。それと、物量が増えても工場の面積は変わらないため、品物の置き場所が無くなってきます。そのため、整流化~リードタイム短縮ということもやっていきたい。もう、どんどん欲張りになっています。そういった高いレベルまで成長していきたいと考えています。
本日はありがとうございました
取材にご協力いただいた方
NTPT Company Limited
President 宇水 雅博 氏
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【コンサルティング事例】 NTPT Company Limited様