金属や非金属(プラスチック、ガラスなど)の表面に、銅、ニッケル、クロム、金といった金属の薄い膜をつける表面処理の一種である「めっき」。材料に耐摩耗性や防錆、硬化といった機能を付与するほか、装飾などにも利用される。その歴史は古く、紀元前1500年頃(約3500年前)に金属の腐食防止で行われていた錫(すず)めっきが起源とされている。長い歴史の中で様々な進化を遂げ、現代における最先端のものづくりにおいても欠かせない技術だ。
ジャスト株式会社は、1950年(昭和25年)に東亜メッキ工場として山形市で創業した。70年以上におよぶ伝統と実績を誇り、その歴史の中であらゆる種類のめっきに対応すべく技術を磨いてきた。ステンレス製のボルトやナットの内面にだけ銀めっきを施す「内面めっき治具」は特許を取得し、1992年(平成4年)の第17回発明大賞において発明大賞本賞を受賞。その他、科学技術庁長官賞(2部門)や現代の名工を受賞するほか、ダイヤモンドの特殊電着技術「UDC Plating®(ウルティメイトダイヤモンドカーボンナノチューブプレーティング)」を独自に開発し、医療分野への進出も果たした。
創業以来、市場のニーズに応えながら新たな技術を開発し、付加価値の高い仕事を行うことで様々な難局を乗り越えてきた同社。コロナ禍では原材料の高騰等で大きく売上が落ち込み、過去最大級のマイナス計上となった。こうした危機的状況からどのようにして脱却し、単月ベースでの黒字化まで回復できたのか。同社の活動について、代表取締役社長 岡崎 淳一氏、常務取締役 企画部長 岡崎 千晃氏、製造部 部長 衣袋 光氏、生産管理部門 加藤 優子氏からお話を伺った。
(※ASAP 2023年 No.2より)
時代とともに進化させてきた事業内容
御社の事業内容についてお聞かせください
岡崎 淳一氏:
我々が行っている「めっき」は、基本的にはお客様から預かった製品にめっき、表面処理をしてお返しする賃加工が主な事業となっています。その内容としては自動車関係、あとは半導体関係、弱電、配電盤など、様々な分野の製品にめっき加工を施しています。
1950年(昭和25年)の創業から、時代とともに事業内容を変化させ、設備の増設や自動化といった取り組みも行い、事業を拡大してきました。
一番のメインとなるのは、第17回の発明大賞を取られたステンレス部分の銀めっきでしょうか
岡崎 淳一氏: 事業の柱が3本あり、その内の1つが銀めっきになると考えています。ボリュームゾーンとしては、亜鉛めっきや無電解ニッケルめっきなどの一般的なめっき加工が該当し、その他には半導体や医療機器等の銀めっき加工があります。残りの1つとして、ダイヤモンドをめっきで固着させる加工となっています。
ダイヤモンドの特殊電着技術は独自に開発されたと伺いました
岡崎 淳一氏: ダイヤモンドの可能性は非常に多岐にわたるだろうという予測のもとで開発し、もともとは脆性材料と呼ばれるガラス関係の加工用の工具に施していました。しかし、2008年のリーマンショックで売上が大きく落ち込んだ時、既存の仕事だけではなく、付加価値の高い仕事をしなければ生き残っていけないと考え、ダイヤモンドの特殊電着技術「UDC Plating®(ウルティメイトダイヤモンドカーボンナノチューブプレーティング)」を開発しました。この技術をもとに、脳神経外科の手術で使われるピンセットなどの手術器具を作成し、医療系の展示会に出展しました。そこで性能の良さを認めてもらい、医療器具へ採用していただきました。もともとは脳外科用だったのですが、いろいろな分野で採用され始めています。
一般の消費者へ向けた製品開発、ブランド展開も手掛けていらっしゃるとのこと
岡崎 淳一氏:
「クラフテム」というブランドを立ち上げました。やはり、これも今後の事業継続を考えて実施しました。最初はダイヤモンドを活用した商品作りを考え、第一弾として「爪やすり」を作りました。市場調査、マーケティングも兼ねてクラウドファンディングサイトを活用してみたら、意外と反応が良かったです。あとは、会社のホームページでの販売とふるさと納税ですね。所在地のある上山市と山形県のふるさと納税にエントリーしています。爆発的な感じではないですが、ちょこちょこと反応はありますね。
第二弾では「おちょこ」を作成しました。ステンレスを高精度で研磨し、冷酒を美味しく飲めるようにしています。熱伝導性が高く、外側に水滴がすぐ付着するため、滑り止めとしてダイヤモンド電着を施しています。なかなか、この辺りがネット上では説明しづらいところですが、独自の機能を備えています。
第三弾は医療用ピンセットの応用で「毛抜き」や「魚の骨抜き」を開発しているところです。実は、まつ毛エクステンション(マツエク)を行うプロの方から、専用のピンセットを作成して欲しいといった要望がけっこうありまして。こうしたアイリストやネイリスト、料理人の方といったプロ仕様のものを含め、どんどんラインナップを増やしてB to Cの事業も拡大していきたいと思っています。
マンネリ化してしまった改善活動
弊社のコンサルティングを導入する前に、どのような課題をお持ちだったのでしょうか
岡崎 淳一氏:
もともと、社員向けの教育や改善活動、5S活動も含めてなんですが、内部でなんとか対応できていました。ISOを取得している関係上、そういった活動の継続は必要になってくるので実施はしていたのですが、20年以上取り組んできた中でどうしても社員の意識を向上できずにマンネリ化してしまい、こちらの要求することを理解して自分なりにやろうという意識がかなり低下してきていました。以前は先代の社長がいて、私はそういった企画の部署で責任者をしており、経営陣が自ら動いて活動を推進するとなんとか社員も付いてくるという形でした。しかし、私が社長になり、そういった活動を役員に引き継ぐと、社長から言われるのと任命された役員から言われるのとでは少し重みが違ってくるのか、徐々に下降線を辿っていきました。
現在は今の岡崎常務が取り組んでおり、なんとか盛り返してくれてはいたのですが、リーマンショックや震災などで人の入れ替えが増えるとともに新しい人の教育がうまく実施できておらず、責任者の指導力が向上していないという課題が浮き彫りになりました。
なおかつ、世の中の動向としては量産品などの製造は海外にシフトしており、新型コロナウイルス感染症の流行が始まった2019年頃には海外シフトがさらに加速しているような時期で、弊社でも量産向けの設備で小ロット多品種に対応するためにより効率のよい方法を模索していく必要がありました。そうした状況の中、こちらから指示を出すよりかは、現場で考えてもらいたいという思いがあったのですがなかなか改善は進まず、製造ラインをこえて助け合うような多能工化も課題にして取り組んでいましたが、そちらも同様でした。なんとか実現したい思いが強い中、やはり自分達の指導では限界があり、外部の方にお願いせざるを得ないと感じ、コンサルティングの導入を検討しました。
現場に入り込んだ提案が印象的だった1日工場診断
弊社の1日工場診断を受けた印象はいかがでしたか
岡崎 千晃氏: 実はテクノ経営さんの1日工場診断を受ける前に、別のコンサルタント会社様にも工場を見てもらっていました。そちらの会社様と大きく違った点は、テクノ経営さんには現場にしっかり入り込んで見ていただけたということでした。当社としては、今までが非常に受動的で、そうした体質を機能的なものに変えていく必要を強く感じており、また今後の事業展開においても大きな過渡期だったので、テクノ経営さんにコンサルティングをお願いしようと決めました。
岡崎 淳一氏: 岡崎常務がお話した1社目の会社様は、自動車業界をメインにコンサルティングを実施されているようでした。当社でも自動車部品は取り扱っていますが、全体の比率としては昔と比べると圧倒的に下がっているというのもあり、課題としていた小ロット多品種の生産効率化には全く合わないだろうと感じました。その点、テクノ経営さんは、私の目指したい形を作り上げるような提案をしてくださり、非常に感銘を受けて、コンサルティングをお願いすることにしました。
固定概念を払拭し、能動的に動ける体制へ
コンサルティングを導入された後はいかがでしたか
岡崎 淳一氏: 活動開始当初は、相当なご苦労をお掛けしたと思います。職人気質の社員が多く、固定概念が強すぎるというか、新たな発想が生まれづらい状況に陥っていましたので。そうした中、「この辺りまでを目指しましょう」という大きな目標に向かって“まずはストレッチから始めましょう”みたいなものから入って、ようやく2年近くかけて頭も柔らかくなり、動き出せるようになったかなと感じています。
岡崎 千晃氏: 社長がお話したように、最初はやはり職人気質というか自分が一番正しいというようなリーダーや社員が多い中、細川先生も大変ご苦労されて、いろいろと見ていただいたかと思います。そういった中、会社が取り組まなければならない課題に対し、「他人事ではなく、自分事としてどのように考えなければいけないのか」という部分を何度も根気よくご指導いただきました。最初はどうしてもそういう気質が直らなかったのですが、2年近くかけてようやく、例えばヒヤリハットや気付きといった改善に取り組む材料に関して、社員から様々な意見が出てくるようになりました。今の実感としては、能動的に動ける体制がようやく整ってきているかなと感じています。
前を向き始めた現場
コンサルティングの導入について、現場の皆さんはいかがだったでしょうか
衣袋氏: 社内の雰囲気は保守的というか、少し閉鎖的な部分があったので、外からの目線で見ていただくというのは大変良いことだと思いました。活動当初はやはり抵抗というか反発も大きかったです。しかし、自分たちが今までやってきたことを見つめ直すいい機会となって、良い部分や悪い部分を把握し、再発見につなげることができました。また、他部署の状況など全体的な流れも意識して把握し、考え方を含め、一つ上の目線で見られるようになったと感じています。当事者意識というか自分たちで考えて動いていくような自覚が出てきたので、それが一番の成果かなと思います。
加藤氏: 最初は「何をするのだろう」というのがあって、一番初めの話し合いでは不満も多く出ていたのを覚えています。活動を続けていくと、自分たちの何が悪いのかを見直す機会がたくさんあって、少しずつ皆の考え方も変化していきました。「どうしたらもっとスムーズに仕事が進むのか」「悪い部分を見つけよう」という風に、一人ひとりが考えて行動をするようになったことが一番大きな変化だと感じています。
社員の皆さんの変化をどのように感じていますか
岡崎 淳一氏:
先日、製造部門長会議に出席したのですが、その時、インドネシアに出向していた社員がちょうど帰国していたので、その会議で活動報告をしてもらい、大変な中でも海外での勤務はものすごく自分のプラスになったと話してくれました。聞いていた他の社員も感銘を受けたような表情だったので、会社としても良い機会、良い効果をもたらしてくれたと思います。
一番変化を感じたのは皆の表情ですね。以前は会社が低迷期というのもあって、社員達からも不満や文句が出ていたと記憶しています。コンサルティングが始まって、様々な活動を通じて頑張っているライン長の姿なども目の当たりにして、非常に表情が前向きになったなと感じました。昨年から多能工化を進めていて、ライン長同士のコミュニケーションもだいぶ取れつつあり、メンタル的にも非常に効果があらわれていると思いました。
過去最大級のマイナス計上から黒字化へ
これまでの経緯や現在の状況をお聞かせください
岡崎 淳一氏:
なかなか赤字にはならず、順調に推移していたのですが、ここ数年の動向は世界経済の不安定さも影響し、確実な受注があまりないという状態が増えてきました。我々の業界というのは、どうしても「預かった物にめっきを施す」といった受け身の業態なので売上予測が立てづらい。収支予算案は作成しますが、なかなかその通りにいかないことが増え始めました。そこに加えて、今回のコロナ禍による原材料の高騰が大きく影響し、過去最大級のマイナスを計上するくらいの勢いになってしまいました。
こうした状況に対し、価格転嫁を実施し、適切な上げ幅などを話し合いながら決めて反映されつつあります。加えて、現場ではこれまでとは違う効率的な生産活動を追求してもらい、その両軸で対応し、ようやく形が見え始めているところです。4月から新年度となり、単月ベースでは黒字となり、現状の見込みとしては黒字化へシフトしていく予測です。
もう一つの課題として、設備の老朽化という問題が出てきています。どうしても突発的な修繕は発生するので、しっかり修繕計画を立てていくことが必要です。設備の更新を実施するのかどうか、更新しないのであればどのように新たな仕事を獲得していくのか。全てを回さないと1つだけ動いても仕方がないので、その辺りをしっかり整理して同時に動かすことを意識しなければいけないと感じています。
岡崎 千晃氏: ちょうどコンサルティングを導入した時はコロナ禍ということもあり、非常に売り上げが下がっていて、時間の経過とともに原材料やインフラ関連の値上げが原価を圧迫していました。そうした中、細川先生からもご指導いただいている価格の改定、転嫁という部分を今後は自分たちで動き、お客様のところへ足を運んで交渉し、営業的な要素も取り入れながら実施していかなければいけません。今期はしっかりと結果を出していくという意気込み、気持ちを持って取り組み、結果的に黒字化へ向かい、良いスパイラルとなって社員の皆にもしっかり還元していけるような仕組みを作っていきたいと感じています。
今後の課題と活動目標
今後の課題や目標をお聞かせください
岡崎 淳一氏:
引き続き、多能工化を進めたいと考えています。社員に対しては、自ら考えて改善できるようなところまでいってもらいたいですね。「こうしたら生産性が良くなるのではないか。だから、こういった道具が必要なので、どうでしょうか?」みたいな提案をしてくるぐらいまで到達できればいいなと思っています。
会社全体としては、細川先生にもお手伝いいただいて、管理部門で始業前に売上が大体わかるような仕組みづくりが出来つつあるので、そうした売上に対して、生産の目標をきちんと立てていくことですね。やはり、目標が無いと活気が出ないというか、何のために作業をしているのかが分からなくなってしまうので、そこは製造業の原点ではないですけど、1日の目標を一個一個クリアしていって、会社全体の目標につながっていくというような形を作りたいですね。将来的には、各ライン長に責任を持って数字を認識してもらい、アメーバ経営のような形で運営していければいいかなと思っています。
岡崎 千晃氏: 財務内容の改善と現場の改善ですね。理想のイメージとしては、売上目標に対して現場のライン長同士でコミュニケーションを取り合い、一緒に数字を追えるような体制です。そのためには、やはり目標などを他人事にしないというか、自ら進んでそれに向かっていくような、一歩踏み込んで考えていける体制が必要です。そうすれば、間違いなく財務内容を改善していると思いますし、現場の人の改善という部分もしっかり繋がっていくと思いますので、現在指導いただいていることをしっかりと会社のものにしながら、さらに良い方向へ進んでいけるよう、取り組んでいきたいですね。
本日はありがとうございました
取材にご協力いただいた方
ジャスト株式会社
代表取締役社長 岡崎 淳一 氏
常務取締役 企画部長 岡崎 千晃 氏
製造部 部長 衣袋 光 氏
生産管理部門 加藤 優子 氏
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【コンサルティング事例】 ジャスト株式会社様