サクサクの衣とジューシーな肉が口の中で絶妙のバランスを生み出す。そんな、世界を魅了する和食となったトンカツをはじめ、和洋中の惣菜、ハム・ベーコンまで、たくさんの加工食品は、いまや日本の食卓に欠かせない存在となっている。
こうした、私たちの食生活を豊かにするさまざまな加工食品を創り出しているのが、香川県にあるサヌキ畜産フーズ株式会社だ。1980年(昭和55年)10月9日にサヌキ畜産加工協同組合・組合員5企業によって設立された同社は、単一工場として日本一の製造数量をめざし、原料肉にこだわり、トンカツをはじめとする多彩な衣付け製品から冷凍惣菜や加工品(ハム・ベーコン類)、さらにはOEM製品開発、自社ブランド展開まで手掛けている。『すべては、「本物のおいしさ」がもたらす「人々の笑顔」を創造するために~笑顔創造業~』を事業ビジョンとして掲げ、自らが消費者として「本物のおいしさとは何なのか」を考え、その実現のために川上(自社ブランド讃玄豚)、川中(トンカツ・惣菜製造)、そして川下(精肉・トンカツ・惣菜の販売)までの垂直経営を実践。「本物のおいしさ」を深く追求することで、人々の笑顔を創り出している。
節目の45期となる2024年は『未踏』をテーマに、前期グループ売上90億円を突破し100億円企業に、そして日本一のトンカツ工場となるべく日々挑戦を続ける同社。これからの未来を見据えて2021年から導入されたMIB 活動について、代表取締役社長 増田 浩 様、生産本部 本部長 坂田 隆一 様、生産本部トンカツ事業部 部長兼本社工場 工場長 岡田 裕作 様からお話を伺った。
(※ASAP 2024年 No.2より)
祖父の代から続いた養豚業をもとに加工・製造の事業へ発展
創業の経緯についてお聞かせください
増田氏: もともと、祖父が養豚業を営んでおり、その後、養豚だけではなく、加工などの食品製造に着眼点を持ち、事業に進展していきました。豚肉は、まず内臓などを取り除き、半分に切られた枝肉と呼ばれる状態に解体されます。次にレーンに吊し上げて脱骨し、部分肉へと加工していきます。大貫(たいかん)という親豚の脱骨を行うのですが、当社はこの親豚の提供先であった5企業の出資によって協同組合として設立されました。その後、脱骨作業や部分肉への加工だけではなく、一般のお客様に向けた商品開発や、当時の世の中にはなかった定型・定量となるローストンカツの前処理工程を行うなど、徐々に事業を発展していきました。こうして、なんとか事業を継続していましたが、本来の協同組合としての生業という形からは離れてしまっており、やはり転換していかなければならないということで、2 0 10 年、私が社長になった時に株式会社化をしました。協同組合ですと、どうしても狭い中で仕事を行う必要があるため、より多くのお客様に販売できるような形として株式会社化し、会社組織として運営するようになりました。
代表取締役社長
増田 浩 氏
『日本一のトンカツ工場になる』という夢の実現にむけて
御社ならではの強みについてお聞かせください
増田氏: 主力商品はトンカツを中心とした衣付け商品の製造となります。大きな豚肉の部位としては数種類ですが、製品の中で使い分けをしながら、200種類以上の製品へ仕上げていきます。もともと、当社は豚肉の前処理工程を請け負っていたところから始まっていますから、そこを確立させた上で衣付け商品の製造へと展開しましたので、こうした一連の流れを全て一貫して製造できるところは強いと思います。さらに、自社ブランド讃玄豚の養豚業、アンテナショップ『ミートピアサヌキ』での一般のお客様へ向けた製品の販売も行っており、まさに川上(自社ブランド讃玄豚)、川中(トンカツ・惣菜製造)、そして川下(精肉・トンカツ・惣菜の販売)までの全工程を自社グループ内で完結できることも大きな強みになっています。
大切にされている考え方や経営理念についてお聞かせください
増田氏:
株式会社へと事業を転換する際、同時に現在の経営理念や事業ビジョンを一から考えて制定しました。従業員の皆さんには、機会がある度に込められた意味を説明しながら話をさせてもらっています。やはり困った時こそ、判断基準の1つとして経営理念が役立つということを改めて認識してもらっています。『すべては、「本物のおいしさ」がもたらす「人々の笑顔」を創造するために』という事業ビジョンですが、『笑顔創造業』というサブタイトルも入れながら、単なる食肉製造業ではなく、笑顔を作り続けて、それを広げていくという想いを込めながら事業を展開しています。
それと同時に、私の父である先代からもそうでしたが、増田家には『日本一のトンカツ工場になる』という夢がありますので、それを実現していくために新工場や30年前に作った製造ラインを改修するなど、設備の増強に着手しました。業績も順調に推移しており、日本一のトンカツ工場になるための設備が整った状態だと思っています。従業員の皆さんには、定期的な経営計画発表会の場で日本一のトンカツ工場、そして100億円の売上を目標に掲げ、共有してもらいながら、日々奮闘しています。
いつかは明けるコロナ後の世界へ向けた準備をしておくために
コンサルティング導入のきっかけについて
増田氏:
これまでに3度のコンサルティングの経験があります。1回目は私自身が専務になった35歳の時でした。その3年後には協同組合から株式会社への組織変更と同時に代表取締役社長に就任することになりますが、経営理念や事業ビジョン、会社組織の考え方などを学ぶことができました。
2回目は、組織が変わっていく中で現在の生産本部長である坂田が品質管理課の課長から工場長へ昇格するタイミングですね。恐らく当時、本人は困惑して、何をしたらよいかもわからない状態だったと思います。そこで、坂田をまず成長させてほしいとコンサルタントの方にお願いし、本人もマンツーマンで指導を受けながら、生産性の上がり方や業績の取り方など、いろいろな物の見方も学び、勉強してくれたと思います。
そして3回目は、今回のテクノ経営さんによるコンサルティングとなります。当時、コロナ禍の中で始まったかと思いますが、「減産時における戦い方」というオンラインセミナーを視聴させていただいた後に、1日工場診断を依頼させていただきました。ちょうど、今の工場長である岡田が工務課から抜擢され、製造畑ではないところからの工場長が二代続く形となり、また他のメンバーも人事異動で新しい役職として頑張っていただく中、ミドルのボトムアップといった人材育成にもつながるのではないかという期待もありました。と同時に、コロナ禍のため、実際の製造では非常に仕事が減り、1日中ラインを止めるといったような状況も発生していました。そういった中で、あえて投資をするというか、いつかは明けるコロナにむけて、やはり準備をしておくべきだと考えながら、人材育成とともに生産性をしっかりと上げ、受注が戻ってきた時に力を発揮するだろうという期待を込めて導入を決めました。
コロナ禍で感じた危機感や、問題の裏に潜む真の原因追究が課題
弊社のコンサルティングを導入する前に、どのような課題をお持ちだったのでしょうか
坂田氏: 最初のきっかけは、テクノ経営さんから届いた「減産時における戦い方」のセミナーを案内するダイレクトメールでした。もう一人、役員の方にも同じようなメールが届いており、たまたま朝のミーティングで「こういったダイレクトメールが届いている」ということを幹部の方にも話をして、時間がある人は視聴してみてはどうかという提案もありました。その背景には新型コロナウイルスの感染拡大があり、弊社の主力商品である冷凍未加熱カツ類をお取扱いいただけるお得意先様の休業や時短営業などの影響によって、工場の一部の稼働を1週間止めるなど、危機感を覚える中での『減産時における戦い方』というタイトルは胸に刺さり、視聴させていただくことにしました。
生産本部 本部長
坂田 隆一 氏
岡田氏: 私はもともと、工務課という畑違いの部門から製造部へ異動となり、正直不安しかないという状況でした。ただ、工務課の時から思っていたことですが、現場で起こった問題に対処する際、製造ラインをできるだけ止めないようにするため、どうしても一時的な解決までしか対応できないことがよくありました。本当に問題となった原因の追究までは、その場では分からず、課題に感じていました。私自身、製造工程の把握から始めなければならない状況でしたが、コンサルティングを導入することで、こうした問題の裏に潜む真の原因や課題の解決に対して、とても有効な手段になると思いました。
生産本部トンカツ事業部
部長兼本社工場 工場長
岡田 裕作 氏
厳しい指摘だけではなく、視野が広がる可能性を感じた1日工場診断
弊社の1日工場診断を受けた印象はいかがでしたか
坂田氏: 例えば、作業者がまな板で包丁を持って行う検品作業や、肉からナイロンを除去して供給する作業など、そういったそれぞれの箇所での人員バランスの悪さや作業効率のロス、あとは移動距離や材料の載せ替えといった運搬・歩行のロスなど、自分たちでは思いつかないような内容をたくさん指摘いただきました。特に加工肉の前処理工程では、手を動かし、肉を成形する作業は価値を生む作業となりますが、そこの速度が人によって異なっており、速度の速い人のやり方に合わせれば、もっと価値を生み出せるはずとのことでした。報告書では、「自身で気づいた範囲での改善に終始し、高い目標へ挑戦して必達する文化を構築できていない」という、厳しいお言葉をいただきましたが、試算上では157%の生産性の向上が期待でき、価値を生み出す作業にもまだまだ改善余地があることから、2 00%近い向上までをめざせると提案いただき、視野が広がるのも感じました。非常に業績が厳しい中ではありましたが、増田社長から「将来への価値ある投資を行う」と明言いただいたことを記憶しています。
コンサルティング導入の決め手はありましたか
増田氏: 従業員の成長や工場の改革という部分への期待はもちろんありましたし、1日工場診断をふまえて、しっかりと提案を作り上げてきてくれた印象はありました。弊社の改善に取り組みたいという強い熱意を感じたことも覚えています。セミナーの動画を視聴して、自分の思いだけで導入しても意味がなく、現場から声が上がってのことでしたので、大いに成果には期待して導入を決めました。コンサルタントの方とは年齢的にも近いところがあり、みんなとっつきやすいというか、話しやすさというのはあるのかもしれません。時折、笑い声も聞こえてきますし、距離感近く指導いただいているお陰かなと思います。そこに成果も出てきているので、今の所は申し分ないですね。
基準となる基本のデータ収集や現場からの批判的な言葉もあった導入当初
コンサルティングを導入した当初はいかがでしたか
坂田氏: 私は以前、他社のコンサルティングを受けたことがありましたので、それほど違和感などもなく、タイミング的には一番どん底で何かしないといけないという焦燥感が募っていた時でしたので、期待しているところはありました。また、改善についてはまだまだ伸びしろがあるというご指摘でしたので、私は楽しみでしたし、メンバーも少し余力がある時期でしたので、意外とスムーズに入りやすかったのではないかなと思います。
岡田氏: やっぱり仕事量が増える、負荷が増えるというイメージが強かったですね。自分自身、畑違いの部署から異動してきたばかりでしたし、自分に何ができるのだろうかという思いはありました。ただ、活動を進めていくにつれて、現場の作業者からいろいろな悩みや、実はこういうことがあるという話が聞けるのは、たくさんの気づきにつながりましたし、他の部署も交えた話し合いなど、協議する場所を自然に設けることができているのは非常に重要な部分かなと思います。最初は「うわっ」というのが正直な気持ちでしたが、今はやればやるだけ数値に反映されるので、大きなやりがい、楽しみになっています。
コンサルティング導入後は、どういった苦労がありましたか
岡田氏: 標準時間を決めていくために、一番初めの基本となるデータを集めるところから大変でした。本当にゼロからのスタートでしたので、対応してもらった方には日々の業務がある中、多少残業をしてもらいながら協力して作り上げたのですが、現場はやはりピリピリしていました。「MIB活動をやっているので、他の業務はできないです」というようなこともありましたし、数字が出揃っていない中で人員の少人化をしようとしても、納得してもらえるものがないので、批判的な言葉はやっぱりすごく出てきました。「今日1人休んだから、1人足りないのでどうにか用意してください」となって、「でも、その人数でも対応可能ですよね?」と話をしても、「今までは補充していたので、対応してもらわないと困る」と言われたり、あるいは「製品に何か問題が出るのではないですか」や、できないようにするためのいろいろなものを集めてきたりとか、一時期はそんな感じでした。もったいないと感じながらも、説得できるだけの根拠を示せるまではとても苦労しましたね。
コンサルティング指導風景
労働生産性は133%まで向上し、着実な成長を実感
コンサルティング導入の成果をどのように感じていますか
増田氏:
毎月2回指導に来ていただき、粛々と活動を進めていただきながらも、しっかりと成果を上げてもらっています。それと同時に、やはりコロナが明けて受注が戻ってきたのは大きいですね。営業関係の頑張りはもちろん、作り上げた製品の良さを認めていただけている証拠にもなっているかなと。そうした状況で、このMIB活動を通じて生産性が向上し、設備投資も相まって、この3つが相乗効果を発揮しているのを実感しています。当然、数字にも現れてきていますし、従業員に対する分配や一時金の支給でも大いに役立っていると思います。従業員の皆さんも、こうした結果を肌で感じてもらいながら「この活動は良い活動なんだ」という認識が深まれば、さらなるステップアップにつながっていくのではないかと期待しています。
また、坂田や岡田はもちろん、階層別の管理職といった人材の育成、またMIB活動におけるリーダーやサブリーダーたちは会話している中で自信をのぞかせるなど、少し抽象的ですが覚醒したところを感じます。自分たちが取り組んできたことがしっかりと成果として数字に反映されていますので、実際に役立っていると自負できるのが大きいのではないかなと思います。
坂田氏: 生産本部として全従業員が協力し合って取り組んでくれているところは、労働生産性などの数字でしっかりと評価できると思います。また、この毎月2回のMIB活動では、当日の最後に1日の活動報告を工場長の岡田か、あるいは私が対応しています。しっかりと皆さんに理解いただけるように取りまとめた上で発表まで行うため、かなり緊張しますが、これまでにはない違った視点の取り組みですので、こうしたことも1つの成果であり、また私たちの成長にもつながっているのを感じています。
岡田氏: 労働生産性では133%の向上となっています。ここから下がることはほとんどなく、推移できているのが現状です。分析データを見ると、最初は振れ幅が大きかったのですが、現在では安定していますので、高いパフォーマンスを継続して出せていると感じています。4部門のうちの1つで人員のやりとりを現場単位で取り組んでもらっているのですが、私が驚いたのは、お休みなどの欠員連絡を受けて現場に向かうと、各工程で人員の移動や調整の話し合いが完了していて、すでに人員を動かしてくれていたことです。このように、現場の方がどうすれば生産性の向上につながるのかということを、自発的に考えてもらえるようになってきているのは非常に大きな成果かなと思いますね。
中間報告会での資料
これからも日本一のトンカツ工場をめざしながら、笑顔創造業の輪を広げていく
今後の目標やめざす姿をお聞かせください
増田氏: 2021年になっても生産量は本当に少なく、一番低い時は現在の1/3くらいの製造量でした。そういった中でこのMIB活動を開始して、さらには新工場ができたものの、そこの稼働がままならなかったところもありましたので、まずは工場の生産量を上げていきたいという話は当初からしていました。何度もお伝えしていますが、日本一のトンカツ工場や数値目標を達成するためには当然、日本一の製造量を誇らなければなりません。従業員の皆さんには、日本一のトンカツ工場に勤めているという誇りを持ちながら仕事をしていただいて、また本物の美味しさがもたらす人々の笑顔を創造するためという笑顔創造業の輪を広げていくこと、それがやはり私としては、今後も取り組んでいかなければいけないことだと思っています。日本一という揺るぎない想いを抱きながら、今後も経営を行っていきたいと思います。
坂田氏: 当社の生産に関しては、トンカツ事業部、惣菜事業部、この2本柱となっています。特にトンカツ事業部に関しては、MIB活動が始まって3年が経過し、今期中には労働生産性140%の目標は達成していきたいですね。また、惣菜事業部に関しても、観音寺工場は10年くらいかけて今は非常に業績が良い状態で、本社工場においても今年の5月9日に惣菜事業の改修工事が終わりましたので、今後は人員を徐々に集めつつ、観音寺工場と合わせて、MIB活動で生産性を上げていきたいと思っています。
岡田氏: 労働生産性に関しては今期140%達成を目標にしていますが、最終的にはあくまで200%達成を目標に進めていきたいと考えています。現在、管理に注力していただき、人員の運用や余力の活人化というのは非常に進められてきていると感じています。設備面では、まだまだ改善できる部分が多くあると分析いただいておりますので、今後はそういった設備改善、投資に関わるような改善にも携わり、あくまで労働生産性200%に到達できるよう、さまざまな分析を行いながら取り組んでいきたいですね。
取材にご協力いただいた方
サヌキ畜産フーズ株式会社
代表取締役社長 増田 浩 氏
生産本部 本部長 坂田 隆一 氏
生産本部トンカツ事業部 部長兼本社工場 工場長 岡田 裕作 氏
PDFダウンロード
【コンサルティング事例】 サヌキ畜産フーズ様